オレは、このヘビが何かを知っていた。 最大10メートル近くになる、アミメニシキヘビである。 この部屋にいるアミメニシキヘビは、まだ成長しきっていないにしても、5メートル以上はありそうだった。 この大蛇が潜んでいたため、オレは、この部屋に、奇妙に怖い、違和感を覚えていたのかも知れない。 その大蛇の胴の部分が、一ヶ所大きく膨らんでいた。 飲み込んだエサの膨らみである。 その膨らみは、ちょうど人間ほどの大きさがあった。 ……まさか、吉沢さんが! オレは何か武器
上はワイシャツ、下はパンツだけの姿になったオレは、腰にビッグサイズのバスタオルを巻き、大人しく膝を合わせて、キッチンの椅子に座っていた。 どぶ川にはまった、小学生のようなかっこうである。 濡れた革靴は新聞紙で包まれ、玄関に置かれている。 靴下とズボンは、洗濯機の中でぐるぐると回っている。 スーツは、吉沢さんが軽く水拭きをし、乾いたタオルで湿気を取った後、ハンガーにかけてくれた。 靴下とズボンが洗濯、脱水され、乾燥が終わるまでがチャンス・タイムなのだろうが、妄想の世
それから一ヶ月後。 穴倉の向こうから、ショッキングなニュースが届いた。 キンキン声の平野と、腰掛けを公言しつつ、なかなか席から立つことのできない宮地の会話が聞こえてきたのだ。 「ねえ、宮っち。聞いた? 久美子って同棲してるんだって」 「ウソ! マジ?」 宮地がオレの心の声を代弁してくれた。 鼓動がバクバクと早くなる。 「どんな人なの?」 「ジェイっていうんだって?」 「マジ? 海外の人なの?」 「ジェイで日本人だったら、相当、イタイでしょ」 二人が小
「私ね、一人暮らしをはじめたの」 後ろから聞こえてきた声に、思わず振り返りそうになった。 吉沢さんの声である。 オレにとっては、心地良く耳をくすぐる声だ。 うちの会社は、ビルのワンフロアを幾つかのパーテーションで区切って使用している。 オレの背後にもパーテーションがあり、その向こうは、給湯器とシンクが設置されている。 パーテーションと食器棚、ビルの壁で作られたそこは、独立した穴倉のような作りになっているのだ。 そこに入ると安心感があるのか、ついつい女子事務員
由奈ちゃんは、いつもバクちゃんと眠ります。 バクちゃんは、ぬいぐるみです。 由奈ちゃんが、お化けの夢をみて、眠ることがこわくなったとき、大好きなパパが買ってきてくれたのです。 「由奈ちゃん。 この子はね、バクという動物のぬいぐるみなんだよ」 「バク?」 「バクはね、こわい夢や、わるい夢を食べちゃうんだ。 だから、この子と一緒に眠れば、もう、こわい夢をみることはないんだよ」 「ほんとに?」 「もちろん」 (もちろん) 由奈ちゃんには、パパの声だけでは
日曜日。 公園を散歩する私の耳に、女の子たちの言い争う声が聞こえてきた。 「これは、あたしのよ!」 「いや。あたしも使うの!」 見ると、二人の女の子が、一本の竹ボウキを取り合っていた。 小学校の一、二年生といった子供である。 公園に散っている落ち葉を、どちらが竹ボウキを使って掃き集めるかで、もめているようであった。 落ち葉集めの掃除でも、子供にとっては楽しい遊びなのだろう。竹ボウキが一本しかなければ、ケンカにもなる。 「だめよ。ケンカしちゃだめよ」 近寄っ