見出し画像

No.6 土(soil) 2023年2月

“しみぢみと地(つち)にしたたる雪どけのあまねき響 四方(よも)に起れり” 旅をこよなく愛した漂泊の歌人若山牧水が立春の季節に詠んだ歌です。 静寂の中に響く「音」と「色」のコントラストを鮮やかに描いています。
しかしこの歌の一方の主人公は「地(つち)」です。牧水が大正10 年( 1921 年)に発表した大地を詠んだ歌集「くろ土」の代表作でもあります。
「土」をテーマにした日本の傑作と言えば、長塚節の「土」、和辻哲郎の「風土」などが他にもあげられますが、いずれも「土」とは単なる自然環境の一要素ではなく、そこに宿る生命、とりわけ長い時をかけてその上に育まれた植物とも相まって、その土地に生き、暮らす人間の精神構造と不可分な存在であることを物語っています。
水や雪が土に染み込み、また岩や砂が土に姿を変え、植物や微生物が土に腐食していくように、土は全てを受け止め、変幻しながら、またその恵みを大きなサイクルの流れのもと、私たちを含む生きとし生けるものに返しているのです。
地球と太陽系の他の星を比べた時の大きな違いの一つは、地球に土はありますが他の星や月には土が無いことです。
そこには砂や粘土の堆積層は存在しますが、土には成れません。
地球も 46 億年の歴史の中で、 41 億年目まではやはり土は無かったのですが、生命が誕生し生物(植物や苔や羊歯や黴や微生物や動物)の遺骸が、砂や粘土の上に積り、混ざり合い、5 億年かけて土が作られてきたのです。
創世記(旧約聖書)では、 1 日目に神が天と地を創り、 3 日目に大地を創り、6 日目に土から人を創ったと言います。 科学的にもそして宗教的にも、我々人間は土から生まれているという物語には相違が無いのです。
しかし、我々(人間)は今、土に何を還元しているのでしょう
か? 果たして土を創る壮大なドラマに貢献をしているのでありましょうか?

ライフシフト大学7 期生がこの 2 月に卒業を迎えます。 「書を捨てよ 旅に出よう」という私の好きなフレーズがあります。
学びから実践! コンクリートジャングルの中だけに居ては決して感じるこ
との無い地(つち)を雪解けと共に見つめ直し、自らの拠って立つ大地に新たな根を拡げていく時の訪れです。

コロナ直前の 2019 年 2 月に屋久島で撮影した豊かな土壌に根を張る屋久杉の巨木(筆者撮影)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?