Tシャツを着てもビッグにはなれなかった
シャワーを浴びていた元カノに「歯磨き粉とって」と言われ、まちがって洗顔クリームを渡したことがある。数分後、「なんかヒリヒリするんやけど!!!」と元カノがシャワールームから飛び出してきた。
彼女が身につけていたのはバスタオル1枚。見惚れていると、おもいっきりみぞおちをグーパンされた。めっちゃ効いた。
この失敗からは、人のみぞおちをグーパンしてはいけないと学んだ。
くだらないものも含めると、ぼくはなかなかの数の失敗を経験している。その数だけ学びがあると信じて、今日は人生のターニングポイントとなった失敗のはなしをする。
開き直ってTシャツを着た
今から3年前、26歳の頃。ぼくは自分の身長の低さに劣等感を抱いていた。
昔からそうだ。健康診断で背の順に並ばされるのが苦手だった。列の後ろから、文字通り見下されているような気持ちになった。
そんなぼくが出会った、1枚のTシャツ。
半袖で、色は鮮やかなコバルトブルー。胸の中央には明るいイエローで「BIG」と書かれている。
しかもBIGの真ん中の「 I 」がクワガタのイラストで表現されている。かわいい。
身長の低さには劣等感を抱いている。でも背の低いぼくが、「ビッグ」と書かれたTシャツを着るのはなかなかおもしろいかもしれない。この際、開き直って、自分からさらけ出してみるのも良いかもしれない。
そう思い、ぼくは「ビッグTシャツ」を買った。
相変わらず背が低い自分は好きになれなかったけれど、「買ったからには!」といろんなところへ着て出かけた。
あるときは水族館。
またあるときは、苦手なカラオケ。
ひつまぶしだって一緒に食べた。
ビッグになれなかった
「背が低いのにビッグって書いたTシャツを着てるんだよ」なんて、自分で言うのはダサい。
だからぼくは待っていた。
そう言われる日を。
そのチャンスは、会社の同期が集う飲み会で巡ってきた。集合時間より早く着いたので中で待とうと店に入ると、既に女の子が1人来ていた。
軽く挨拶を済まして席に着くやいなや、彼女が言った。
「そのTシャツかわいいね!」
……きた。
待ってました、その言葉。
あと一押し!!もう一声!!!なんならこちらから「背低いのにTシャツはビッグやねん」と言ってしまおうか。
考えを巡らさせている最中、彼女が続けて言った。
「真ん中のクワガタもいいね。ゆるい表情が凄くかわいい。まさにバグって感じ!」
……へ?
ば、バグ???
なんと、ずっと”BIG”だと思っていたイラストは、「小さい虫」という意味の”BUG”だった!!!
「え、これ、、バグって読むん…?」
「だってクワガタは虫じゃん!」
「バグって、え、そういうことなんか、、、」
「ずっとビッグだと思ってたの?(笑)」
見せても良い弱点
「ビッグ」と書かれたTシャツを着ていたつもりが、むしろ正反対の「小さい虫」だった。
なんとも恥ずかしいはなしだが、この失敗こそ、ぼくの人生におけるターニングポイントだ。
先ほどのはなしには続きがある。
「ずっとビッグだと思ってたの?(笑)」と言われた後、彼女はこう言った。
「背が低いの、良いと思うけどなー」
——26年間、誰にもそんなふうに言われたことがなかった。
背が低い自分を、自分でさえもきらっていた。
人よりも劣っている部分だと思い込んでいた。
この経験をしてから、ぼくは劣等感を「個性」として認めることができるようになった。
もう少し正確に言うと、自分の中にずっとあった
「見せても良い弱点」を好きになれた。
誰もが一度は感じたことがある「劣等感」。
劣等感は、「あんなふうになりたい」という理想の裏返しでもある。
その理想とのギャップを埋めようと努力するから、人は成長できる。でも毎回じゃない。どうにもならないときだってある。今から身長が10cm伸びることはない。
そんなふうにぼくは諦めていた。そして背が低い自分をきらっていた。
でもこれは、間違いだった。
きらう前に、「個性として好きになれないか」と考えてみるべきだった。
そうして自分の中の「見せても良い弱点」だと思えれば、少しだけ目の前が明るくなる。
目の前が明るくなると、いつもより胸を張って歩けるようになる。noteのクリエイター名に「165cmのホテルマン」なんて書けるようになるし、遊園地の身長制限を見つけると自ら進んで測りにいけたりもする。
Tシャツを着てもビッグにはなれなかった。
でも前より少しだけ、自分のことを好きになれた気がしている。
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