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マネキンをめぐる妄想【家庭用安心坑夫】小砂川チト著

「なんか聞いたことがある。このタイトル」

3週間後に放送する本のタイトルを聞いたときの話。
それもそのはず。今年の芥川賞候補作でした。
一時期、新聞記事で関連記事を読みました。

タイトルから全く内容が想像できない上に、
表紙のイラストと『坑夫』と言う言葉が
ミスマッチに感じました。

なぜこの作品が放送で紹介されたのか。
審査員の書評一覧を読んで気づきました。

パーソナリティの小川洋子さんは
芥川賞の審査員をやってます。
この作品を大賞に推してる上に
「忘れられない作品」とまでおっしゃってます。

他の審査員の書評も読みましたが、
こちらが受賞してもおかしくない内容でした。

2022.12.11のメロディアスライブラリー放送。



・あらすじ

外出先の日本橋三越での話。
主人公の小波は、柱にけろけろけろっぴのシールが貼られているのを見ました。
秋田の実家に貼ってるはずのシールが、
なぜこんなところにあるのかと困惑します。
それから、ツトムが現れ始めます。

ツトムとは、「小波の父親」と思われる人物。
なぜ思われるかというと、
母親からマネキンを指差して、
「これがあなたのお父さんよ」と
言われ続けたからです。
表面上は、母子家庭として育ちました。

ツトムと名付けられたマネキンは、
秋田にある廃坑の跡地に作られた
「マインランド尾去沢」に置かれてます。

・ツトムは何者なのか

秋田のテーマパークに置かれてるはずのツトムが、
なぜ小波が住んでる東京に現れるのか。

そもそもマネキンは、
人間のように自力で移動することはできません。

ツトムがひとりでに、
東京の小波のところに行くのは不可能。
第三者の手を介す必要があります。
しかし、それを伺わせる記述はありません。

「誰かが運んできたわけではなさそう」と気づきました。
「小波の妄想の世界に現れていると考えた方が自然」と結論が出ました。

・小波は誰かの介護をしていたの

頻繁にツトムが現れるので、
小波は秋田に帰省しようと考えました。
しかし、その話を夫にしたら
烈火のごとく怒られ、拒否されました。

「君のお父さんはサナちゃんのことを
介護要員としか思っていないよ」という発言から、
小波が東京に住む前、
誰かの介護をしていたのではないかと
想定されました。

さらに秋田の実家に行った時、
介護用の紙パンツが残されていたことが判明。

小波の母親は既に亡くなってますが、
心筋梗塞で数日のうちに亡くなりました。
介護らしい介護はしていません。

では、誰の介護のために使われていたんでしょうか。父親と考えるのが自然に感じました。

マインランド尾去沢から
ツトムのマネキンを連れ出したあと、
紙パンツを履かせて、座らせました。
その後東京に帰りました。

真相は不明ですが、 
父親の介護をしていたのではないかと感じました。

・感想

最後まで読んで、
「純文学あるあるだなぁ」と感じました。

全ての純文学の作品が、
このような展開ではありませんが、
今回の作品は「こんな感じの展開は純文学でないとお目にかかれない」と感じました。

ラジオ放送で、「心ではなく行為を書く」ことで、
愛情の欠損を表現していると指摘。

これを聞いた時、
「母親との関係が不安定」
「配偶者である夫も安心できるわけではない」
心の拠り所がない様子が表現されてました。

こちらの感想を書く前に、
ラジオ放送以外では純文学ユーチューバーのつかつさんの動画も見ました。

「こんな読み方があるのか」と勉強になりました。何通りの読み方もできる作品と感じました。

以上、ちえでした。
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