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[児童文学] クロウサギ物語 (3947文字)

あらすじ

むかしむかしのお話。
クロウサギのピョンタは森でお母さんと暮らしていた。
最近、妹たちが生まれた。
お兄ちゃんになったピョンタ。
でも大きくなったピョンタにも、お母さんは注意ばかりする。小言ばかりのお母さんのことをピョンタは、
「うるさいなぁ」と思っていた。

ある日、ピョンタは海辺に棲む友だちうさぎのピョン吉くんのところに遊びに行くことに。
ピョンタがピョン吉くんのところで遊んでいると、ものすごい地鳴りがした。
大きな地震だ。
ピョンタは、ピョン吉くんのお母さんといっしょに「こんもりの森」の奥に入って何日も身を潜めるように過ごした…
何日も続いた地震がやっと終わった時、ピョンタやピョン吉くんのいる海辺の「こんもりの森」は、大陸から離れ「島」になってしまった…

奄美が大陸から移動したのだ。
ピョンタは、はじめて見る「海」を前に大きな声で「お母さん!」と叫んだ…

この物語は、クロウサギ「ピョンタ」の成長のストーリーである。


プロローグ

宇宙に浮かぶ青く美しい水の惑星、地球🌏

私たちが暮らす地球上には、たくさんの動物たちも暮らしている。

動物たちにとっても「生きる」ことは毎日が格闘なんだ…



地球には、いくつかの大陸があるのを君たちは知っているよね。

ユーラシア大陸、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸、オセアニア大陸、南極大陸…。

この大陸は、長い地球の歴史の中でたくさん動いているらしい。

日本は海に囲まれた島国だけど、大陸と、くっついたり離れたりして、今の日本の形になったんだって!

ところで、キミたちは「奄美大島」という島のことを知ってる?
九州の南の鹿児島県にある南西諸島の島なんだ。

奄美大島には太古からそのままの森がある。
この物語は、その原始の森に暮らすクロウサギのお話。彼らの名前は、『アマミノクロウサギ』



むかしむかしのこと、大陸の一部だった奄美大島は、地殻の変動で大陸から切り離されて「島」になったんだって。

その時に大陸にいたクロウサギの一部は、切り離されて「奄美大島」に取り残されてしまったんだ…

怖かったよね…
だって、地面が動き出すんだよ!
運良く生き残っても家族と離れ離れになったり、家族や友だちを失ったり、たいへんな思いをしたと思うんだ。


奄美に暮らすクロウサギは真っ黒な小柄なカラダに、つぶらな目、短い耳という「古代のウサギ」の特徴を残す世界でも珍しいウサギ。

奄美大島は日本列島の南西諸島というところにある島ということは話したね。

東シナ海、太平洋につながる青い海。
ドローンで撮影した動画をYouTubeで観てみて。
ものすごく綺麗な島なんだ。
最近、世界遺産にも登録された奄美大島には太古の森、マングローブの森、珊瑚礁…森も海もある美しい島なんだよ。


小さな島の集落どうしは深い森が隔て往来もままならない時代があったらしい。だから奄美の人たちは、遠い土地から訪れた人たちを心からもてなすとも聴いたことがある。

そんな「原始の森」に古代の特徴を残したウサギが棲んでいる。
ウサギと言っても私たちが知っている耳の長いウサギとは雰囲気が違う。
小柄な耳の短いぷっくりとしたウサギ。

その名前はアマミノクロウサギ。

穏やかな毎日を暮らしていた動物たちに、ある日、たいへんな出来事が起きた…

そのたいへんな時代を生き抜いたアマミノクロウサギ「ピョンタ」のお話です。


第一章 島ができた日のこと


あの日、ボクは、海の近くの森に遊びに行った。
「早めに帰ってくるのよ」
「わかった」
お母さんは、いつも草むらや森に行って、たくさんの美味しいご馳走を集めてきてくれる。
「ああいうところは危ない」とか、「ヘビに出会ったら、こうするのよ」
と、いつも口うるさい。
「わかったよ、もうボクもお兄ちゃんになったんだ。友だちの所に行くだけだろう。うるさいなぁ。日暮れ前には帰るから…行ってきます」

ボクは、お母さんが土から掘って来てくれたニンジンをかじると、ピョンピョンと友だちの住む森へ走って行った。
その日は、一日中遊んだ。もうすぐ、日が暮れる。
「早く、帰らなきゃ…」
そう思って、ピョンタとそこのお母さんに挨拶をして帰ろうとしたその時だ。

ズシンと、突き上げられたかと思うと、あちこちから、いろんなケモノ達の鳴き声がする。遠くから土煙りが上がり、地面が大きく揺れた。地鳴りは続いた。
「ピョン吉くん、早くこっちに!」
森の中が安全かもと、ピョンタ君のお母さんについて、ボクらは、森に入って行った。いつもは、「怖いヘビがいるから、行ってはいけない」と言われているこんもりの森だ。

その揺れはぜんぜんおさまらない。
ボクは友だち家族と、森の奥深くに逃げた。何回も太陽が上がって、沈む。やっと収まってきた頃、ボクは家に帰ろうと、ボク達の家の方に向かった。

「あ!」
そこには、大きな水たまりができていた。ボクが見た事のあるどんな大きな水たまりより何倍も大きな水たまりがあった。どんなに力いっぱいジャンプしても、がんばって泳いだって渡れそうにないほどの水がたまっていた。向こう岸が見えない…「まさか、これは水たまりではないの?」ピョンタ君が言ってた朝日が昇る「う、み、なの?」
水は、「ザザーン」と音を立てて白いしぶきをあげた。「でも、こっちは太陽が昇るほうじゃない…ボクのおうちのほうなのに…」いつもは山に沈んでいく太陽が「うみ」の水たまりの向こうをオレンジに染めた。

「お母さん!!」
ボクは叫んだ。声なんて、ほとんど出さないうさぎのボクが目を真っ赤にして、声がかれるくらい叫んだ。

何が起きたのかは、わからない。ボクは、あの日から家に帰れなかった。

「お母さん!ボクがんばっているよ。お母さんも元気?苦手だった草もちゃんと食べてる…大きくなって、あの大きな水たまりを泳いで帰るからね」

ピョン吉は、大きな水たまりに沈む夕日に向かって叫んだ。



第二章 雨の音

雨を聴くと、お母さんを思い出す。

あの大地震の後、お母さんと暮らしていた故郷から、ひとり「島」に取り残されてしまったピョンタ…
いつも泣きくれて過ごしていたが涙を拭いて生きることをお母さんに誓った。
今ではピョン吉くん家族と一緒に元気に毎日を送っていた。

でも、雨の音を聴くと、お母さんと過ごした楽しい日々を思い出す…

「シューシューシューッ」

ボクが気づかないような細かい雨の音にもお母さんは敏感だ。
細かい雨の中出かける母さんは、柔らかな穴を掘って、ボクをそこに座らせるとボクに土を被せてくれた。
ボクのお留守番スタイルだ。

「今日は、地面がぬかるんでいるから、こんな日はニンジンが抜きやすいの」と言っていたお母さん。
そんな日はご馳走がいっぱい食べられる。美味しいニンジンをたくさん持って帰ってきた。
ボクがニンジンをボリボリと食べているお母さんは嬉しそうにボクを見ている…
その毛並みはしっとり濡れていた。

「ポチポチポチポチッ…
    ピチ…ピチ…ピチ…
      チ…チ…チ…チ……」

外にも出かけられず大きな木の木陰の巣穴で過ごしていた時のこと。
さっきまで降っていた雨の音が変わった。
「もうすぐ雨が上がるわよ、ピョンタ」
ボクも短い耳をそばだてて聴いた。その音がすると決まって、すぐに雨が上がった。
雲間から現れたキラキラした日差しがボクらを包んだ。
向こうの山の方を見ると
「うわーお母さん、あれは何?」
「虹🌈よ!お母さんは虹が大好きなの、綺麗ね」


「ポチポチポチポチッ…
    ピチ…ピチ…ピチ…
      チ…チ…チ…チ……」

外にも出かけられず大きな木の木陰の巣穴で過ごしていた時のこと。
さっきまで降っていた雨の音が変わった。
「もうすぐ雨が上がるわよ、ピョンタ」
ボクも短い耳をそばだてて聴いた。その音がすると決まって、すぐに雨が上がった。
雲間から現れたキラキラした日差しがボクらを包んだ。
向こうの山の方を見ると
「うわーお母さん、あれは何?」
「虹🌈よ!お母さんは虹が大好きなの、綺麗ね」
向こうでは、鳥さんたちも嬉しそうに歌を歌っていた。


「グワーグワーグワーグワッー、
     ドンッ!
         ピカッー!」
朝から続く雨はどんどん強くなっていた。
耳が痛いくらいの音がする。
ピカッと昼間みたいに明るくなった瞬間、ものすごい音がした。


「雷よ!
ピョンタ!!ここはあぶない!
ここから離れましょう!」
そう言ってボクらはその木から離れたほうに向かって、ずぶ濡れになって逃げた。


深い森の奥で暮らすクロウサギのボクたちには怖い敵もいっぱいいる。
「ああいうところはあぶない」
「ヘビにあったら、こうするのよ」
小言を言うお母さんのことを、あの頃のボクは、
「うるさいなぁ、ボクももうお兄ちゃんなんだ、いちいち言わないでよッ」と切れて反抗していた。

今、雨の音を聴くと思い出す…

生きていくために大切なことは全部お母さんから教わっていた…

ボクはもうすぐ、お父さんになるんだ。

「お母さん、ボク、がんばって生きているからね」

ボクは雨の音を聴きながら、外に出て空を見上げた。

「ピチピチ…ピチッ」
と降っていた雨はまばらになった。
…………    …   …     …       …  
 ・     ・         ・  「ピチョーンッ」
見上げたボクの額に冷たい水滴が落ちてきた。
「冷たいっ」
向こうの海には、びっくりするくらい
大きな二重の虹🌈がかかっていた。



エピローグ


お母さんのいる大陸から引き離されるなんてたいへんな出来事だね…

それでも、ピョンタは生き抜いた。
だから、今も奄美大島にはアマミノクロウサギの子孫たちが生きているんだ。

たいへんな中をがんばった、アマミノクロウサギ。
そんな動物たちが、どこかにいることを覚えていてね。
地球のどこかで動物たちも一生懸命に生きているんだ。

おしまい

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