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間違いは


間違いは間違いとおせ桐の花

時実新子

時実新子「愛は愛は愛は」の中で好きな句のひとつ。


生きてると、間違った、とか、あのときこうしてればな、と思う事がたくさんある。

下手すると、いつも、すべてが、間違いかもしれないと思っている。

やり切れないことがあったりして、心が折れそうになる。選択肢を間違えたかもしれない、とか、道を誤ったかもしれない、と考えてしまう。

ただ、間違いだと思っても、とにかくその道を走ってみなさい、というのが、この句の意味だと勝手に思っている。

間違っているかもしれないけど、自分で決めたことを、間違いとおしてみなさい、と。


桐は成長がすごく早い樹木だ。大きな木だと、10mほどにもなるだろう。初夏、5月〜6月に紫色の花を咲かせる。

ものすごく高い場所に、ベルのように花が咲く。桐は葉が大きいが、その葉が大きくなりきる前に花をつけるから、紫の花がよく目立つ。

桐は、女性に深い関わりのある木でもある。学名が冠するロシア大公女の名前だけではない。かつては、嫁入り道具の材料として、娘とともに育つ木として多く植えられた。

時実新子が1929年生まれであることを考えれば、その風習はまだ残っていたはずだ。

彼女自身も、桐の木や桐材のたんすに縁があったのかもしれないが、おそらく桐そのものが「女性を象徴する木」であったのだろうと思う。

彼女は桐の花を、女性そのものに例えたのではないか。

そう考えるとこの句は、不安に駆られながら生きる、すべての女性たちへのエールに思えてくるのだ。


好きな理由はもうひとつある。私自身、下の名前に桐の字が入ること。

この句を読むと、背中を押されているような気分になるのだ。不安になっても立ち止まるな、と。

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