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届いたお弁当

幼稚園のときだった。
幼稚園のころの記憶は
数えるほどしか残っていないが、
この日のことは今でも覚えている。

幼稚園には毎日お弁当を持って行った。

私のお弁当箱は楕円形のアルミ製だった。
上からパカっと閉じるタイプの物で
よく煮物の汁がお弁当の袋に染み出していた。
匂いも漏れ出していて…
いつも少しだけだけど、嫌だった。
さらにお弁当を開けると
寂しくなる日が多々あった。
一面真っ茶色、煮物・煮物・漬け物
おばあちゃんのお弁当みたいだと思った。

なおみちゃんやミーコのようなかわいいお弁当。
プチトマトや厚焼き卵、
唐揚げにタコさんウィンナー。
色とりどりに綺麗に詰まったお弁当。
別の容器には、ブドウや林檎が入っていた。

そんな毎日だったが、
ある日お弁当を忘れてしまった。
お弁当を忘れると担任の先生が、
幼稚園の前にあるお店で
パンを買ったくれた。
お弁当を忘れた子は、何故かみんな泣いていた。
先生に優しくしてもらって
苺ミルクのような飲み物とジャムパンや
クリームパンを買ってもらっていたのに。

泣くことなんかないのにな。
羨ましい。と思っていた。

とうとう、今日私はお弁当を忘れた。
先生とパンを買いに行く。

わーい!

先生とお店に行こうと幼稚園を出たとき
幼稚園の前にタクシーが止まった。

髪を振り乱した母がタクシーから降りて来た。
先生、お弁当忘れちゃって…。
子どもながら固まった。
あまりのショックに食欲も一気になくなった。

お昼になった。
タクシーで持って来たはずのお弁当が
今日も袋から煮汁を出していた。

いつもかまってくれない母が今日に限って
持って来てくれたお弁当。
私は無言で残さず食べた。

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