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おかさんと土

こんこんと眠るおかさんを見て
死んでしまったのじゃないかと
おびえてた頃

雨上がりの工事現場の
大きな穴に
柔らかいチョコレートみたいな
土がたまっているのを見つけて
思わず飛び込んだ

靴下まですっぽりはまって
そのまま裸足になり
夢中で 土の香りと
なめらかな粘りのある
その肌触りを楽しむ
足指の間 ひんやりと
抜け目のない土が
隙間にすべり込んでくる

周りは土の壁
誰か通りかかると思っていたが
誰も居ない
「太陽が沈み始めた。帰らなきゃ」

土のことはよう知っとる
閉じ込められたりせんわい

「おかさんに怒られるかいな」

泥だらけの服を乾かしながら
泥だらけの足で歩き出す

暗いからわからんと思っとったけど
通りに出るとおっちゃんやおばちゃんに
笑われた

裏口から入る前に土を払って
「おかさん、ぞうきんくれ」と叫んだ

僕を見て おかさんは顔をしかめて
それで
笑った

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