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[連載小説]第八話 犬だけど何?野良犬の俺がホームレスのアイツに出会ってスミカをゲットする話⑧


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第八話 
ソラKUMADONでのバイトを開始する
寅造じいちゃん金犬運送に!


新しい城での暮らしが始まった。

まだ数日しか経っていないのに、
この数日は、まだ1才にならない俺の「イヌ生史上」で1番たいへんな数日だった。
実は、鼻も乾きシッポも上手く動かせなかったんだ。

バディと暮らせる安心感が俺を包んだ。
昨日はシッポもリラックスして寝られた。
群れっていいな…
夕べはぐっすりと眠った。
パサパサしてしまって不調だった鼻に、湿り気も戻ってきたみたい。

「よし、散歩行くか!」
「やったー!久しぶりの散歩だ!」

まだ雪が残っているから町はキラキラとまぶしい。
滑らないように、ゆっくり歩くつもりでも自然と駆け足になってしまう。

俺は「行くよ!」と目で合図すると駆けだした。
ソラも同時に走り出した。
道路はシャーベットみたいになっているからソラも俺も何回も滑った。

おや?
向こうの坂のほうでソリみたいなので滑って遊んでいる親子もいた。
楽しそうだなぁー。



ひさびさの散歩から帰ったらお腹がペコペコだ。
朝食は本当にうまかった。
朝ごはんをすませてのんびりしていると、ソラが俺の顔をジッと見て、
まじめな顔で尋ねた。

「そう言えばさ、あの話の続きなんだけど…」
「あの話って?」
「お前さ、おばあちゃんと暮らしてたって言ったろう?……ずっと気になっていたんだけど、イヌは何で、あの公園にいたの?」

俺は、おばあちゃんのところに行くまでの話もした。

生まれてまもない頃、箱に入れられて捨て犬になったこと。
拾われた社長さんの家から健太のところに行ったこと。
健太のおばあちゃんと幸せに暮らしたこと。

「ソラに会う前の晩にね…たいへんなことがあったんだ…」
俺はおばあちゃんと別れる晩のことを話しながら声が詰まってしまった。

夜中に、おばあちゃんが胸が苦しくなった時、俺は必死で「見守りのボタン」を押して救急車を呼んだこと。
そして「逃げて」と言われて走って逃げたとき、逃げ込んだ軽トラが移動して、あの公園に来たこと。

ソラは黙って聴いていた…
気づいたらソラの目には涙がいっぱいだった。
涙をポトンと落としながら、俺に言った。

「お前えらかったな!
救急車呼ぶなんて、イヌなのにやるじゃん!
おばあちゃんは、お前のおかげで病院に行けたんだろう?
助かるといいな…
いや、元気になってるよ、きっと」

俺も、胸につかえていた何かを吐き出せたからか、シッポに残っていた緊張もとれてきた。
群れっていいな。
心配ごとが半分になったようだ。



それから俺の群れの仲間たちには、いろんな変化があった。

まずはソラ。
ソラは物流大手のKUMADON(クマドン)の仕事が決まった。
倉庫での仕事らしいけど、実はソラは自動車免許も持っていた。
高校の仲間と「ガッシュク」っていうので取ったんだって。
(スゲーよなぁ!)
いつか配送もするかもしれないって。

そして寅造じいちゃん。
じいちゃんは金犬運送の仕事を始めた。
じいちゃんが仕事していた頃、現場に出入りしていた運送会社だそうだ。
何でもコロナ禍で「タクハイ」注文をする人が増えて大忙しなんだって。
源ちゃん経由で寅造じいちゃんに
「車乗らないでいいから、やってもらえると助かる」って連絡が来たらしい。
配送センターから届いた荷物を小分けにして近所に歩いて運ぶ仕事。

そんなことで、俺は昼間は「城」を守る重要な任務を任された。

実は、俺は簡単な掃除ができる。
モップをくわえて、棚の上のホコリをとったり。
仕上げに靴下みたいな「スリッパ」を履いて家の中を走り回ってピカピカにするって方法でね。
ばあちゃんを手伝うため家事の技も身につけたんだ。

これは健太が考えた方法なんだ。
ある時、ばあちゃんが腰が痛いのを心配した健太が人間用の「掃除スリッパ」を見つけてばあちゃんにプレゼントした。

「イヌにも履かせたらピカピカになるかも」って思いついて作ってくれたんだ。
(アイツにも会いたいよ…)

そのことをソラに話して、俺用の「掃除スリッパ」を作ってもらった。

「ヤバっ!床がピカピカになってる。お前スゲーなぁ!
よし、今日からお前のことを
『凄腕ハウスキーパー・スーパードッグ・イヌ』と呼ぼう」
「なげー名前!」
そう言って2人で笑った。



季節が過ぎるのは早い。
散歩道にはたんぽぽが咲き出した。ばあちゃんの好きな花だ。

フッーと息を吹きかけて白い綿帽子を飛ばすんだって。
昔ばあちゃんはポチって言う犬を飼っていた。風にのる「たんぽぽの綿毛」を追いかけて遊んでたんだって。
俺は本物のたんぽぽは初めてみた。
テレビを観たとき教えてくれたから、たんぽぽって花を知ってたんだ。

ばあちゃんはどうしているかな?
思い出さない日はなかった。



ソラのKUMADON(クマドン)の仕事は順調だった。

公園の木にはいっぱい花が咲いた。やがて「サクラ」の花びらがひらひら雪のように舞った。
追いかけて遊んでいるうちに、花びらは道路や公園のじゅうたんになった。
今度は木に葉っぱがいっぱいついている。

あれ?これはばあちゃんと歩いた散歩道の葉っぱの匂いと同じだ!

そんな頃、ソラの仕事にも変化があった。
「そろそろソラくんも配送にまわってもらおうかな」
ソラは軽トラでの配送部門へと部署移動した。

ソラが言うには
「配達って言っても置き配ばかりで人には顔を合わさない」らしい。
なんか不思議だ。
コロナ禍にできたルールらしい。



そんな配送先に高齢者施設への配送もあった。
そこの配達の時には、ガラス窓越しにだけど施設のスタッフさんと顔をあわせるタイミングが多いんだって。

「おはようございます!」
「あ、ソラくん、いつもありがとうね!そこ置いててね。
買いに行く時間ないから助かるわ」

雨ばかりのツユが始まった。
ツユは散歩に行けない日が多いから、ちょっとつまらない…。
お気楽なイヌの俺だってユウウツな気分になる日がある。

て言うか、もしかしたらこんな雨の日に捨てられたから「トラウマ」ってやつか?
カッコいい言葉知ってるだろう?
ばあちゃんと観たテレビ情報だ。
主人公は、このトラウマってのを抱えていたりする。
ばあちゃんは、トラウマを乗り越えてハッピーエンドになるドラマが好きなんだ。
だから知ってたんだ。

いつものようにソラが配送に行くと、施設のスタッフがソラに声をかけたんだって。

「ねえねえソラくん、君さあ、歌、得意?」
ソラはもちろん歌は得意だ。
ミュージシャン志望なんだから。

「で、このコピーもらったんだ」
ソラは俺にそれを見せた。

字が読めるかよ!ってか?
そのツッコミ、受けてたつ。
読めるんだな、それが。
ドラマの字幕をばあちゃんが音読してくれたから覚えたんだ。
ジーニャス犬(天才犬 genius dog)
と呼んでくれてもいいよ!

話がそれたね。
そのコピーにはこうあった。
施設スタッフ主催のイベント歌の祭典

「どういうこと?」
「なんかね、施設で毎年梅雨時にやるイベントなんだけど、コロナの忙しさで今年はそれどころじゃないんだって。
それで俺にやってくれないかって頼まれたんだ」
「おもしろそうじゃん?!」
「だろう?おもしろそうだよな」
「それで選曲って言って、去年までの歌のリストをくれたんだけど全然知らなくてさ…」
「いくら、ばあちゃん子だからって、わからないな……あっ!!
寅造じいちゃんに聞いてみたら?」
「それな!」

俺たちは、寅造じいちゃんに相談することにした。

          第二章に続く


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