子哭き寺③
寺務所
私は飛び込むように転がり込み、引き戸を思い切り閉めた。間一髪、青い目玉が激しくその戸を叩いてくる。
”ドンドンドンッ!”
「なんなのよっ!!」
私は戸を必死で押さえて、目玉の侵入を阻止する。だが、ガラスの割れた格子の隙間から目玉がぎょろりと私を見ながら、今にも戸を破壊する勢いで叩いてくる。木の格子がヒビ割れ
”ドンドンドンッ!バリッバリ!”
と、今にも壊れそうになっていた。私は辺りを見渡し、長く太い木の棒を見つけた。
「あっ!これで、こうして・・」
その棒を引き戸にはめ込み、固定することに成功した。
”ドンドンドンッ!”
と青い目玉が睨みつけながら、戸を叩き続ける。
私はその間に狭い廊下を寺務所の奥へと走った。振り返る暇などない。あの恐ろしい怪物がいつ入ってくるかもしれないのだ。
私は走りながら、LEDライトで寺務所の中を照らす。古くこげ茶色の木の梁に木の板で出来た天井が写し出され、古い木造の日本家屋の土と木、それにカビの匂いが立ち込めている。
土壁は至るところで禿げかけており、所々、木の棒が突き出しているのが分かる。畳もまた腐敗が進んでおり、大きな穴が至るところに開いていた。
私は、ゆっくりとその穴を避けながら、奥の部屋へと進む。湿気の帯びた空気と積もった埃が舞い上がる。ここは、おそらく座敷になるのだろうか。
掛け軸でも掛けてあったはずの壁には大きな穴が開いており、壊れた木製の台が粉々に散乱している。
私はそっと、その部屋を通過し、奥へと歩いていた、その時だった。
突然、この寺務所全体に大きな振動が起こったのだ。腐敗した畳が揺れて、天井から埃と黒い煤が落ちてくる。私は畳の上に崩れ落ちて、激しく咳込む。
「ゴホッゴホッ!な、何っ!どうしたって言うの?」
上から青い光が射しこんでいるのが見える。私が咄嗟に天井を見上げると、屋根の隙間から二つの青白い目玉が覗いているではないか。
「しまったっ!見つかった!」
私は動揺した。と、その瞬間だった。畳の中央に白い浴衣を着た髪の長い女性が立っていたのだ。目がくり抜かれ、口から血を流した若い女が私に手招きをしている。
「えっ!何っ!」
私はあまりの恐怖に立ち竦んだ。鼓動が激しくなり、鼓膜の奥から聞こえてくる。額の油汗が鼻筋を迂回して落ちていく。
その時だった。寺務所の天井から下へ落ちてくるような振動が響き渡った。青白い目玉が天井を揺さぶり、埃や藁や木片が落ちてきて、辺りの柱が何本か倒れた。
「きゃあ!!」
このままでは寺務所の下敷きになってしまう。その間にも長い髪の女は手招きをし続ける。私は女の方に駆けだした。
すると、どうだろうか。畳が裂け、私は宙に浮いたのだ。私の身体は垂直に落下する。
「うわあぁぁぁ・・」
私はあっと言う間に地面に叩きつけられ、後頭部を鈍器で殴られたかのような鈍い音が私の脳に響いた。寺務所の崩落は続き、屋根が崩れていく音だけが私の脳裏に記憶を残した。
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