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勉強、大変そう…【乙女の密告】赤染晶子著

「薬学部とは違う意味で大変そう」

スピーチの練習に奮闘する
外語大の学生たちを、
大学時代の自分に重ね合わせました。

私は6年間大学に通いました。
1年生から授業が詰まってました。
「一般教養は1年生のうちに卒業要件満たさないと
後々大変だよ」と言われるくらい。
学年が上がると挽回できなくなります。

毎年、一定の単位数を取れないと進級できませんでした。似たものを感じました。

メロディアスライブラリー2011.1.23放送。


・密告に込められた2つの意味

まず、イメージしやすいのは
「誰かに告げ口をする」でしょうか。

様々なホロコースト文学を読んできましたが、
密告されて捕まった方が少なくありません。
エヴァ・シュロスも密告されて
アウシュヴィッツに行くことになりました。

もう1つは「密やかな告白」です。

「わたしは他者になりたい」
密告者に真実を語ったのは誰?私だ。

「アンネ・フランクはユダヤ人です」
これこそがアンネを追いつめた言葉である。

最後のスピーチコンテストでの話です。
このとき、バッハマン教授が審査員をしています。

コンテストの前に、バッハマン教授が
みか子の家を訪ねました。
みか子がコンテスト出場をやめたくなっていたため、彼は説得に行きました。

その時みか子は「この人は誰?」と聞いてきた
母親に対して「※ジルバーバウワー」と返答。

ジルバーバウアー…アンネたち8人を逮捕したゲシュタポの警察官。

コンテストには、バッハマン教授も聞いてます。
密やかな告白を暗示していることに気づきました。

・いつも同じとこで忘れる

みか子だけでなく、友人の貴代、
リーダーの麗子様も忘却と闘っていました。

「忘れるって怖いやろ?」
「慣れることなんかあらへんのよ」

乙女の密告 p56

コンテスト荒らしと呼ばれていた麗子様も
忘れることは慣れないと苦悩してました。

忘れるところは、いつも同じです。
「それがいちばん大切な言葉」と教えられました。

みんなそれぞれ、
忘れるところが違っていて興味深かったです。。

・名前を奪われた人々

バッハマン教授は、『アンネの日記』に
格別の思いがあります。

アンネ・フランクの発音は丁寧に教えられるという言葉を何気なく読んでました。
しかし、あるセリフで何を意味するかに気づきました。

ミカコ。アンネがわたしたちに残した言葉があります。『アンネ・フランク』。アンネの名前です。『ヘト アハテルハイス』の中で何度も何度も書かれた名前です。ホロコーストが奪ったのは人の命や財産だけではありません。名前です。一人一人の名前が奪われてしまいました。人々はもう『わたし』でいることが許されませんでした。代わりに、人々に付けられたのは『他者』というたったひとつの名前です。

乙女の密告 p86-87

他の作品でも、
アウシュヴィッツについたときに、
番号の入れ墨を入れられている描写がありました。
被収容者は無機質な番号で管理されます。
この事実を思い出し、まさに名前を奪われたと気づかされました。

・感想

「ホロコーストを取り扱った作品が芥川賞受賞したのか」と驚かされました。2010年7月の話です。
この年の1月にフランク一家を匿ったミープ・ヒースが亡くなりました。

アンネ・フランクの伝記で出てきたので、名前だけは知っていました。
まさかこんな最近まで生きていたとは思いませんでした。当時の関係者は全員亡くなったそうです。

バッハマン教授に対して、
「こんなスパルタな大学教授がいるのか」と驚かされました。好きな日本語は「吐血」です。
アンジェリカ人形を持ち歩いているという、アクの強い人物として描かれてます。

女子学生たちを「乙女」と読んだり、
黒ばら組とすみれ組に分けたり、
私の想像を遥かに超えてます。

「アンネの日記を学ぶ大学生の話」と
表面上捉えてしまいそうですが、
「最後の生存者ミープ・ヒースが亡くなった今、真実を忘れてはいけません」と言われているかのようです。

芥川賞の当時の選評を見ましたが、
審査員の間でも意見が割れていました。
サラッと読んでしまいそうですが、
奥深い話でした。


以上、ちえでした。
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