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『夏休みの宿題』第三夜

【5年前】
理(さとし)と友里の結婚式の日。新婦の友里の準備を控え室前の廊下で待っていた。
そこに理の大学の大学の同期の公太がやってきた。
小声で理に話しかける。
「よっ!久しぶり」
「なんだよ」
「いや、なんでもない、ていうか今日はキマッてるじゃん」
「はあ?まあ今日はな。あいつは?」
「来るわけないっしょ」
「そうか。」
「あいつはそういう奴だよ。とういか何?やっぱ気にしてんの?」
「別に」

控え室からスタッフが出てきて
「新婦様のご準備が整いましたので新郎様お嬢様こちらへお願い致します」
理は「じゃ、あとで」と公太に言い鈴奈と控え室へ入って行った。まだ4歳の鈴奈に理が手を差し伸べる。
「鈴奈、鈴奈、おいで」
「……なに」
「お前のオカンのウェディングドレス姿だよ。一緒に見よう、準備ができたみたいだよ」
鈴奈は不思議そうな顔をした。控え室へ歩いてゆく。
「えぇ、おかあちゃまの?」
「そうだよ、お前のおかあちゃまがお姫様になる日だよ。きっと綺麗だろうよ」
「おかあちゃまがお姫様になるの?スズは?スズはお姫様にならないの?」
「今日の主役はおかあちゃまだよ、スズがお姫様になるのはもっと先さ、おかあちゃまにちゃんとおめでとうって言うんだぞ」
「おとうちゃまは?おとうちゃまは何になるの?」
「そうだな、俺は何かな…よく分かんねえけど…」
鈴奈は不思議そうな顔をして理を見る。自分の父親が凄く嬉しそうなのがよく分かった。
「何でもないよ、スズ。さあ、おかあちゃまとご対面しよう」

部屋のドアをノックする理。
「入るよ」
「どーぞー」
ドアを開けると真白のウェディングドレス姿の友里がいた。
「おおおおおおーーーーー」
2人が声を揃えて驚く。
理が目を合わせられず笑い出す。
「え?ちょっと、何よ!」
「あれー俺の嫁ってこんなにきれいだったっけって」
「当たり前じゃない!今日は特別なんだから!」
いつもと全く違う姿の母親を真剣な眼差しで鈴奈はじっと見つめる。見たこともない至上の笑みを浮かべる母親に少し戸惑った。髪をアップして純白のドレスを着ている。絵本で想像していたお姫様の様。いつか私もこういうドレスを着たいな等と考えていた。鈴奈はお祝いの言葉を母親に贈った。
「おかあちゃまおめでとう」
「すず、ありがとう。今日はすずと一緒で良かったよ。さあさあ、式がはじまるよ」
その時の母親の顔はいつもと全く違った。綺麗な綺麗なお姫様の顔だった。

「やっとこの日を迎えられたわ、本当に…ありがとう」「いや、そんな、まだここ泣くところじゃないよ?でも、うん。俺も嬉しい。この日を迎えられて。順番は前後してるけどね。」

理と友里はそっと手を重ねた。


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