頭にはバカでかいリボン

を、つけて出社すると情緒が安定すると気がついた。

オフィカジOK、もはや管理職ですらフレアのおしゃれジーンズを履いて手ぶらで出社する会社だから、新卒の髪についたバカでかいリボンくらいどうってことない。
黒いベロア生地の、可愛いリボンがついた髪留め。サイズは人が「これくらいがちょうど良いだろう」と思うより一回り大きい。それが可愛い。

ドラミちゃんはお兄ちゃんであるドラえもんとお揃いで猫の耳がないけれど、その代わりリボンがドラミちゃんの平衡感覚を保つ補助装置だと小耳に挟んだことがある。そういう感じ。
もしくは、『姫ちゃんのリボン』みたいに、何にでも変身できて、魔法界の同じ顔をした友達と結びつけてくれるもの、好きな人にアプローチする勇気をくれるもの。
それくらいぶっ飛んだ感じをはらみながら業務に勤しむことができる。イマジンの力で私はそういうことにしている。

先日、違うフロア、違う部署で働く、少し気になっている先輩と2ヶ月ほどぶりに会う機会があり、それも長いこと歓談をする時間を天から与えてもらった。
そこで、やっぱりすごい好きだ……と実感を深めてから、毎日私は「今日こそ先輩に会えますように」と更に神頼みをしながら過ごしている。
すごく優しくて、レディファーストで、子供っぽくて、可愛い人だ。一緒にいて少し緊張するけれど、安心もする。
先輩に恋人がいるかどうかはついぞわかっていない。私は先輩のことをすごく気になっているけれど、想いのベクトルが釣り合ってくれなければ虚しいと思うほど自己中心的でもある。
話している間スマホを気にする先輩の姿に恋人の影を感じたり、少し乱れた髪や擦り切れた靴を履く姿から装いに対する頓着のなさに希望を抱いたり。
もしかしたら先輩と会える2023年最後の時間かもしれないと思って、うんと目配せをしてみたり、かと思えば恐れて目を逸らしてみたり、自分でも大胆なのか奥手なのか気持ちの悪い拗らせた異常人なのか、よくわからないまま時は過ぎた。
来年また会える日はきっと来る。
だけど、久々の邂逅の翌日にしみじみと「ああ、会いたいなあ」と私は思った。もし私たちが恋人なら、理由もなく会うことができるのに。

知っている。
好きだと思った人でも、いざ付き合うとうまくいかなかったり、幻滅することの方がざらだということ。
先輩に恋人がいる可能性の方が高いこと。
もしくは、私が足踏みをしている間に、誰かが先輩を颯爽と掻っ攫っていってしまうこと。
それでも、焦ると全ては一瞬のうちに手から滑り落ちて、粉々に砕けてしまうこと。

そんな傾いた心を取り持つために、頭にバカでかいリボンをつけて、私は生きる。
乱れた心が凪ぐように願う。
先輩と再び出会った時には、波飛沫をあげて揺らぎ尽くすことができるように。

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