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私の感覚を理解するのは私だけ #15

太宰治『走れメロス』についてだけ #10


人に不信感を抱いているからといって、『走れメロス』で泣くとは限らない。
なぜ私がそこまで心の深くまでメロスの言葉に貫かれたのかは今でもよく分らない。

ところで、この邪智暴虐の王、ディオニスは生まれながらの暴君なのだろうか。
邪悪な存在としてこの世に生をうけたのだろうか。

恐らくみなさんは、否。と答えるだろう。
私も同感である。
王はメロスと対峙した時にふとこんな姿を一瞬見せている。

(中略)暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」

太宰治『走れメロス』

はっきり言って、我々はこの言葉によって、王が本当はナイーブで暴君のような性格ではない、と思うほどごきげんな世界に住んでいない。
それほどに平和な人生をみんな送っているわけではない。

この王の言葉は、王の真意なのかどうなのか。
私には分からない。

なんならサイコパス的要素を見出すことさえできる。

人の心を疑うなと言うメロスでさえもが、王の発言には心から不信を抱いている。

王は善人ではないが、究極の悪人ではない、、のかもしれない。
しかし彼のバックグラウンドを想像するには物語中には情報が少なすぎる。
もはや妄想の世界になってしまう。

正直に言って王が騒いでいる内容は正しい。
だからといって毎日人を処刑するのはどうかしているが。

メロスのような超が付くのんき者も世の中にそういないだろうし、王のように極端に疑い殺戮していく人間もいないだろう。
メロスと王ディオニスを足して2で割ったくらいが本当にちょうどよさそうだ。

疑うことを知らないメロス、信じることを忘れた王。
両極端の者どうしの戦いが幕を開ける。


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