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私の感覚を理解するのは私だけ #10

太宰治『走れメロス』についてだけ #7


メロスを読んで泣いたのは、当時の私が王ディオニスのように荒れ果てていたからかもしれない。
でも、泣くくらいの余裕があったからディオニスよりよっぽどマシだ。

ついに来た、メロスと暴君ディオニスとのやり取りの場面!
ここの場面が大好きで、ついつい時間をかけて読んでしまう。

頭の中は再び、もしも劇場と化す。

「もしも、私が映画監督でメロスを撮るとしたら」
メロスと王ディオニス対峙編。

王役は誰にやってもらおう…。
市村正親さんなど、ぴったりではないだろうか。

ここはメロスと王がかなり激しく、しかしかなり素敵なテンポで会話をする。

そもそも、突然現れた羊飼いに会ってくれる王がすごい。
そして作品冒頭に、

メロスには政治がわからぬ。

太宰治『走れメロス』

と書いてあったとおり、メロスは王というのが一体何者で何をする人間なのかも全く知らないのかもしれない。

で、なければこんなタメ口で突っかかっていく人間どこにもいないだろう。
王もびっくりだ。

だからのそのそと短剣を持っていることを当たり前として、王城へ向かって行ったのだろう。
メロスにとって、村の仲間の羊飼いと王はさほど差のない存在だったのかもしれない。

ここの会話、監督である私、食パンはいつも悩む。
王のセリフはどのくらいの速さで、どれほどの緩急をそれぞれにつけるべきか…。

例えば、

「この短剣で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。

太宰治『走れメロス』

この王の言葉。
みなさんは、スピードはどのくらいが良いと思うだろうか。

そして、
「この短剣で(略)~であったか。」

「言え!」
の間はどれほどの間隔を空けるべきだと考えるか。
あるいは間髪入れずに差し込むか。

ここは、「この紋所が目に入らぬかぁ!!!!」
のテンションを参考にしても、だいぶ雰囲気と背景が変わって面白くなりそうだ。

ベテランの俳優さんだったらどんな風な顔つきで、どんな声色で言うのだろう。
考えれば考えるほど、話に味が出てくる。

頭の中でいくつもバージョンを作り、来る『走れメロス』原作そのまんま映画化!の監督に選ばれし日に備えておこう。

いやはや、王の渋さがやはりいいなぁ…

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