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映画レビュー:竜とそばかすの姫★★☆☆☆

──禁酒8日目の酎 愛零が「竜とそばかすの姫」を観て感想を書く話── 



 これ美女と野獣要素ほんとに要る?


 どうも、禁酒8日目の私です。

「竜とそばかすの姫」を観てきました。

 封切りからしばらく経ち、賛否両論ある映画として評価されている映画ですね。細田守監督がディズニークラシックス「美女と野獣」のファンであり、そのオマージュを散りばめた映画ということで、同じく「美女と野獣」を愛し、ディズニークラシックスの最高傑作として崇拝(次点は「ノートルダムの鐘」)している私としては、これは避けては通れないと思い、レディースデーたる本日水曜日に映画館に足を運びました。(※7月にレディースデーは廃止され、現在は「水曜シネマデー」という名前で性別関係なく割引されていました)

 結論から言いますと、5点満点中、2点。

 私にとってはかなり不満の残る映画でした。不満と言いますか、合わないものを2時間以上観たことによるちょっとした苦痛と言いますか。途中で時計を見て(まだある……)と思ったこと2回。これは完全に監督と感情の位相が合わないな、と思いました。以下に、良かった点、受け付けなかった点を挙げていきます。なおこれは完全に個人の主観になりますので、この映画を全肯定したい方、全否定したい方は、ブラウザバックでお戻りください。


■良かった点

・楽曲
 文句なしの一級品です。楽曲自体もさることながら、それを挿入するタイミングも悪くありませんでした。この楽曲のために映像を創ったな、という場面が随所に感じられました。

・映像(Uパート)
 美しいの一言です。これは映画館で見るべき映画です。仮想世界Uが目の前の大スクリーンで展開されることによって、没入感が高まり、自分もUの世界に存在しているような気分になります。

・キャラクター造形(CGパート)
 ヒューマノイド型、非ヒューマノイド型を含め、あまり日本のアニメではお目にかからない造形です。それもそのはず、CGキャラクターのデザインはディズニーのスタジオでデザインしていたスタッフさん。私は非常に好みでした。

・メッセージ性
 前述の3つよりは落ちますけれど、監督が映画に込めたメッセージは十分に伝わってきました。特に、ラスト手前のあのシーンは、あれを描きたかったからこの映画を作ったのでは?と思えるほど心震えるシーンでした。


■受け付けなかった点

・はしょりすぎ
 あるいは「詰め込みすぎ」。描きたいシーンが優先なのか、キャラクターの最低限の紹介すらできていない面があります。そのせいもあって登場人物の言動に不自然、不合理な点が多すぎて感情移入できず、同様の理由からか、物語のつなぎに破綻している箇所がいくつもありました。たぶん監督の頭の中では完璧にストーリーが進んでいて、それを断片的に出しているからこんなことになっているのかと思います。でも下手をすると監督の頭の中でさえストーリーのつながりなんて無いのかも。

・ツッコミどころ満載
 おそらく細田守映画の最大の難点。「そうはならんやろ」という場面が一度や二度ではありません。これもおそらくはシーン優先で、そのために物語のつなぎやキャラクターの言動をむりやり歪めているのでしょう。逆に言えば、映画にストーリーの整合性など必要ないんだ、キャラクターはセリフを言わせるための装置にすぎない、キレイで印象的な映像をぶつ切りで見せてメッセージを伝えるのが映画だ、と割り切れる人なら問題ないでしょう。

・キャラクター構築の甘さ
 わざと掘り下げないようにしているのかもしれませんけれど、私はキャラクター設定命!派なのでこの薄っぺらさには耐えられませんでした。まるで記号のようなキャラクターで、人間性を生む内面の複雑さが感じられず、これも感情移入できない要因となっています。さらにこれは「悪役に魅力が無い」という、割と致命的な欠陥にもつながっています。ステロタイプにすらなっておらず、それこそ記号のようなものでした。

・演者の質
 私はアニメに声をあてるのに俳優や芸人、歌手やタレントを起用するのは反対派です。理由は明らか、レベルが違いすぎるからです。好きな人には申し訳ありませんが、俳優や歌手や芸人はそれぞれの分野ではプロかもしれませんけれども、声をあてるのはアマチュアです。声をあてるプロである声優には到底届きません。あと、主人公役の人の演技がどうしても受けつけませんでした。はっきり言って下手です。特に「ああ…」「ああ!」「あああああ!!」という声の表現がどうしても受け付けず、あと10分観ていたらハンディサイズのくぎバットを手元に手繰り寄せているところでした。(その分、というわけではありませんが歌唱は抜群でした。歌とセリフで演者をセパレートにすればいいのに…)

・美女と野獣の要素が取ってつけたよう
 私的に一番の謎がこれ。なぜ入れた。確かにディズニークラシックス版美女と野獣の名シーンを、ポーズとかも含めてそのまま取り入れているところもありましたが、そのまますぎて(これ……いくらなんでもこれはパクりでは…?)と思ってしまいましたし、『外見に左右されず、真実を見る』という美女と野獣のテーマと、この映画の土台である仮想現実「U」の持つ「自らの本体を晒さずに本音で生きる」という設定は、真逆でこそありませんが、どうも相容れない気がするのです。現実からの逃避で仮想のアバターを得、成長した後で本体を晒す、というのは、別に美女と野獣の要素を持ってこなくてもできたと思うんですよね。


■総評

 ミュージカル映画の体で、楽曲や映像の美しさには目を見張るものがあります。サウンドトラックは売れるでしょう。なんならいっしょに歌っちゃうかも。

 しかし、それでその他の難点に目をつぶれるかというと、まったくそんなことはなく、なまじ映像や楽曲のレベルが高い分、残念感が増すという結果になってしまっています。パニック映画とかで、登場人物の知能指数を下げて事件を起こし、それでつないでいくという手法は昔からあり、度が過ぎると現実感を失って途端に茶番劇くささが漂いますけれども、その図式がそのままあてはまります。この「話をつなげるためのフィクション」をどこまで許容できるかが、この映画を楽しめるかどうかの分かれ目になると思います。一番いい観かたは、楽曲だけ抜き出して全部セリフをカットしてMADをつくることだと確信しています。

 アートはつまるところ作り手と受け手の感情の位相が一致するか否かで決まるのであり、私が受けつけなかった点もまた良しとして受け入れる人はいるかもしれません。私には合わない作品でした。よって星ふたつ、一度観ればいい、にカテゴライズします。


映画評価基準……

★★★★★:何度でも観たい
★★★★☆:ぜひ観たい
★★★☆☆:観ても損なし
★★☆☆☆:一度観ればいい
★☆☆☆☆:観なくてもいい
☆☆☆☆☆:お金を捨てたいなら


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 余談ですが、はしょりすぎ、ツッコミどころ満載、キャラクター構築の甘さ、有名作品のコピぺ、切り貼りなどは、小説投稿サイト「小説家になろう」出の粗製乱造作品(いわゆる「なろう系」)によく見られる傾向で、もしこの映画作品をそのままノベライズして出していたなら猛バッシングは避けられないと思います。映像と楽曲とキャラデザでなんとかその地獄への転落を防いでいるのは、腕のいい漫画家が駄作をなんとか読めるものにしているのと近しいものを感じました。


 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 それでは、ごきげんよう。

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