【2023年法改正情報】フリーランス新法:フリーランスとの取引に規制が!?
フリーランスとの取引の適正化を図る「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」という)が2023(令和5)年4月28日に成立し、同年5月12日に公布された。
このフリーランス新法は、公布の日から1年6か月を超えない範囲で施行されることとなっており、遅くとも2024(令和6)年11月上旬までには施行される見込みである。
したがって、フリーランス新法が施行されるまでにはまだ1年以上の猶予があるとはいえ、これまでフリーランスとの取引において特段配慮をする必要がなかった下請法上の「親事業者」に該当しない中小企業(資本金1000万円以下)や下請法の対象にならない「自家使用」のための委託を行っている中小企業を含む多くの企業にとって影響があるものであり、ノウハウ獲得のためにも早期対応が望まれる。
本稿はかなり長大な記事になってしまったが、現時点でわかる情報を網羅していると思われ、基本的には本稿の記載事項を参考にすれば実務上問題ないと思う。なお、本当に時間がない人は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」のみ確認しておけば足りると思う。
サマリ
自身以外に役員や従業員がいないソロの個人事業主や一人社長法人を「特定受託事業者」(フリーランス)と位置付け
フリーランスに業務を発注する特定業務委託事業者(発注事業者)に対し、①取引適正化のため下請法類似の規制と②就業環境の整備のため労働法類似の規制を課す(違反行為の一部には刑事罰も)
フリーランス該当性を外形的に決定できないことから、明らかにフリーランスではない先への発注以外はフリーランス新法の適用があると考えた方が安全
①については公正取引委員会・中小企業庁が所管し、②については厚生労働省・都道府県労働局が所管する建付け
フリーランス新法の目的と構造
フリーランス新法の目的
フリーランス新法は、これまでに発生していたトラブルのうち、特に頻度や程度の観点から優先して対応すべき課題に関し対処するものであり、フリーランスに係る①取引の適正化と②就業環境の整備を図ることを目的とする。
これらのトラブルが発生する原因として、フリーランスとフリーランスに業務を発注する事業者との間には構造的に交渉力や情報収集力といった点で格差があり、フリーランスとしては特定の発注事業者に依存し、取引条件等を一方的に決められてしまうという特性があるとされている。
こういったあたかも主従関係があるかのような構造や特性が、下請法における親事業者と下請事業者の関係や、労働法における雇用主と労働者の関係に類似する。
ちなみに、フリーランス新法制定前は、独占禁止法・下請法、そして労働関係法の解釈によりフリーランスを保護する動きがあった(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)。
・フリーランスガイドライン本文
・フリーランスガイドライン概要(リーフレット)
フリーランス新法の構造
第2章の取引適正化が①下請法類似の規制に、第3章の就業環境の整備が②労働法類似の規制にそれぞれ対応する。
ただし、冒頭で触れたように、下請法においては、1000万円超の資本金や出資金がない中小企業や個人事業主には適用がなく、また、資本金や出資金が1000万円超の企業であっても「自家使用」として業務を発注する場合には適用がないところ、それらの場合でもフリーランス新法の適用はあることから、その適用範囲は下請法より広範となっている点に注意が必要である。
注:自家使用とは、例えば、自社のホームページの作成・運営にあたり専門の業者に発注して委託することがあり得るが、それとは別に、自社のホームページ上で有料コンテンツを提供するため当該コンテンツの作成を専門の業者に発注して委託することもあり得るところ、前者を「自家使用」といい、後者を「業として行う」という。下請法は後者にのみ適用される。
フリーランス新法の概要
フリーランス新法の概要を知るための資料として、政府当局の説明資料がよくまとまっている(図は少しわかりづらいが)ため引用する。
フリーランス新法の対象者と論点
対象者
フリーランス新法の対象者は、保護を受ける側のフリーランス(特定受託事業者・特定受託業務従事者)と規制を受ける側の発注事業者(業務委託事業者・特定業務委託事業者)である。
それぞれの定義は次のとおりである。(重要なのは★)
★特定受託事業者(狭義のフリーランス)
業務委託の相手方である事業者であり、次の①又は②のいずれか
① 従業員を使用しない個人事業主
② 代表者(1人)以外の役員・従業員がいない法人(1人社長法人)
→ フリーランス新法に関し保護を受けるフリーランス
特定受託業務従事者(広義のフリーランス)
特定受託事業者である個人事業主又は代表者
→ 要はフリーランスを構成する生身の個人を指し、特に就業環境の整備に関する規律のうちハラスメント対策体制整備につき保護を受けるフリーランス
業務委託事業者(広義の発注事業者)
特定受託事業者に業務委託を行う事業者
→ フリーランスも含む発注側の事業者を指す
★特定業務委託事業者(狭義の発注事業者)
業務委託事業者であり、次の①又は②のいずれかに該当する事業者
① 従業員を使用する個人事業主
② 代表者を含め2人以上の役員・従業員がいる法人
→ 要はフリーランスを除く発注側の事業者を指し、フリーランス新法の主な規制対象となる事業者
論点
【論点1】「従業員」とは
ここでいう「従業員」(フリーランス新法第2条第1項第1号)は、上記のとおりフリーランス新法の保護を受けるフリーランスに該当するかどうかを区別する重要な判断基準となる概念である。
上記のとおり、フリーランス新法は、個としてのフリーランスと組織としての発注事業者とのあたかも主従関係があるかのような構造や特性に照らし、取引適正化や就業環境の整備を図ることを目的としている。
そのため、「従業員」の概念は、フリーランスが個なのか組織なのかを区別する基準となり、「組織としての実態がある」といえる程度の従業員性が必要と考えられている。
<従業員に該当する>
① 週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者(cf.雇用保険法)
② ある程度の期間継続して受け入れている派遣労働者
<従業員に該当しない>
③ 短時間・短期間等の一時的に雇用される者(①に該当しない者)
④ 再委託先
⑤ 同居の親族(仮に青色事業専従者に該当しても従業員に該当しない)
注 同居の親族については、労働基準法第116条第2項や労働契約法第21条第2項が同居の親族のみを使用する場合に適用除外とされていることが考慮されているように思われる。(「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会 これまで(令和元年6月中間整理以降)の議論のご意見について」5頁参照)
【論点2】「役員」とは
ここでいう「役員」とは、株式会社の取締役・監査役・執行役、一般社団法人等の理事・監事、持分会社の業務執行社員といった法令上の役員のほか、これらに準ずる者が含まれる(フリーランス新法第2条第1項第2号)。
そのため、創業者や大株主のような、役員として登記はされていないものの実質的に会社をコントロールし得る立場・地位にある者(いわゆる事実上の取締役)も含まれることになり、必ずしも商業登記を調査すれば確認できるというわけではない点に注意が必要となる。
【論点3】従業員や役員の有無の判断時期
取引を開始した当初は、取引の相手方に従業員や役員がいたためフリーランス新法の適用はないと思っていたが、報酬支払時点や中途解除時点など規制対象行為の時点で取引の相手方に従業員や役員がいなくなっていたらどうなるか。(その反対のパターンもあり得るがその場合は特段問題になるまい)
これは、従業員や役員の有無の判断時期の問題である。
この点、政府当局の見解としては、発注時点と行為時点の2つの時点において従業員や役員の有無を判断する必要があるとのことである。
【論点4】従業員の判断単位
例えば、デザイナーとプログラマーとして2つの顔を持つ個人事業主がいたとして、デザイナーの業務ではアシスタントを1人雇っているが、プログラマーの業務ではソロであるという場合、プログラマーの業務を委託する発注事業者は、当該個人事業主をフリーランス新法でいうフリーランスとして扱う必要があるのか。
従業員の判断単位が発注業務ごとなのか、あるいは受託事業者側の事業ごとなのかという問題である。
この点、政府当局の見解としては、受託事業者が行う個別の業務単位ではなく事業単位で、従業員を使用しているかどうかを判断する必要があるとのことである。
【論点5】出資者が法人である場合の1人社長会社
フリーランス新法は、個としてのフリーランスを保護する目的で制定されている。
そのため、出資者が法人であるような1人社長会社は、通常それなりの規模の企業が設立する会社であることから、フリーランス新法による保護にはなじまないように思える。
しかし、フリーランス新法は出資者が法人か自然人かの区別をしておらず、少なくとも形式的には、そのような1人社長会社でも、他に「役員」や従業員がいないのであれば、フリーランスとしてフリーランス新法による保護を受けるように見える。
果たしてそうだろうか。
【論点2】の「役員」の箇所で触れたように、取締役等に準ずる者、すなわち創業者や大株主のような実質的に法人の経営に参画できる立場・地位にある者は役員に該当し、代表者(社長)以外に当該役員がいることになり、フリーランスの定義から外れないだろうか。
井坂委員質問の想定する例では、多くの場合、子会社の1人社長は独立採算で自由に経営できるということはなく、親会社の社長や担当役員、あるいは担当部長からの指揮命令を受けることになる。その場合、実質的な意味での「役員」が別にいることにならないだろうか。
小括 フリーランスかどうか判別は無理!
ここまで見てきたとおり、取引の相手方が個人事業主の場合は当然として、法人の場合でも、本当にフリーランスなのかどうかは判別し難い。
加えて、事後的に取引の相手方がフリーランスに該当してしまうこともある。
そのため、筆者としては、一見明らかにフリーランスではないと認められる取引の相手方以外は、発注から契約終了まで、常に取引の相手方をフリーランスとみなすことが安全であると考える。
なお、そうすると発注事業者としては相当の負担になるという批判もあり得るところだが、次の3点で答えられると思う。
フリーランス新法の規制内容は「普通」にやればクリアできる「当たり前」の内容であり負担増になるということはないはずではないか
取引の相手方がフリーランスかどうかを調査・確認することの手間とコストの方がかかるのではないか
規制の違反行為の一部に対しては公表措置や刑事罰もあり得ることから、仮に一定の負担増となるとしても、リスク・ベースで考えるべきではないか
取引適正化に関する規律内容と論点
書面等による取引条件の明示
ルール① 取引条件の明示主体
発注事業者は、フリーランスに対し業務委託を行った場合、直ちに、フリーランスに対し、①給付の内容、②報酬の額、③支払期日、④その他の取引に関する事項(詳細は公正取引委員会規則で決定される)を書面又は電磁的方法(「書面等」)により明示しなければならない(フリーランス新法第3条第1項)。
ここでの注意点は、フリーランス新法でいうフリーランスも、他のフリーランスに対して業務委託を行う場合、書面等により取引条件を明示しなければならないことである。例えば、デザイン作成のためアシスタント業務をフリーランスに再委託するフリーランスとしてのデザイナーは、当該アシスタントに対し書面等により取引条件を明示しなければならない。
これは、フリーランス間の取引を含め、多くの場合に口頭での契約締結(口約束)となっており、発注時点で報酬や業務内容が明示されないことやそれらに起因するトラブルが多発していることを立法事実とする。
ルール② 明示事項
フリーランス新法第3条第1項によりフリーランスに対して明示することが必要な事項は、概ね次のようなものになることが想定される。
上記は下請法第3条の書面の記載事項等に関する規則第1条第1項と自営型テレワークガイドラインを参考に作成した。
厳密には公正取引委員会規則を待つことになるが、下請法において書面交付義務が定められている趣旨も、発注時の取引条件が不明確でトラブル発生時に下請事業者が不利益を受けることが多いことから、トラブルを未然に防止する点にあり、フリーランス新法第3条第1項の趣旨と共通するため概ねこのとおりになろう。
この点、「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会 これまで(令和元年6月中間整理以降)の議論のご意見について」9頁においては、「自営型テレワークガイドライン」の記載事項を参考とすることが提言されていた。
自営型テレワークガイドラインの記載事項と下請法第3条の記載で大きく異なるのは、注文者の氏名や名称だけでなく所在地や連絡先の記載、諸経費の取扱いの記載、知的財産権の取扱いの記載が必要な点である。
下請法は資本金1000万円超の親事業者と取引できる規模の下請事業者を想定とした法律で、多くの零細なフリーランスは資本金1000万円以下の事業者と取引を行うことが通常であり(前述)、フリーランスは下請法が対象とする下請事業者よりも「自営型テレワーカー」寄りと考えられる。
そうである以上、特に連絡先は重要であるし、諸経費の取扱いや知的財産権の取扱いなど下請法のルールよりもより細かい事項についてまで明示することが必要とされても不思議はない。
ここでのポイントは、もし明確に書面等で取引条件を定めておかないと、下請事業者やフリーランスが不利益を受けるという点である。
つまり、立証責任(挙証責任)が下請事業者やフリーランス側にある場合に、口約束ではその合意内容の存在を立証できないからこそ、書面等による明示が必要なのである。
裏を返せば、立証責任が親事業者や発注事業者にある場合、例えば、下請事業者やフリーランスの事情による中途解約に関し違約金が設定されているような場合、その違約金の支払いの合意を立証しなければならないのは親事業者や発注事業者であり、口約束ではそれも困難なため、このようなケースでは下請事業者やフリーランスにとって取引条件が明確ではないことは特段不利益ではない(むしろ踏み倒すことができ有利)。
このように考えると、一部識者が提案する中途解約時の費用や違約金の定めについて書面等による明示事項に追加されることはないと考えられる。
(もちろん、中途解約を不相当に制限することを制約する趣旨でのルール作りを否定するものではない)
なお、明示事項の記載の程度(どの程度具体的に記載すべきか)についての、政府当局の見解は次のとおりである。
【論点】契約の終了事由(解除事由含む)の明示
この点、現時点では下請法のルールにおいても解除事由を含む契約の終了事由について明示することが求められていない。
他方で、フリーランス新法を国会に提出するに際して行われたパブコメに付された「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」では継続的な業務委託に限るものの、「契約の終了事由」を書面等に記載しなけれならないという案が出されていた(同1頁)。
しかし、フリーランス新法に関する政府当局の見解によれば、当面は解除事由を含む契約の終了事由の明示は求めないとのことである。
これを受けて、フリーランス新法の附帯決議において、次のように求められている。
ルール③ 明示方法
取引条件の明示の方法は、次のいずれかとされている。
書面
電磁的方法
ここでいう電磁的方法に何が含まれるのかは公正取引委員会規則を待つことになるが、これまでの法制(下請法・労働基準法)との関係や実務との関係を踏まえると、次の3つが考えられる。
いずれの方法であっても、フリーランスが電磁的記録(ファイル)を出力して書面を作成することができる方式であることが必要となるはずである(下請法第3条の書面の記載事項等に関する規則第2条第2項)。
電子メールでファイルを送信し受信させる
SNS等のDM機能でファイルを送信し受信させる
発注事業者のウェブサイト(ホームページ等)を閲覧させ、ファイルをダウンロードして保存させる
<参考>
【論点】仲介プラットフォームを利用した場合の明示方法
例えば、フードデリバリープラットフォームの場合で、注文者(個人消費者)が同プラットフォームを利用して飲食店に注文を出し、その飲食店が配達業務を配達員に発注するとき、飲食店が発注事業者、配達員がフリーランスに該当するが、飲食店がフリーランスに取引条件を明示しなければならないのか、それともプラットフォーム上で明示できるのか。
この点、政府当局の見解としては、次のとおりであり、プラットフォームのような仲介事業者を利用する場合には、発注事業者が仲介事業者を介してフリーランスに取引条件を明示することも認められるとのことである。
なお、「フードデリバリー配達員の就業環境整備に関するガイドライン」においては「配達業務の条件の明示」として、次の事項を個別に配達員に通知することとされているようである(同5頁)。
配達業務の内容(例えば、受け渡し場所と配達先に関する情報、当該配達にかかる想定時間または想定距離等が考えられる)
当該配達により提供される想定報酬額又はその算定方法
報酬の支払い期日
報酬の支払い方法
その他配達に関係する事項
ルール④ 明示時期
原則として、発注事業者はフリーランスに対し業務委託を行った場合、「直ちに」取引条件を書面等により明示しなければならない。
「直ちに」というのは、「すぐに」という意味である(下請取引適正化推進講習会テキスト30頁)。
つまり、後日ではダメで、遅くとも当日中に行う必要がある。
とはいえ、取引の性質上、取引条件によっては発注時点で定めることが難しいものもあり、それが正当な理由によるのであれば、発注時点で定められなかった理由とその内容を定めることとなる予定期日を、発注時点で交付する書面等(当初書面)に記載しなければならないというのが下請法上のルールである(下請法第3条の書面の記載事項等に関する規則第1条第3項)。
フリーランス新法にも同様の例外ルールがあり、取引条件のうち、その内容を定めることができないことに正当な理由があるものは、その明示を要しないこととし、当該取引条件の内容が定められた後、直ちに、それを書面等にて明示すれば足りる(フリーランス新法第3条第1項但書)。
なお、書面等による取引条件の明示は、あくまで当事者間において契約内容の全部又は一部につき合意がある状態で、合意後、直ちに、行わなければならないものである。
つまり、契約の締結自体は、必ずしも契約書等の書面で行う必要はなく、口頭でも構わない。構わないが、発注事業者は、その後、直ちに、取引条件を明示した書面等をフリーランスに交付しなければならない。こういうルールである。この点誤解が多いように思われるため、念のため補足する。
もちろん立法論としては、発注事業者に対し契約締結(合意)前に取引条件を明示した上で発注させる義務を課し、その発注をフリーランスが受けた後、直ちに、その合意内容を確認する趣旨で書面等を交付させることもなくはない。しかし、これでは発注事業者に二度手間をかけることになり、発注事業者がフリーランスに対し発注することに二の足を踏むことになりかねないとして、規制は見送られている。
期日における報酬支払
ルール① 支払期日の定め[原則]
発注事業者は、フリーランスに対し業務委託を行った場合の報酬の支払期日について、給付内容の検査を行うかどうかを問わず、発注事業者がフリーランスから給付を受領した日又は役務提供を受けた日(給付等受領日)から起算して60日以内(できる限り短い期間内)として定めなければならない(フリーランス新法第4条第1項)。
基本的には下請法第2条の2第1項や家内労働法第6条第2項を参考とするルールだと思われる。
上記ルールが遵守されなかった場合の対応として、次の①②の場合には、それぞれに対応する日が支払期日となる(フリーランス新法第4条第2項)。
① 支払期日が定められなかった場合
給付等受領日
② 支払期日が給付等受領日から60日を超えた日に定められた場合
給付等受領日から60日を経過する日
これは下請法第2条の2第2項を参考とするルールだと思われる。
個人的には上記①が②よりも支払いタームが短くなることに少し違和感があるが、ルールとしては上記のとおりであり、発注事業者としては、給付等受領日から60日を超えるとしても(もちろん超えるべきではないが)、少なくとも支払期日の定めはすべきである。
【論点】支払期日の定めとはどのようなものが該当するか
一般に「支払期日」として次のような定め方がありうる(他にもあるとは思う)が、そのうちフリーランス新法における支払期日の定めとして許容されるのは次の③④のみと考えられている。
個人的には、②はともかく、①がダメな理由に納得できていない。
確かに具体的な支払日は特定されていないが、支払期限のいずれかという意味では特定できているし、もっといえば、支払期限の末日という特定もできる。
●月●日までという定めにおいて、その前日より前に支払いがされて困るフリーランスや下請事業者はいないのであって、支払期限が明確であれば何ら問題ないはずではないか。この点は、④に関する「なお、定められた支払期日より前に下請代金を支払うことは差し支えない。 」というコメント(下請取引適正化推進講習会テキスト35頁(Q47))のとおりであろう。
なお、④の場合、31日ある月(いわゆる大の月)もあることから、月の初日に給付を受領したものの支払が、受領から61日目又は62日目の支払となる場合がある。
このような場合の取扱いについては公正取引委員会によれば、次のとおりである。
ルール② 支払期日の定め[再委託]
発注事業者からフリーランスへの通常の委託のケースは上記ルール①のとおりであるが、元委託者→発注事業者→フリーランスという再委託のケースでは次のようなルールとなっている。
元委託者から業務委託を受けた発注事業者が、当該元委託業務の全部又は一部をフリーランスに再委託した場合で、かつ、再委託である旨等をフリーランスに明示した場合、再委託に係る報酬の支払期日は、元委託業務に係る報酬の支払期日から起算して30日以内(できる限り短い期間内)として定めることができる(フリーランス新法第4条第3項)。
少しわかりづらいと思われるため、簡単に要約すると次のとおりである。
原則として、報酬の支払期日は給付等受領日から60日以内で定める必要がある(ルール①)
仮に、元委託者から発注事業者への報酬の支払期日が、元委託者への納品等から60日と設定されている場合、ルール①によれば、発注事業者は遅くとも元委託者から支払いを受けたその日のうちにフリーランスに報酬を支払う必要がある(無茶)
そこで、発注事業者は、ルール①は度外視して、元委託者から発注事業者への報酬の支払期日(実際に報酬が支払われた日ではなく、元委託者と発注事業者との間で定められた支払予定期日のこと)から30日以内にフリーランスに報酬を支払うこととすればよい(ルール②)
ただし、これは発注事業者のオプションであるため、ルール①に従うかルール②を使うかは発注事業者が選択可能
ルール②は、再委託のケースに関しルール①の適用を免れうる点で発注事業者の利益になる面もあるが、仮に元委託者からの報酬が現実に発注事業者の手元に入ってこなくても、元委託者から発注事業者への報酬の支払期日から30日以内にはフリーランスに報酬を支払う必要がある点で相応のリスクもある。
フリーランスとしては、ルール①のケースと比べて報酬を受領できるサイトが長期化することが想定されるが、発注事業者がルール②を適用するためには、あらかじめ再委託のケースであることなどの明示を受けることになっているため「予想外」ということにはならない。
なお、発注事業者が元委託者から前払金の支払いを受けた場合、それをフリーランスに対し、資材調達その他業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない(フリーランス新法第4条第6項)。元委託者から発注事業者が前払金を受け取っているということは、業務の遂行に一定の準備とそのための費用がかかるということであり、それを実働するフリーランスの持ち出しとするのではなく適切に配分すべきということである。
ルール③ 支払期日における報酬支払
発注事業者は、ルール①②により定められた支払期日までに、フリーランスに対し報酬を支払わなければならない(フリーランス新法第4条第5項)。
【論点1】フリーランスが請求書を期限内に提出しない場合
発注事業者においてフリーランスに報酬の支払いを行うに当たり社内決裁を得るため、フリーランスから提出される請求書が必要となるケースも多いと思われる。また、一歩進めて、フリーランスからの請求書を受領してから●日以内に支払うとか(なおこういう定め方は違法であることについてはルール①の【論点1】参照)、当月末日締め・翌月●日払いとかの契約になっていることも少なくない。
そのとき、フリーランスが所定の期限内に請求書を発注事業者に提出しない場合でも、発注事業者は給付等受領日から60日以内(正確には当初定められた支払期日)に報酬を支払う必要があるのか。
この点、ルール③と同様のルールを定めた下請法第4条第1項第2号に関し、公正取引委員会は次のように考えている。
仮に督促を行ってもフリーランスが請求書を提出しない場合でも、発注事業者としては報酬を支払期日までに支払う必要がある。
さすがにこのようなケースにおいてまで報酬を支払わないことに対し所管省庁から勧告・命令を受けるとは考えにくいが、それでも命令違反には刑事罰もあり得ることから、社内手続(マニュアル)を遵守することとどちらが重要なのか、検討し判断する必要がある。
【論点2】フリーランスの給付に瑕疵があり返品等を行った場合
フリーランス新法においても、フリーランス側に帰責事由があるような場合には、発注事業者は支払期日に報酬を支払う必要はないとされている(同法第4条第5項但書)。
その場合であっても、その帰責事由が消滅した日、つまりやり直し完了又は再納品から起算して60日以内(再委託のケースは30日以内)に報酬を支払わなければならない。
【論点3】情報成果物の作成をフリーランスに委託しその内容の検査中に支払期日が経過してしまった場合
前提として、発注事業者は、検査を行うかどうかにかかわらず、情報成果物の受領後60日以内として定めた支払期日までにフリーランスに対し報酬を支払う必要がある(ルール①)。
他方で、情報成果物作成委託において、正式な受領前に、委託した情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認したい場合もあるが、その確認を行うために一時的に支配に置くことは情報成果物の受領には該当しないとされている。
しかし、これはあくまで内容確認のための例外措置であり、「検査終了後に受領することを認める趣旨ではない」(下請取引適正化推進講習会テキスト48頁(Q63))ことから、支払期日において情報成果物を仮受領したままの場合、支払期日をもって受領日と判断される。
【論点4】仲介プラットフォームが間に入り支払事務を行う場合
例えば、下請法において、商社が親事業者と下請事業者の間に入るようなケースに関し、公正取引委員会は次のように考えている。
そのため、発注事業者は仲介プラットフォームを介してフリーランスに業務委託を行う場合で、かつ、報酬は仲介プラットフォームに支払い、そこから一定の手数料等を控除の上フリーランスに渡されるという場合、仲介プラットフォームからフリーランスへの支払いタームについてあらかじめ確認しておく必要がある。
発注事業者から仲介プラットフォームを経由しフリーランスに着金するまでの間が60日以内となるように、支払期日を設定しなければならないためである。
【論点5】金融機関の休業日のため60日を超えてしまう場合
報酬を毎月の特定日(例えば毎月10日)に銀行の振込送金を利用して支払うこととしている場合に、支払日が銀行の休業日に当たることがある。
このときの取扱いについては公正取引委員会によれば次のとおりである。
なんにせよ、発注事業者とフリーランスの間で順延につき合意されている必要がある。
【今後の課題?】報酬の支払方法
フリーランス新法において、報酬の支払方法には限定が置かれていない。
この点、労働基準法や家内労働法においては、賃金や工賃は、原則として通貨(現金)で、かつ、本人に直接支払う必要があるとされている(通貨払の原則、直接払の原則)。
また、下請法においては報酬の支払方法の限定はないものの割引困難な手形の交付は禁止されており(同法第4条第2項第2号)、公正取引委員会からは可能な限り現金で支払うこと、手形での支払いであってもサイトは60日以内とすることなどが要請されている(下請代金の支払手段について)。
フリーランス新法において通貨払の原則や直接払の原則が採用されなかったのは、次の2つの理由があると思われる。
フリーランスは独立した事業者であることから、支払方法については、現金・手形・電子マネー・ポイント等自由に合意すべきである(万が一ジャンクな手形等を掴まされるようなことがあれば独禁法の優越的地位の濫用で対応する)
フリーランスは仲介プラットフォームを利用して業務を行うことも多く、プラットフォーマーを介した支払いになることが想定されるため、調整困難
禁止行為
全体像
フリーランス新法において、発注事業者は、フリーランスへの業務委託のうち、更新を含み政令で定める期間以上の期間行うものに関し、次の①から⑦の行為を行ってはならないとされている(同法第5条第1項・第2項)。
【論点1】政令で定める期間とは
フリーランス新法第5条が禁止している7類型の行為は、いずれもフリーランス側に帰責事由がないか、フリーランス側の窮状や発注事業者の依存につけ込む不当ないし不正な行為であり、一定の期間継続する業務委託に限定して禁止する必要があるか疑問である。
参考としている下請法第4条においてこのような限定はない。
ただし、優越的地位の濫用について定める独占禁止法第2条第9項第5号においては、取引に係る商品・役務以外の商品・役務を購入させること(イ)や自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(ロ)については継続して取引する相手方に対して行うもののみが対象となっている。
政府当局の見解では、発注事業者に「重すぎる負担が生じることのないよう」配慮されたとされているが、上記のとおりいずれも不当ないし不正な行為であり、これを行わないようにするために負担やコストがかかるというのはもはや暴論である。
また、契約期間が3か月から6か月を超えるとフリーランスが不利益行為を受けやすい傾向があるとのことだが、行為の性質上、ハラスメントとは異なり、契約期間の長短に応じて被害を受ける可能性が増減するわけではないことから、契約期間が3か月から6か月未満でも規制すべきである。
「ブラック」な発注事業者への行き過ぎた配慮であり、かかる限定は撤廃されるべきである。
【論点2】「基本契約+個別契約」型
基本契約においてあらかじめ共通する事項を定め、個別の業務内容や報酬の額等については個別契約が締結されるという場合がある。
例えば、頻度としては月に1回くらいの発注にすぎないとしても、その基本契約において契約期間が6か月とか1年とかになっていると、禁止行為の対象となる業務委託ということになる。
ルール① 受領拒否
禁止される受領拒否に該当する行為は次の①②の要件を満たす行為である。
成果物の「受領を拒む」とは、フリーランスの給付の全部又は一部を納期に受け取らないことであり、次のような行為も含まれると考えられる(下請取引適正化推進講習会テキスト40頁参照)。
発注取消し(契約解除)により、フリーランスの給付の全部又は一部を納期に受け取らないこと
納期を一方的に延期することにより、フリーランスの給付の全部又は一部を納期に受け取らないこと
フリーランスに帰責事由がある場合は次のいずれかに限られると考えられる(下請取引適正化推進講習会テキスト40-41頁参照)。
フリーランスの給付内容が明示された取引条件と異なる場合
フリーランスの給付に瑕疵等がある場合
フリーランスの給付が納期までに行われなかったため、給付そのものが不要になった場合
フリーランスが正式な発注に基づかず見込みで成果物を作成した場合
<違反事例>
※ 上記フリーランスに帰責事由がある場合を除き一切の受領拒否は違法
業績不振や売行き不振を理由とした受領拒否
無理に変更(短縮)した納期への遅れを理由とした受領拒否
仕様変更を理由とした受領拒否
発注事業者の取引先等上流の都合(放送番組の打切りを含む)を理由とした受領拒否
ルール② 報酬減額
禁止される報酬減額に該当する行為は次の①②の要件を満たす行為である。
報酬の額を減ずることの例は次のとおり。
単価改定(引下げ)につき過去分の発注にまで遡及適用する
消費税等相当額を支払わない
合意なく銀行振込送金にかかる手数料を報酬から差し引く
実費を超えた手数料を報酬から差し引く
納期遅れによる商品価値低下分を報酬から差し引く
1円以上の端数を切り捨てる
「協力金」等の名目で報酬から一定額・割合を差し引く
報酬は据え置きで数量を増加させる
システム開発費・保守費等本来発注事業者が負担すべき費用を「システム利用料」等として報酬から差し引く
フリーランスに帰責事由があり報酬減額が認められる場合は次のいずれかに限られると考えられる(下請取引適正化推進講習会テキスト53頁参照)。
フリーランスの給付に瑕疵や納期遅れ等があり、受領拒否(ルール①)や返品(ルール③)が認められる場合で、受領拒否や返品をした分の給付にかかる報酬の額を減ずるとき
上記場合で、発注事業者自ら修補を行い、それに要した費用など客観的に認められる額を減ずるとき
上記場合で、商品価値の低下が明らかで、客観的に相当と認められる額を減ずるとき
<違反事例>
※ 上記フリーランスに帰責事由がある場合を除き一切の報酬減額は違法
業績不振、売行き不振、予算不足を理由とした報酬減額
無理に変更(短縮)した納期への遅れを理由とした報酬減額
納品数量の増加にもかかわらず報酬据え置きによる報酬減額
発注事業者の取引先等上流の都合(放送番組の打切りを含む)を理由とした受領拒否
【論点1】中途解約に対する違約金や事故等に対する罰金等の名目で報酬から一方的に相当額を控除すること
民商法との関係では、フリーランス側からの中途解約に対する違約金の定めやフリーランスによる事故発生等に対する罰金(損害賠償)の定めを設けることが直ちに否定されるわけではない。
この点、一部識者はこれが報酬減額か不当な経済上の利益の提供要請、あるいは買いたたきとして許されないとする。
しかし、仮に有効な違約金や損害賠償であれば、それと報酬の額を相殺する形で控除することは違法とは思われない。
もし、これが違法になるケースがあるとすれば、違約金や罰金等の額や算定根拠等につきフリーランスと十分協議することなく一方的に定めたような場合であり、それはフリーランス新法ではなく独占禁止法第2条第9項第5号ハの優越的地位の濫用の一類型である一方的な取引条件の設定として問題になるものと思われる。
【論点2】インボイス発行事業者でないこと(免税事業者であること)を理由として報酬減額
発注後に、取引の相手方であるフリーランスがインボイス発行事業者ではないこと(免税事業者であること)を理由として報酬を減額することに正当な理由はないとされている。
したがって、発注事業者としては発注前に取引の相手方であるフリーランスがインボイス発行事業者か免税事業者かよく確認しておき、発注後に報酬減額するようなことがないようにしなければならない。
なお、発注前であっても、取引の相手方であるフリーランスがインボイス発行事業者ではないこと(免税事業者であること)のみを理由に、他のインボイス発行事業者であるフリーランスと異なる対価を定める場合、その乖離の状況・程度次第では差別的対価として買いたたきに該当し得る。
ルール③ 返品
禁止される返品に該当する行為は次の①②の要件を満たす行為である。
返品の定義については、字義どおりである。
フリーランスに帰責事由があり返品が認められる場合は次のいずれかに限られると考えられる(下請取引適正化推進講習会テキスト61-62頁参照)。
フリーランスの給付内容が明示された取引条件と異なる場合
フリーランスの給付に瑕疵等がある場合
ただし、上記いずれかの場合でも、返品可能な期間には制限がある。
① 直ちに発見することができる瑕疵がある場合
→受領後速やかに返品可能
② 直ちに発見することができない瑕疵がある場合
→給付の受領後6か月以内であれば返品可能(商法第526条第2項後段)
<違反事例>
※ 上記フリーランスに帰責事由がある場合を除き一切の返品は違法
商品の入替えを理由とした返品
恣意的な検査基準の変更による返品
受領後6か月を超えた返品
受入検査を行わない返品
取引先のキャンセルを理由とした返品
ルール④ 買いたたき
禁止される買いたたきに該当する行為は次の行為である。
この買いたたきに該当するかどうかは、次の要素から総合的に判断される。
(下請取引適正化推進講習会テキスト66頁参照)
報酬の額を決定するに当たり、フリーランスと十分な協議が行われたかなど報酬の決定方法
差別的であるかなど報酬の決定内容
「通常支払われる対価」と当該給付に対して支払われる対価との乖離状況
当該給付に必要な原材料等の価格動向
次のような方法で報酬の額を定めることは買いたたきに該当するおそれがあるとされている。(下請取引適正化推進講習会テキスト66頁参照)
見積り時点より発注内容が増加したのに報酬の額の見直しをしない
発注事業者の予算単価のみを基準として一方的に通常支払われる対価より著しく低い単価で報酬の額を定める
短納期発注なのにフリーランスに追加発生する費用を考慮せず通常の対価より低い報酬の額を定める
成果物に知的財産権が含まれる場合に、その知的財産権の対価についてフリーランスと協議することなく一方的に通常支払われる対価より低い額を定める
労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコスト上昇分の取引価格への反映の必要性について交渉の場で協議せず、従来どおりの価格に据え置く
なお、買いたたきと報酬減額は、前者が発注時点で問題となるのに対し、後者は発注後に問題となる点で棲み分けされる。
【論点】知的財産権の取扱い
委託業務の成果物に著作権等の知的財産権が発生するケースも多いが、それを発注事業者に帰属させる場合に、権利譲渡にかかる対価は報酬に含まれているとして、フリーランスと十分な協議をせず、一方的に、権利譲渡を合わせて通常支払われる対価より低い額を報酬と定めるような場合は、買いたたきの問題となる。
他方、委託業務以前にフリーランスが保有している著作権等の知的財産権について、その権利の譲渡や利用許諾を無償又は著しく低額で要請するようなケースは、その他経済上の利益の提供要請(ルール⑥)の問題となる。
ルール⑤ 購入・利用強制
禁止される購入・利用強制に該当する行為は次の行為である。
ここでいう「自己が指定する物…又は役務」とは、発注事業者の供給する物品又は役務のみならず、発注事業者の関連会社等発注事業者が指定する事業者が供給する物品又は役務を含む(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」11頁)。
また、「強制」には次のものが含まれる(下請取引適正化推進講習会テキスト73頁参照)。
物品の購入又は役務の利用を取引の条件とする
購入又は利用しないことに対して、取引打切りや取引頻度減少等の不利益を与える(そのように脅す)
その他、フリーランスとの取引関係を利用して、事実上、購入又は利用を余儀なくさせる
次のような方法でフリーランスに自己の指定する物品の購入又は役務の利用を要請することは購入・利用強制に該当するおそれがある(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」12頁、下請取引適正化推進講習会テキスト73頁参照)。
発注担当者等のフリーランスとの取引関係に影響を及ぼしうる者が商品又は役務を指定し、その購入又は利用を要請すること
フリーランスに対して購入又は利用しなければ不利益な扱いをする旨示唆して購入又は利用を要請すること
フリーランスに対し、目標額(量)(ノルマ)を定めて組織的又は計画的に購入又は利用を要請すること
フリーランスが購入又は利用する意思がない旨表明したにもかかわらず、又はその表明がなくとも明らかに購入又は利用する意思がないと認められる場合に、重ねて購入又は利用を要請すること
フリーランスから購入する旨の申出がないのに、一方的に物品を送付すること
なお、独占禁止法における購入・利用強制の事案としては、三井住友銀行事件が有名である。
ルール⑥ 不当な経済上の利益の提供要請
禁止される不当な経済上の利益の提供要請に該当する行為は次の行為である。
ここでいう「経済上の利益」とは、協力金や協賛金等の金銭、従業員等の派遣等の役務、その他名目を問わず、報酬の支払いとは独立して行われる金銭の提供、作業への労務の提供等を含む(下請取引適正化推進講習会テキスト80頁参照)。
また、フリーランスの利益を「不当に害する」には、次のものが含まれる(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方10頁、下請取引適正化推進講習会テキスト80頁参照)。
フリーランスが発注事業者に対し経済上の利益を提供することがフリーランスの「直接の利益」(例えば、発注事業者が作成する広告にフリーランスが納入する商品が掲載されるため、広告作成費の一部を協賛金としてフリーランスに負担させることが販促につながる場合など経済上の利益を提供することにより実際に生じる利益を指し、協賛金を負担することで将来の取引を有利にするなど間接的な利益は含まれない)にならない場合
フリーランスが発注事業者に対し経済上の利益を提供することとフリーランスの利益との関係を発注事業者が明確にせず提供する場合
フリーランスの負担額・算出根拠・使途等につきフリーランスとの間で明確になっておらず、フリーランスにあらかじめ計算できない不利益を与える場合
次のような方法で自己のために経済上の利益の提供要請を行うことは、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある(下請取引適正化推進講習会テキスト80頁参照)。
発注担当者等のフリーランスとの取引関係に影響を及ぼしうる者がフリーランスに対し金銭や労働力の提供を要請すること
フリーランスに対し、目標額(量)(ノルマ)を定めて金銭や労働力の提供を要請すること
フリーランスに対し、要請に応じなければ不利益な扱いをする旨示唆して金銭や労働力の提供を要請すること
フリーランスが提供する意思はないと表明したにもかかわらず、又はその表明がなくても明らかに提供する意思がないと認められるにもかかわらず、重ねて金銭や労働力の提供を要請すること
発注事業者がフリーランスに発生した知的財産権を、作成の目的たる使用の範囲を超えて無償で譲渡・許諾させること
発注事業者が、情報成果物の二次利用について、フリーランスが知的財産権を有するにもかかわらず、収益を配分しなかったり、収益の配分割合を一方的に定めたり、利用を制限すること
発注時にフリーランスの給付の内容になかった知的財産権やノウハウ(顧客リスト等)が含まれる技術資料を無償で提供させること
発注事業者がフリーランスに対し、無償での技術指導や試作品の製造等を行わせること
ルール⑦ 不当な給付内容の変更・やり直し
禁止される不当な給付内容の変更又はやり直しに該当する行為は次の行為である。
給付内容の変更とは、フリーランスからの給付の受領前に、明示した取引条件のうち給付の内容を変更し、当初発注した内容とは異なる作業を行わせることをいう。当初の発注を取消すこと(契約の解除)も含まれる。
この作業に関し、フリーランス側に生じた作業量の増加分にかかる報酬が支払われない場合には報酬減額(ルール②)の問題にもなり得る。
やり直しの要請とは、フリーランスからの給付の受領後に、給付に関して追加的な作業を行わせることをいう。
このように、給付内容の変更とやり直しの要請は、給付の前後により区別される。
フリーランスの利益を「不当に害する」とは、次のような場合を指す(下請取引適正化推進講習会テキスト84頁参照)。
給付内容の変更又はやり直しによって、フリーランスがそれまでに行った作業が無駄になり、発注事業者がその費用を負担しないこと
給付内容の変更又はやり直しによって、フリーランスにとって当初委託された内容にはない追加的な作業が必要となった場合に、発注事業者がその費用を負担しないこと
ただし、給付内容の変更又はやり直しのために必要な費用を発注事業者が負担するなどにより、フリーランスの利益を不当に害しないと認められる場合には、不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの問題とはならない。
フリーランスの帰責事由として認められるのは次の3つのいずれかである。
給付受領前に、フリーランスの要請により給付内容を変更する場合
給付受領前にフリーランスの給付の内容を確認した結果、給付の内容が明示した取引条件とは異なること又はフリーランスの給付に瑕疵等があることが合理的に判断され、給付の内容を変更させる場合
給付受領後、フリーランスの給付の内容が明示した取引条件と異なるため又は下請事業者の給付に瑕疵等があるため、やり直しをさせる場合
次のような場合は、不当な給付内容の変更又は不当なやり直し要請に該当するおそれがある(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」12頁)。
役務等の提供を受ける前に、自己の一方的な都合により、あらかじめ定めた役務等の仕様を変更したにもかかわらず、その旨をフリーランスに伝えないまま、継続して作業を行わせ、提供時に仕様に合致していないとして、フリーランスにやり直しをさせること
委託内容についてフリーランスに確認を求められて了承したため、フリーランスがその委託内容に基づき役務等を提供したにもかかわらず、役務等の内容が委託内容と異なるとしてフリーランスにやり直しをさせること
あらかじめ定められた検査基準を恣意的に厳しくして、発注内容と異なること又は瑕疵があることを理由に、やり直しをさせること
フリーランスが仕様の明確化を求めたにもかかわらず、正当な理由なく仕様を明確にしないまま、フリーランスに継続して作業を行わせ、その後、フリーランスが役務等を提供したところ、発注内容と異なることを理由に、やり直しをさせること
就業環境の整備に関する規律内容と論点
募集情報の的確な表示
ルール
発注事業者は、新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告等により、業務内容等フリーランスの募集に関する情報を提供する場合、次の3つのルールを遵守しなければならない(フリーランス新法第12条第1項・第2項)。
その募集情報について、虚偽の表示をしてはならない
その募集情報について、誤解を生じさせる表示をしてはならない
その募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければならない
これは、広告等に掲載された募集条件と実際の取引条件が異なることにより、発注事業者とフリーランスとの間でトラブルが生じたり、フリーランスが別のより希望に沿った取引を行う機会を逸してしまうことを防止する趣旨(フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A10頁)。
次のような表示がこのルールの違反となるおそれがある(フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A10頁)。
意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する(虚偽表示)
実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集を行う(虚偽表示)
報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示する(誤解を生じさせる表示)
業務に用いるパソコンや専門の機材など、フリーランスが自ら用意する必要があるにもかかわらず、その旨を記載せず表示する(誤解を生じさせる表示)
既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける(古い情報の表示)
論点
【論点1】募集情報の内容
虚偽表示等が禁止される募集情報は、業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項とされている。
この政令で定める事項は、次のようなものが想定されている。
なお、雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会 これまで(令和元年6月中間整理以降)の議論のご意見について」9頁においては、自営型テレワークガイドラインの記載事項等を参考にすることが提案されていた。
自営型テレワークガイドラインには募集時に文書・電子メール・ウェブサイト上などで明示しなければならない事項として、次の6つが挙げられている(「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」2頁)。
注文する仕事の内容
成果物の納期予定日(役務の提供である場合は、役務が提供される予定期日又は予定期間)
報酬予定額、報酬の支払期日及び支払方法
注文する仕事に係る諸経費の取扱い
提案や企画、作品等に係る知的財産権の取扱い
上記募集内容に関する問合せ先
【論点2】仲介プラットフォームでの募集情報の提供
仲介プラットフォームを用いて発注事業者とフリーランスがマッチングされることもあり得るが、仲介プラットフォームへの募集情報の掲載もフリーランス新法第12条第1項でいう「広告等」に含まれるか。
この点、広告以外の媒体としては、文書の掲出や頒布のほか厚生労働省令で定める方法とされている。
厳密には厚生労働省令を待つことになるが、書面等による取引条件の明示における明示方法の箇所において、プラットフォームを介した明示が認められることと同じように、おそらく、募集の場面においても、プラットフォームを介した募集情報の広告等が認められるものと思われる。
【論点3】このルールが適用されないケース
このルールが適用されないケースとしては、次の2つが想定される。
不特定多数者に対する募集情報の提供がされないケース(特定個人との交渉において募集情報が提示されるケース)
発注事業者とフリーランスの間の合意に基づき広告等に掲載した募集情報を変更するケース
育児介護等と業務の両立配慮
ルール
発注事業者は、政令で定める期間以上の期間継続する(更新による継続も含む)「継続的業務委託」につき、フリーランスからの申出に応じ、フリーランスが妊娠、出産、育児又は介護(「育児介護等」)と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければならない(フリーランス新法第13条第1項)。
また、継続的業務委託以外の業務委託の場合であっても、フリーランスの申出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう必要な配慮をするよう努めなければならない(フリーランス新法第13条第2項)。
ここでいう「政令で定める期間」は1年となる可能性が高いと考えられる。
なお、この「継続的業務委託」の概念はフリーランス新法第16条第1項の解除・不更新の事前予告のルールに関しても適用される。
また、「必要な配慮」とは、政府当局では次のようなものが想定されているようである。
ここでは上記のような必要な配慮が求められているのであり、フリーランスの申出に対し、その内容を検討し、可能な範囲で対応を講じれば足り、申出内容を実現することまでは求められない。
そのような緩やかなルールであるため、このルールへの違反に対しては、指導・助言の対象とはなるものの、報告・調査、勧告、命令・公表、そして刑事罰の対象とはならない。(実効性という観点ではレピュテーションのみ)
ただし、どういうわけか、フリーランス新法の附帯決議において、次のようなものが定められており、当面は指導・助言の対象として必要な配慮を促していくにとどまると思われるが、3年後の見直しを検討すべしとされているため、違反状況次第では、調査・報告、勧告、命令・公表、刑事罰の対象に追加される可能性もある。
論点
【論点】「基本契約+個別契約」型
禁止行為の箇所でも触れたが、「基本契約+個別契約」型の場合、政府当局の見解では次のようになる。
雑感 このルールの正当性
このルールの趣旨は、フリーランスの多様な働き方に応じて、発注者が柔軟に配慮を行うことにより、フリーランスが育児介護等と両立しながら、その有する能力を発揮しつつ業務を継続できる環境を整備することにあると説明されている(フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A11頁)。
これは、フリーランス側の視点だろうか。それとも発注事業者側の視点も入っているのだろうか。もし、フリーランスが育児介護等の必要に迫られた場合、業務継続が困難となり不都合が生じるのはフリーランスだけなのか、それとも発注事業者にも不都合が生じるのだろうか。
発注事業者にとって不都合が生じるかどうかは、そのフリーランスの能力等により決まるものと思われる。
もし有用・有能なフリーランスであれば、発注事業者としては、育児介護等の課題はあるにせよ、継続的に業務を行ってもらうことを考えるように思われる。つまり、発注事業者の立場からすれば、手放したくないフリーランスに対しては、このルールがないとしても一定の配慮を行うはずである。
他方で、発注事業者が手間やコストをかけてでも手放したくないと考えるフリーランスではない場合、それに対して一定の配慮を行うことを義務付ける正当性はあるのだろうか。
発注事業者が1年という契約期間でフリーランスに業務を発注したとして、その間にフリーランス側に育児介護等の必要が生じることがあらかじめ想定されていれば、一定の配慮を義務付けることも信義則の観点から正当化し得るかもしれない(買いたたき等に該当しない範囲で取引条件に考慮することも可能である)。
他方で、1年という比較的長期間であるため、契約当初は想定されていなかったフリーランス側の育児介護等の必要が契約途中で顕在化する可能性の方が高いと思われ、その場合、発注事業者としては、法定のサンクションはないものの、レピュテーションを気にせざるを得ず、想定外の事象により業務が滞る可能性を受け入れざるを得ないことになる。
このような意見等があるが、まったく論理的ではなく、また何ら正当性を表現できていない。当事者間で調整できる関係性が生まれるのに、なぜ一方的に発注事業者に対して配慮を義務付けるのだろうか。
ちなみに、フリーランスに生じる不都合だけであれば金銭にて解消可能であり、それは雇用保険の(特別)加入の議論とするべきであり、フリーランスの生活の保障を特定の発注事業者に担わせるべきではない。
ハラスメント対策の体制整備
ルール
発注事業者は、ハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならない(フリーランス新法第14条第1項)。
発注事業者は、フリーランスが相談窓口等にハラスメント相談を行ったことを理由として、フリーランスに対し契約解除等の不利益な取扱いをしてはならない(フリーランス新法第14条第2項)。
ここでいう「ハラスメント」とは、①セクシャル・ハラスメント(フリーランス新法第14条第1項第1号)、②いわゆるマタニティ・ハラスメント(同項第2号)、③パワー・ハラスメント(同項第③号)の3つである。
なお、②のいわゆるマタニティ・ハラスメントは、通常の文脈では育児休業に関して行われる言動によるハラスメント(育児介護休業法第25条)を含むかと思われるが、フリーランス新法第14条第1項第2号では妊娠・出産に関する事由のみであり、育児は除外されている点に注意。
いずれについても雇用分野でいえば男女雇用機会均等法第11条、第11条の2、労働施策総合推進法第30条の2において措置済みであり(わかりやすい資料はこちら)、それを発注事業者とフリーランスの間の関係にそのままスライドしたのがフリーランス新法第14条第1項第1号〜第3号である。
ちなみに、各ハラスメントの指針においては、既に、個人事業主等雇用関係にない者に対する言動についても注意を払うよう求められていたところである。
このルールでは、発注事業者として、ハラスメント行為によりフリーランスの職場環境を害することのないよう体制整備を行うことが義務付けられている。
これに関する指針は別途厚生労働省から出される予定であるが(フリーランス新法第15条)、簡単に、雇用分野における事業主が雇用管理上講ずべき措置について紹介する。
雇用分野における事業主が雇用管理上講ずべき措置は大きく次のようなものが挙げられ、発注事業者とフリーランスの関係においても同様の枠組みになろうかと思われる。(必要に応じて「事業主」を「発注事業者」、「職場」を「就業場所」などと読み替えればよい)
事業主の方針の明確化とその周知・啓発
相談・苦情に応じ適切に対応するために必要な体制整備
職場におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
1〜3と併せて講ずべき措置
実施が望ましいとされている取組み
これらの職場におけるハラスメント対策のための体制整備は2022年4月1日からは中小事業主を含め全事業主に適用されているところであり、既に整備済みの社内体制等を活用すれば足りると考えられている(フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A13頁)。
解除・不更新の事前予告
ルール
発注事業者は、「継続的業務委託」にかかる契約を解除し又は契約終了後に更新しない場合、原則として、フリーランスに対し、少なくとも30日前までにその予告をしなければならない(フリーランス新法第16条第1項)。
フリーランスが、予告の日から契約終了までの間に、発注事業者に対して解除や契約を更新しないことの理由の開示を請求した場合、発注事業者は、原則として、遅滞なくこれを開示しなければならない(フリーランス新法第16条第2項本文)。
このルールの趣旨は、一定期間継続する取引において、発注事業者による契約解除や契約不更新をフリーランスにあらかじめ知らせ、フリーランスが次の取引に円滑に移行できるようにする点にあるとされている(フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A14頁)。
ここでいう「継続的業務委託」とは、政令で定める期間以上の期間継続する業務委託のことであり、その政令で定める期間として、現時点では1年が想定されている(育児介護等と業務の両立配慮のルールの箇所を参照)。
「基本契約+個別契約」型の場合、基本契約で主要な取引条件を定めているときは基本契約の契約期間がこの政令で定める期間以上かどうかを判断することになる点は、育児介護等の業務の両立配慮のルールの箇所と同じ。
なお、家内労働法においては、6か月を超えて継続的に同一の家内労働者に委託をしている委託者は、その委託を打ち切ろうとするときは、遅滞なく、その旨を当該家内労働者に予告するよう努めなければならないとされており、そこでは予告が必要な継続的業務委託として6か月超とされている。
個人的には、育児介護等の配慮義務のルールは正当性を欠くと考えるが、それは一旦措くとして、その場面では継続的業務委託の基準を1年超の業務委託と設定することに合理性があり得るかと思うが、この解除や不更新の事前予告義務のルールに関しては、家内労働法を参考に、6か月と設定することも合理性があると考える。
ただし、法制上、育児介護等の配慮義務を定めるフリーランス新法第14条第1項に「継続的業務委託」の定義が置かれており、それが第16条第1項に活用されていることから、立法意思としては、それらは同一の期間を基準とすることを求めているため、それらの期間を別異にすることは難しい。
ルールの例外
このルールには例外があり、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、このルールは適用されない。(したがって事前予告不要)
このルールの例外に該当する場面としては、次のようなものが想定されている(フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A14頁)。
天災等により、業務委託の実施が困難になったため契約を解除する場合
発注事業者の上流の発注者によるプロジェクトの突然のキャンセルにより、フリーランスとの契約を解除せざるを得ない場合
解除をすることについてフリーランスの責めに帰すべき事由がある場合(フリーランスに契約不履行や不適切な行為があり業務委託を継続できない場合等)
よくある誤解
このルールは、あくまで、発注事業者がフリーランスとの契約を解除する場合又は契約を更新しない場合に、30日以上前もってその旨を予告しなければならないというものである。
決して、その契約解除や契約不更新の適法性や有効性について何らかの規制を加えるものではなく、発注事業者とフリーランスの間の合意内容に従い、あるいは民法の規定やそれに関する判例のルール(特に継続的取引の解消の議論)に従い、発注事業者は解除や不更新ができる。
そのため、フリーランス側の識者からはルールが不十分であるとの批判がある。
このようなフリーランス側の意見に対しては、次のような政府当局の見解がある。
これは、フリーランス新法のようないわゆる経済法によって民事上の契約のあり方に対する規制を行うことは困難であり、基本的には民法・商法、労働法により対応するのが筋であることから首肯できる部分はある。
他方で、フリーランス新法の禁止行為のルールでは対応できないのも事実である。
この点、下請法にもない規制であるが、発注事業者とフリーランスの間には類型的に優越的地位があり、下請事業者とフリーランスを比べると後者の方がより零細で消費者寄りと考え、優越的地位の濫用に関する独占禁止法第2条第9項第5号ハ「その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定」と同様の規定をフリーランス新法第5条に追加することが一案として挙げられる。
【論点】継続的取引の解消の議論
ここでは詳細には踏み込まないが、2020(令和2)年4月に施行されたいわゆる債権法改正後の民法には反映されなかったものの、同改正の作業においては「継続的契約の終了に関する規律」を民法に設けるかどうかが議論されていた。
フリーランス新法において問題となっている、期限の定めのある継続的契約の解除と更新拒絶についても触れられていたため必要な範囲で紹介する。
継続的契約の解除
契約の解除は、解除権の留保がない場合、自由に権利を行使することができるのが原則である
問題は、継続的契約であることを理由に、解除権の行使が否定されることがあるか、あるとしてその要件は何か
この点に関する裁判例は、①解除権の行使が信義則違反、権利濫用又は公序良俗違反に該当しない限りは有効であるとするものと、②継続的契約の解除にはやむを得ない事由が必要であるとするものに分かれている
継続的契約の更新拒絶
期間の定めがある契約である以上、期間の満了とともに契約が終了するのが原則である
問題となるのは、一方当事者が更新を申し出たのに対し、他方当事者が更新を拒絶することが否定される場合があるか、あるとしてその要件は何か
この点に関する裁判例は、①更新拒絶が公序良俗や信義則に反するなど特段の事情がなければ更新拒絶が可能とするものと、②更新拒絶は信頼関係が破壊されたなど契約を継続し難いやむを得ない事由が必要であるとするものに分かれている
以上を踏まえた立法提案は次のとおり
ルール違反に対する制裁
ルール
発注事業者によるフリーランス新法上のルール違反があると考えるフリーランスは、①直接所管省庁に申告を行うことができるほか、②「フリーランス・トラブル110番」に相談し、そこを経由して所管省庁に申告を行うこともできる。
なお、フリーランスによる所管省庁への申告を理由に不利益な取扱いを行うことは禁止されており(フリーランス新法第6条第3項、第17条第3項)、その違反は勧告や命令・公表の対象となる(同法第8条第6項・第9条、第18条・第19条)。
所管省庁は、ルールごとに分かれており(縦割り)、
がそれぞれ所管する。
フリーランスから申告を受けた所管省庁は、その内容に応じ、違反発注事業者に対して次のような対応をとることができる。
報告徴収・立入検査
指導・助言
勧告
勧告に従わない場合の命令・公表
なお、命令に従わない場合には50万円以下の罰金刑があり得る。
これらをまとめてくれているのが次の図である。(ありがたい)
これでわかるように、「取引適正化に関する規律内容」にて扱ったルールへの違反は、いずれも最終的には刑事罰(罰金刑)が用意されているのに対し、「就業環境の整備に関する規律内容」にて扱ったルールへの違反は、募集情報の的確表示ルールへの違反のみが最終的に刑事罰(罰金刑)を受けることになる。
以上
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?