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プロ野球で「暗黒期」を欲する人たち

「暗黒期」の定義が崩れるとき

プロ野球では
あるチームが何年もの間
優勝争いに絡むこともなく
最下位や大差でのBクラスが続くことがあり、
一般的にこれらの時代は「暗黒期」「暗黒時代」と言われる。
ただ
たった1年とはいえ激しい優勝争いをした
1992年阪神や2014年オリックスも
たいていは「暗黒期」に含まれているので、
最終的には数字よりも
ファンや野球関係者の感情の部分が
大きく出ているようにも見える。

さて
この「感情」が前面に出てしまうと
「暗黒期の到来を防ぐ」を口実に
「暗黒期を作り出せ」と主張する人が
やたらと出てくるのはなぜだ、
というのが今回の話。
その内容は
「このままだと暗黒期が来る。
だから数年最下位でもいいから若手だけを使い続けろ」に
ほぼ定形化している。
ここでの「数年」は1、2年程度じゃなく概ね5年だ。
もっとも1、2年程度を想定している人も
「20歳前後の選手を一軍で1、2年使えばみんなすぐ一流になる」と
思ってる時点で人間語が通じないわけだが。

だがこの
「暗黒期を防ぐために
数年最下位でもいいから若手だけを使い続けろ」は
どう楽観的に考えても
異常な点が3つはある。

「暗黒期」回避のために「暗黒期を作れ」?

まず「数年最下位でもいいから」がおかしい。
「数年最下位」といえば「暗黒期」そのものであって
「『暗黒期』を防ぐために『暗黒期』になれ」は
発言があまりにも矛盾している。
「20歳前後の若手を使っている『暗黒期』は『暗黒期」ではない」
とでも言いたいのだろうか?
たしかにMLBやNFLなどでは
数年後に備えた主力放出と若手起用をするチームも少なくなく
この場合「再建期」と言われるが、
5年も想定するのはさすがに長期計画の範囲を超えているように見える。
長くてもせいぜい3年がいいところじゃないだろうか。
何よりもMLBだと
「再建期」から上位を狙う際、
若手の伸びがいまいちなポジションには
実力のある中堅・ベテラン選手をしっかり獲って補うし、
NFLならドラフトで若い即戦力をかき集めつつ
FAやトレードも積極的に有効活用する。
トレードやFAが活発ではなく
以上の補強手段がかなり乏しいうえに
生え抜き高卒若手至上主義のファンや評論家などが多いNPBとは
状況が全く異なるのだ。

「若手」認定の条件

次は「使え」と言われる、
あるいは「なぜ使った」と言われる「若手」についてだ。
「若手」の定義が非常にあいまいなのは
特に広島の「若手厨」の話で書いたけども、
この傾向は今回の「若手」にも当てはまる。
まあこういう暗黒期を求めるのは
そもそも「若手厨」に多いのだから当然だわな。

だからここでの「若手」認定の基準は年齢ではない。
23歳の大卒1年目と高卒5年目や
25歳の大卒社会人1年目と高卒7年目では
あくまで「若手」は後者だけで
前者は後者の起用を阻害するロートルとしか扱われないし、
高卒社会人1年目の22歳と高卒9年目27歳でも
「若手」はやはり後者だけ、
前者は使われるたびに「愛人」「隙あらば」などと叩かれる。
これは現在だけじゃなく
過去の「暗黒期」を批判する場合にもよく見られ、
大卒や社会人出身の選手が早くに一軍に定着しても
「若手を抜擢した」とは言われず、
ドラフトでは高校生以外を獲得したこと自体が
「暗黒期」の原因の一つとして
ファンやドラフト評論家から批判され続ける。

「若手」は「使えば育つ」?

もう一つの異様な点は、
彼らが「『若手』は使えば絶対に育つ」と
思っていることだ。
こう言うと彼らはすぐにこう反論するだろう。
「俺様は『使えば育つ』とは言ってない。
『使ってみないと育つかどうかわからない』と言ってるだけだ」と。
だがこれはだ。
彼らが「使えば育つ」と思っている最大の根拠、
それは使っても
「育たなかった」なら「首脳陣や編成、FA選手のせい」、
「チームは強くならなかった」なら
「抜擢そのものが無かったこと」にするから。
つまり彼らは
「使ってみないと育つかどうかわからない」の裏返しである
「使っても育たないことはよくある」事実を
全く想定しておらず、
全て他人のせいにするか現実から目を背ける
のだ。

「首脳陣や編成、FA選手のせい」は
暗黒期のチームに限らず
「起用しろ」と叫ばれる若手全般に共通していて
枚挙にいとまがないから
ここでは改めて触れなくてもいいだろう。

後者だとわかりやすいのはこの選手たちだ。

By一例

この4人は
横浜の中でも暗黒期とされるTBS時代に
21~22歳とわりと早い段階で起用され、
この抜擢の後もレギュラーとして実際に使われた。
つまりそれなりかそれ以上に伸びた高卒選手たちである。
だが暗黒期横浜の中でも評判の悪いTBS時代では
こうした抜擢の事実すらなかったことにされ、
「目先のベテランばかりを重視した」などと叩かれている。
まさか某ドラフト評論家が
「若手抜擢」の基準に
規定打席到達と高いハードルを設けているのも
「暗黒期の抜擢をなかったことにしたいから」じゃないだろうな。
だがこの高い基準を用いれば、
たとえば初の規定打席到達が8年目だった内川の起用を
「高卒選手の抜擢が遅すぎる」とすり替えることができる。
実働8年で取得できる国内FA権を
規定打席3回目の10年目オフに行使した事実も
全て葬り去ることができるのだ。
我ながらひどい陰謀論だと思うけども
まさかねえ。

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