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プログラム医療機器業界の変貌の舞台裏

こんにちは、LPIXEL のファウンダー島原です。
LPIXELは2019年に深層学習を活用したプログラム医療機器で初めての薬事承認を取得したと言われています。
承認取得にあたり、手探りの状況で助けを求めたり、苦労を重ねたりもしました。その経験を通じて、政治・行政の各方面から問題点のヒアリングを受け、提言をする機会に恵まれてきたのです。今日は、その過程でプログラム医療機器業界が動いたと感じた転換点と、その背景について話したいと思います。

法規制対応は主体的な仕事

2016年、医療AIの研究開発の黎明期に、私たちは初めて本格的な資金調達を行い、研究開発を推進、未破裂脳動脈瘤の候補域を検出するAIのプロトタイプが完成していました。
私たちは迅速な製品化を目指し、医療機器としての承認を得るために、様々な行政関係者と議論を重ね、出口から逆算して準備を進めてきました。
私は医療機器の承認プロセスについては全く知識がなかったため、行政の方々や薬事の専門家から多くのアドバイスをいただきました。しかし、当時はAIやプログラム医療機器の知識がある方は少なく、機械学習の説明で止まってしまうことや、深層学習の学習過程がブラックボックスであることの説明に苦労することもありました。

初めは、薬事や法規制対応はルールに従って申請するだけだと思っていましたが、適切な回答を得るためには、相手の理解を助けるような質問をする必要があることを学びました。
そのためには、自社で法規制対応チームを組織し、相手の関心点を理解し、主体的にコミュニケーションをとるチーム作りが重要でした。その結果、自らが医療機器の特徴として主張したいポイント、使用目的やその有効性と安全性を整理し、能動的に同意を得る姿勢のチームを作ることができました。
現在では「我々が開発したものはこうです。そのため、医療機器としての特徴をこのように主張できると考えています。その有効性と安全性についてはこういう試験をして結果を得ています。承認をお願いします」という形で進めています。
新しいことに挑む際は、法規制対応も主体的な仕事であること、そしてそれが会社の核となる部分であることを理解することが重要だと思います。

プログラム医療機器業界が動いたとき

医療機器承認取得後、他の企業からの LPIXEL の薬事申請資料の開示請求が止まらず、多くの企業にとって参考になったことかと思います。また、行政や政治関係者からの応援もあり、内閣府の規制改革推進会議でのサポートは特に励みになりました。2021年4月には、同会議で要望を提言する機会をいただきました。

その場で、韓国と比べて日本の医療AIやプログラム医療機器産業の遅れ を説明し、データの利活用促進や臨床試験(*1)の簡略化を提案しました。その結果、同年には「AIを活用した医療機器の開発・研究におけるデータ利用の実態把握と課題抽出に資する研究」が厚生労働科学研究費で支援され、続く令和3~5年度にも同様の研究が行われました。 私もその一員として参加しています。

臨床試験の簡略化に関する要望については、その約半年後に生活衛生局医療機器審査管理課から通知が発出されました。患者カルテや検査レポート、確定診断の情報を参照して既存の医用画像データを利用した性能評価試験(*2)が、いわゆる治験(*3)に該当しないことが明示されたのです。これは 「治験に該当しない臨床試験」と「治験として行う場合の臨床試験」 では開発費用全体に大きな差があるため、非常に重要な変化でした。
この通知により、プログラム医療機器における臨床試験が大幅に改善されたことを理解していただければ幸いです。詳細に興味のある方は、実際の通知をご覧ください。

*1:臨床試験とは、人(患者や健康な人)を対象とした、医療機器や医薬品 の有効性・安全性を評価することを目的として行う試験のこと
*2:治験とは、医薬品、医療機器、再生医療等製品の承認申請に添付する資料として、薬物、機械器具等、加工細胞等を実際に使うとどのような効果や副作用があるかを臨床試験で確かめ、そのデータを集めること
*3:性能評価試験とは、 医療機器の意図する用途を達成する能力を確立または検証するためにデータを分析し評価すること

以上が、プログラム医療機器の承認取得の苦労と、それによって政治行政が動いた実例です。日本が海外諸国と比べ、医療AIやプログラム医療機器業界で後れを取っているのは残念ですが、変化を牽引し、積極的に改善に取り組む人が増えることで、世界は変わる可能性があります。微力ながら、私もその力になりたいと考えています。

LPIXELでは医療AIの普及に向けて、研究開発から製品開発、法規制対応、販売促進まで、少数精鋭のチームでスピーディに取り組んでいます。少しでも興味を持った方は、お気軽にご連絡ください。

文:島原 佑基


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