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雁の群れに学ぶ自己組織化

2020年版のスクラムガイドからは削除されてしまいましたが、スクラムチームは「自己組織化されて」いることが必要だと書かれていました。現在は「自己管理」に統一されていますが、ジェフによると言葉遣いが少し難しかったとかなんとかという理由だとかなんとか。とはいえ、アジャイル開発やスクラムの実践には変わらず重要な考え方なので、今回はここを解説してみようと思います。

雁の群れ

上の写真に使った「雁の群れ」は、私が研修などの際に「自己組織化」の象徴としてよく使うメタファです(ちなみにKenneth Rubinの「エッセンシャル・スクラム」でも雁の群れが出てきますが、説明がだいぶ異なります)。雁たちは写真のようにV字型の編隊を組んで飛ぶことがよく知られていますが、これは先頭の雁が空気を切り裂いて、後方にV字型の目に見えない空気の波を作り、後続の雁たちはその波に乗ることで少し楽をすることが出来るからだと言われています。

先頭はどうなのよ?

では、先頭の雁はどうなのでしょう?ひとりで空気を切り裂いて飛ぶため先頭の雁は他よりも余計に体力を消耗するはずですよね?彼/彼女は突出して体力に優れた個体なのでしょうか?あるいは群れのリーダーとしての責任感でがんばっているのでしょうか?

先頭は常に入れ替わっている

実は、先頭は常に入れ替わっています。先頭の雁が疲れて群れのスピードが落ちてくると、後方の雁が積極的に羽ばたいて先頭に立ち、次のリーダーとなります。これを繰り返して雁たちは群れ全体のスピードを保つのです。この行為は、誰かに指示されたわけでもなく、各個体が自発的に行うと考えられています。つまり、彼らは自分たちで群れの状態を感じ取り、自ら群れの構造を変えることで群れ全体の利益を担保しているのです。

つまりこれが、スクラムガイドなどで言う「自己組織化」です。

あるチームの場合

なのですが、あるときこの話をある大企業のチームにしたところ、「LSAさん、その自己組織化、ウチのチームでやったら、みんな楽をしたがって後ろに後ろに行きたがって、しまいには群れが後ろに進んじゃいますよ(笑」と言われてしまいました。それを聞いて私はとてもガッカリしたのですが、ではなぜ雁の群れは前に進むのに、そのチームは後ろに進むなどと言ってしまったのでしょう?

大事なのは目的意識

答えは目的意識だと考えています。雁の群れは、例えば最終的に越冬地に辿り着くとか、あるいは日暮れまでに今晩の寝床に辿り着くとか、そういった「目的」に群れ全体がコミットしているのです。それが叶わないと、食事にありつけなかったり繁殖が出来なかったりと言った苦境に陥ることを彼ら全員がわかっているのです。おそらく本能レベルで。彼らの全体最適な行動様式はこれで説明ができます。

一方でその大企業のチームは、「まあこのプロジェクトが失敗しても会社は潰れないし、オレたちもボーナスちょっと減るかも知れないけど、まクビにはならないだろうし」とでも思っているのでしょう。彼らにとっては、少しでも楽をすることこそが、局所的には合理的な行動なのです。

まとめ

自己組織化は、現場のチーム一人一人が目的意識を共有し、現場で意思決定をし続けることで、チームが状況変化に即応することを可能にします。私はこれが、アジャイル開発の目指す姿であり、アジャイルな組織としての要件であろうと考えています。


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