新卒で入社した会社の話12
副島が辞めた1ヶ月後に、40代の派遣社員・植村が来ることになった。
とても落ち着いた印象。その人の周りだけゆったりと時が流れているように見える。独身の実家暮らしで、休日はピアノを弾いたりしているそうだ。
仕事ぶりは、印象と同じく、とても丁寧でとてもゆっくりだった。
流石に大きなミスはないものの、一つ一つの動きがゆっくり過ぎて、対応できる件数があまりにも少なかった。
まぁ初めだしそんなもんなんかな、、と思っていたが、一向にスピードが速くならない。
この職場は、1分に1件電話が鳴るようなところだ。
それを3人で捌いて行くことになるのだが、植村は15分に1件電話を受けるものだから、結果的に副島と同じで0.5人分しか働けていない。
結局、この上村に関しては、1ヶ月も持たず退職してしまった。
こんなに忙しい職場に今までいたことがなかったため、ついて行くことができないとのこと。
40代にもなって、ゆったりした職場にしかいたことがないなんて、どんな幸せな人だよと心の中で毒づきながら、植村の退職を待つことになった。
時は年度末。
人事異動の時期である。
私にとっては喜ばしいことではあったが、自己中な営業マン・開出が退職をするそうだ。
開出は元高校球児で、甲子園に出場経験がある。かつ、エースピッチャーだったそうだから、いつまでも過去の栄光に縋ったような、めんどくさいおっさんだった。
とにかく自分にとって都合の良い人にはペコペコしたてる。
私のような身分の低い人には、奴隷以下のような接し方をしてくる。
そんな開出を含む3名が営業所を去ることになり、送別会をすることになった。よりにもよって、幹事に任命されたのは、私と今年から正社員になった葦名。
葦名は大学を卒業後、就職が決まらなかったそうだが、父親が本社のお偉いさんだかなんかで、入社したいわゆるコネ入社の人。
契約社員での入社だったが、今年から正社員になった。
葦名自身は正直明るくてみんなの人気者タイプではないが、みんな葦名の父親が偉い人だということを知ってか、割と可愛がって面倒見ている感じがした。
確実に葦名の方から動くようなことはないだろうと思い、私から葦名にお店やら相談しに行った。
「あ、もうどこでもいいと思います」
想定内の返事ではあったが、言われた通りにいつもこういう時に使われる店を予約をとった。
年度末だったということもあり、とてもバタバタしていた。
そんな時に、課長の酷(ひど)が、
「送別会のお知らせ、はやく送ってくれないとみんな困るだろ」
日程もみんな知っているし、場所もすでにいろんな人から聞かれたから口頭で伝えている。
送っていないのは確かに悪かったが、まだ3週間前。
何より、ここまで予約やら段取りやら全部やってきたのは私なのに、どうして葦名には一言もそんなこと言わないのだろう。
沸々と煮えたぎる思いと共に、
絶対にこの会社で参加する飲み会はこれで終わりにしてやる
と思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?