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世界一周前日log

出発前日の記録です。副題はReal Face。筆者は平成1桁生まれです。

今日一日で何度、更新ボタンを押しただろう。
本来であればパッキングや現地の情報取得に忙しいはずであった世界一周出発前日、私は佐川急便のお荷物問い合わせサービス画面を必死に更新し続けていた。「配達予定日」の欄は発送メールが届いた3日前からずっと変わらず「-」のままである。

*

世界一周中にメインカードとして使うつもりだったクレジットカードの更新受け取りができないことに気付いたのは、1週間前のことだった。
有効期限が間近なことは、2か月ほど前にカード会社から送信された「新しい有効期限のカード発送前のご連絡」のメールの件名で把握していたが、心の慌しさにかまけて、内容をしっかり確認しなかったのが良くなかった。何となくすぐ受け取れるだろうと思い込んでしまった。

白状すると、積年の夢の実現を目前にして私は何故だかすっかり気が抜けてしまっていて、ここ3か月はぼんやりとスマホでショート動画を見続ける生活をしていた。来る日も来る日もスワイプ。可愛い犬猫の動画、配信者の切り取り、海外旅行Tips、エトセトラ。しかも無職なのでそれは長時間に及ぶ。廃人のようである。人生や仕事で嫌なことがあっても「世界一周のために」で踏ん張れていたのだから、本当の「世界一周のために」ならどんな事でもできていいはずなのに。現実逃避のようなものだろうか。

とにもかくにも直前になり、ふ抜けた腰をあげてメールを確認してみたところ、カードの到着はなんと3月末ではないか。私の出発日は3月中旬。しかも、早めに受け取りたい場合の申請期限は2月末まで。現在は3月。カード会社のサイトにも「期限を過ぎての手続きはできません」とデカデカとした文字で書かれている。
詰んだ。
クレジットカードは何枚か所持しているが、世界シェアナンバーワンを誇るVISAブランドのカードはその一枚だけだった。さすがに50%のシェア率は無視できない。
顔面蒼白。現地で何も買えずに野垂れ死ぬのは嫌だ。頑張って貯めたのでお金はあるというのに。。

考えたり調べたりした末の選択肢は3つ。

1、出発を延期して受け取るか?ただし航空券とホテルのキャンセル料は2万円。無職には痛い金額だ。
2、実家で受け取りを頼み、宿泊先のホテルに郵送してもらうか?でも紛失時のリスクが怖い。どうなるかわかったものではない。。
3、即日発行と噂のクレジットカードを契約するか?ただしここはクソ田舎の山間部で私は無職。どちらかが原因で到着が間に合わなかった場合、キャンセル料はさらに直前になるため倍額に。

普通の人なら迷わず1だろう。出国後に待ち受けるのはトラブルとリスクだらけの無計画な世界一周の旅だ。わざわざ開始前に大きなリスクを取る必要はない。だが私はギャンブラーになりたい、そして堅実にもなりたい。マネスキンよろしく。両方をとるなら3だろう。
ということで、私は一週間ほど気もそぞろな日々を送ることになった。ただでさえ初めての海外で緊張しているのに。こうなると同行者がいないのが救いである。

そのようにして出発前日。
早朝、関西の中継センターに配達されたらしい私の世界一周の命綱は、午後になってもまだ届く気配がなかった。翌日はクソ田舎からクソ僻地にある空港に早朝から向かわなければならないので、今日が実質的なタイムリミットであった。
受け取りができなければ5万を払って飛行機とホテルをキャンセルしなければならない。絶望するなら早い方がいい。無機質なハイフンで飾られた「配達予定日」の真の姿を知るため、私はサイト内の更新ボタンを5分間隔で押し続けた。もし、これが古の時代で、問い合わせ方法がサイトではなく電話だったなら、佐川急便側は私を着信拒否していたに違いない。令和でよかった。

そしてついに、時はきた。14時半、近くの営業所へ配達された情報とともに、配達予定日欄に今日この日の日付が表示されたのである。
瞬間、脳内では溢れんばかりの快楽物質の放出とともに、『ギリギリでいつも生きていたいから〜Ah〜♪』の曲が再生された。

そして私は今、タイのバンコクにいます。


ありがとう、エポスカード。この恩は必ず海外から返済でお返しします。手数料とともに。

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