日記/星野源さんのエッセーが面白かった。

友人が武蔵境にある図書館へ行き本を返したいと言うので、何にも予定がなく暇を持て余していた私は二つ返事で彼女のナビゲーションを頼りに、縁もゆかりも無い土地へ炎天下のなか出向いた。

その図書館は4階か5階建ての大きなアパートみたいな外見で、横に広がる大きな楕円の窓が可愛く、
内装も、どこかしこも子どもを決して傷つけないように細心の注意が払われた北欧産の木のおもちゃみたいな丸みを持ち、白色やクリーム色で本棚や扉はできていて、そしてとにかく建物の中は涼しかった。今日は本当にクソ暑かった。日中、府中では38℃を超えていたらしかった。

そこで私はずっと読みたかった本(桜庭一樹の『彼女が言わなかったすべてのこと』だった)を見つけるも、あいにく書籍を借りることのできる市民権を持たず、しょうがないので諦めて一階のカフェエリアで自分のカバンに入っていた自前の文庫本を読むことにした。ちなみに一穂ミチの『砂嵐と星屑』だった。
私の友人も図書館へ本を返す前に読み切りたいとのことで、アイスカフェラテを片手に黙々と我々は活字を目で追った……
と思いきや、私はこのごろ積読に精を出していて、せっかく文庫本を持ち歩いても全く読書に身が入らない時期に差し掛かっていた。
こんなにも「本を読め!」と言わんばかりのロケーションですら、あまり気が乗らないとは…‥そう思いつつ、ふとカフェエリアのカウンター横に備え付けられたブックシェルフを見ると、星野源の『そして生活はつづく』というエッセー本が目に入った。

エッセー本。いま私が読みたいのはフィクションではなく、他人の生活とか心情を覗き見るようなこういう本なのでは?そう思ってえいやっと手に取った。閉館時間まで読み切れるかどうかも計算に入っていた。

エッセーは結構、意外と好きだ。壇蜜とか、加藤シゲアキとか、燃え殻とか。大体を好ましく読んだ。
星野源のエッセーも、確か以前何か一本読んだことがある……というか、『いのちの車窓から』という同じく星野源のエッセー本が家にあった。今は配偶者となられた新垣結衣のことを書いた一本が収録されており、気になって買って読みかけのままだった。

というわけで、見ず知らずの図書館でなんとなく手に取り前情報もなく読み始めた『そして生活はつづく』。読んでいるうちに、なんとなく「SUN」を発表したあたりの星野源より少し前の時期に紡いだエッセーらしいな、ということはわかった。刊行年を見ると10年以上前。やはり。

読み進めるうち、あまりにも文章に勢いがあり恥は知らずうんこの話は多いし生活力は終わっているし本当に面白かった。独身男性の生活として人のダメな側面が全部赤裸々に描かれていた。
いまやスターの星野源が当時は羽虫が窓の下によく落ちているアパートに住んでいたのも新鮮だった。

そして何より、星野源が一度くも膜下出血を患い仕事を休んでいたこと、「SUN」以降、次々と世にヒット曲を生み出していったこと、逃げ恥に出演し、夫婦役で共演した国民的女優・新垣結衣と籍を入れたこと……そういった今なら皆知る「ネタバレ」を踏まえながら、若かりし星野源があれやこれや理屈をこねる文章を読んでいると、本当に人生ってよくわかんねぇな〜としみじみ思った。
本当に人生ってわかんないんだな。当時絶対に想像できないじゃん、ガッキーと自分がまさか結婚するとか。こんな、ほとばしる、勢い余ってすっ転んでいきそうな文章を紡いだ青年がかつて存在したなんて……
というふうに、カフェの閉館時間が迫るなか、私は時に声を上げて笑いながら『そして生活はつづく』を読み終えた。とっても面白かった。
10年20年経ってしまえば私はどこからどう見ても「大人」な自分になってしまうこと、今の悩みなんてきっと時間によって解決されてしまうこと、価値観なんて変容してナンボであること、それでも人のオモシロオカシイ部分は不変であること(寧ろ年月を経て熟成され研磨されること)を再確認した休日だった。もちろん、「そして生活はつづく」ということも。

今日も生活はつづく。明日も明後日も。
とりあえず朝の献立を考えないといけない。これも生活か……

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