見出し画像

プロ野球「アジアリーグ」に「夢」はあるか

「16球団構想」の話が出てきてから、
NPBと台湾のCPBLを統合した16球団制や
さらに韓国を交えたアジアリーグ構想の話も
再び見られるようになった。
この発想自体は
アイスホッケーがアジアリーグとなった時期
語られることが多かったのだが、
リーグとしてあまりうまくいってるとは言えないためか
最近はほとんど聞かれなかった。
まあ最近この発想をぶち上げた
夕刊紙や堀江貴文氏は、
正直なところ
それぞれ野球とは無関係の別な狙いがあったとしか思えないのだが。
アジアリーグ構想はそれぐらい非現実的な話である。

東アジアの平均年俸

というのも、両リーグの経営格差があまりにも大きいからだ。
2018年のCPBL平均年俸は61,200USドル
当時の為替レートでは673万円だ。
10年前の八百長事件の頃に比べれば
これでも劇的に改善されたようだが、
それでも支配下・育成を合わせた
平均が4374万円のNPBとはとてつもない差がある。

KBOもついでに調べてみたが、
2019年のKBOは1億9500万~9500万ウォン
現在のレートでは1700万~828万円にあたる。
平均は単純計算で1300万円程度だ。
CPBLの倍近くはあるものの、
こちらもNPBの平均はおろか
NPBの一軍最低保証とも言われる
1600万円に届いていない。
なお東北楽天の1年目は平均が約2900万。
NPBの平均が4150万の頃の話だから、
今に直すと3000万か。
またサッカーJ1は
日本人選手の平均が約2300万円、
全体では1人次元が違うイニエスタを除いても
2900万円になる。

つまり
NPB、CPBL、KBOには経営規模に絶大な差が生じている。
日本では高い高いと叩かれるNPBも欧米のプロスポーツに比べれば
絶望的なまでの格差がある
のだが、
NPBとCPBLやKBOにも同様のことが言えるのだ。

東アジアの観客動員

なぜこうなるのかは観客動員数を見るだけでもわかる。
2017年9月時点での平均入場者数はこうだ。

リーグ別平均観客数

CPBLはNPBを大きく下回るどころか、
マイナーリーグのAAAよりも少ない数字になっている。
たしかにCPBLのホーム球場は
多くても20,000人程度のものばかりだが、
それだけでは説明がつかない。
チケットを買って観戦できる人の数が限られているのか。
台湾は沖縄や静岡並に雨の多い地域なので、
試合の開催自体が安定しないのも
一因かもしれない。

これでも
CPBLの観客動員はかなり上がってきたほうである。

CPBL入場者数

最初の頃は多かった観客数は
2000年頃までに激減。
すぐ3,000人台に戻ったものの
2008年にかけて再び大きく減少した。
ここからは各球団の経営努力が実ったのか
各チームの売却をはさみつつも
観客動員数が大幅に増えたが、
現在はやや頭打ちといったところ。

リーグを統合するメリットは?

逆に日本が台湾を組み込む利点はないのかといえば、
全く思い浮かばないわけでもない。
16球団構想賛同者、
特に松山の誘致を強硬に主張する人たちが忌み嫌っている
人口
だ。
来年新球団が誕生する
新竹都市圏は人口110万人程度だそうだが、
台中や桃園では200万人を超えており、
台北(新北)都市圏にいたっては700万人を抱えているという。
偶然なんだろうけども、
楽天が買収したモンキーズのある桃園は
仙台とほぼ同じ都市圏人口。
つまり、
台湾側にまだ伸びしろが充分残っているとも考えられるわけだ。

ただしこれも見方次第。
本当にCPBLがNPBとの統合を打診したとすれば、
これだけの大都市を抱えているにも関わらず
CPBL側が国内での販路拡大に限界を感じていて、
活路を日本に求めてきた可能性
だってある。
その場合
現地の観客動員数をこれ以上劇的に増やすのは難しく、
台湾チームの経営規模をNPBレベルまで上昇させるのは
絶望的ということになる。

「アジアリーグ構想」のもう一つのパターン

経営規模にこれだけの違いがあるのでは
リーグを統合するのはほぼ無理だ。
統合されてしまうと
資金力のない台湾側が
在籍する選手に対して
「リーグ内での適正価格」を支払うことができなくなり

ただでさえ大きい長期的な戦力格差がむしろ広がる可能性は高い。
そうなると一方的な試合が徐々に増えて試合の価値が下がり、
元NPB側が共倒れになる危険性も上がるのだ。
こう言うと今度は
日本人にかなり多い(Jリーグなど他のスポーツにもやたらといる)
「プロ野球選手は金をもらいすぎだ」論者が
「適正価格を台湾並みに下げろ」と言いだすだろうが、
必死になって夢をなくそうとしているのは自分なのに
「夢がある」「野球人口の拡大を」などと
白々しいことをよく言えるものだ。

なら閉鎖型ではなく開放型リーグならどうか。
年俸や観客動員数を見る限り、
NPBは一部(J1やB1)、
KBOは二部(J2やB2)、
CPBLは三部(J3やB3)
といった具合に当てはめられる。
CPBLのみでも一部・二部だ。

だがこれだと今度は台湾側のうまみがなくなる。
日本市場の開拓を狙っての統合のはずなのに、
肝心の日本チームとの試合がなくては意味がないし、
「トップリーグ」から「下部リーグ」に
事実上降格してしまっては完全なイメージダウンだ。
リーグの昇降格を自動にしたとしても
恩恵を受けられるのは1チームだけ。
しかも選手獲得が自由競争になるから、
両国の収益の差が
そのまま戦力差となる確率はさらに上昇するのだ。
一部が日本12か日本11+台湾1チーム、
二部が台湾5か台湾4+日本1チーム+αの
ローテーションが延々続くのでは
お互い何のために統合したのかわからないじゃないか。

台湾代表はたしかに強い。
だがどちらのリーグ形態で統合したとしても、
その台湾代表選手のほとんどが
日本のチームかMLBに在籍している事態になりかねない。
これでは代表戦の結果には好影響が出ても
台湾のプロチームのメリットがほとんどなくなる。
…なんだかサッカー秋春制の話と近くなってきたなあ。
日本側にとっても
台湾市場の開拓と引き換えに
どれほどのデメリットが押し寄せてくるか。
一見夢がありそうに思わせて
実際には現状の16球団構想以上に夢が見えない

それが「アジアリーグ」なのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?