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古龍は本当に分類不可能な生物群か??

 モンスターハンターシリーズに登場する「古龍」とは、現時点で存在しているいかなる動物系統にも分類することができないとされる種で構成されるグループのことである。

 一般に、古龍と呼ばれる生物たちが分類不明である理由として、
・個体数が極めて少なく調査がほとんど進んでいないこと
・一部の系統については一般的な動物とは異なる形態を有していること

があげられる。

図1. 古龍目の系統樹
 古龍目は、現時点で分類不明の種で構成されている。一昔前までは、金獅子ラージャンも本系統に含まれていた。しかし、調査が進んだことで、ラージャンは哺乳類の牙獣系統であることが判明した。いくつかの古龍の種は、その形態もしくはゲノムの類似性から同じ亜目内にまとめられる(山龍亜目、峯龍亜目)。古くから伝わる伝承の中でのみ語られる龍と、近年新大陸に出現したと噂される複数の属性を同時に操る龍については、具体的な報告例が全く存在しないことから、実在しない可能性が高いと判断し、それらの系統全体を伏字(●)とした。

 上図のように、各古龍は古龍目を構成し、それぞれが亜目レベルで分類されている。一方、一部の古龍たちについては、種間の形態的類似性から単一のグループとしてまとめられ、近縁種であることが示唆されている。一般に、クシャルダオラやメル・ゼナなどの背中に一対の翼をもつ系統は「ドス骨格」型古龍(以下、ドス型古龍)、ゴアマガラやゴグマジオスなどの四肢のほかに背中に一対の飛膜のついた肢(翼脚)をもつ系統は「マガラ骨格」型古龍(以下、マガラ型古龍)と呼称される。現時点では、ドス型古龍はマガラ型古龍から派生した系統であると考えられており、ドス型古龍がもつ翼は、翼脚から進化した形質であることが示唆されている。

 これら2系統の古龍たちが分類不明である大きな原因の一つは、四肢ではなく六肢をもつことに他ならない。本稿では、これらの古龍がいかにして六肢を獲得したか、その進化の謎に迫ることで各古龍の系統を理解する上での足がかりを得たい。

 さて、古龍の六肢の進化を考察する上での疑問は大きく2つある。
1.古龍は最初から六肢をもつ系統として出現した可能性はあるか?
2. 古龍もはじめは四肢をもっていたなら、どれが新たな肢なのか?

 まず、1つ目の可能性についてはほとんどないであろう。古龍において、肢以外の体のつくりは、一般的な脊椎動物のものとほとんど同じである。特に、頭部に備わる感覚器官(眼、鼻、耳)の数や摂食装置である顎の形態、体幹部の形態は羊膜類(爬虫類、鳥類、哺乳類)のものと一致もしくは類似していることから、古龍は脊椎動物(特に羊膜類)の系統である可能性が高いと判断される。

 続いて、二つ目の疑問についてである。これまでは、「古龍にも我々とおなじように前肢と後肢があるのだから、翼(翼脚)こそが古龍が新たに獲得した肢である」という考えが定説であったように思う。しかし、古龍の翼(翼脚)は、本当に新規の肢なのであろうか??

以下の図を見てほしい。

図2. 古龍を含む脊椎動物の前肢と肩の位置
左上から右下にかけて、プテラノドン、ティラノサウルス、イリエワニ、ゴリラ、チーター、ヒト、ゴグマジオス、ゴアマガラ(特殊個体)、ゾラ・マグダラオス、テオテスカトル。脊椎動物において、前肢の付け根は、肩甲骨を介して肋骨の背側に位置している。古龍において、肋骨の背側には、翼(翼脚)が位置している。古龍の前肢だと思われていた肢は、より胸側(鎖骨や肋骨の腹側のあたり)に位置している。これより、古龍の翼(翼脚)こそが、我々ヒトを含む脊椎動物の前肢と同じ形質(相同器官)であると考えられる。

 上図で比較したところ、古龍において、一般的な脊椎動物の前肢と同じ位置にある肢は、翼(翼脚)であることが分かる。古龍の進化では、前肢の内側に新たな肢(以下、胸肢)が生じるとともに、本当の前肢は翼(翼脚)へと変化していった可能性がある。

 そもそも、新たな肢ができることなどあり得るのだろうか??と思う人もいるだろう。わずかな遺伝子発現やタンパク質局在の変化によって新しい肢が形成されてくることは、発生生物学の分野においてすでに明らかにされている。

図3. タンパクの人工投与と遺伝子の強制発現による新たな肢の形成
胚発生中のニワトリの体幹部(前肢形成領域の下側)にFGF(線維芽細胞増殖因子)と呼ばれるタンパクをしみこませたビーズを打ちこむと、そこに新たな前肢が形成される(上段ピンク矢印)。同領域に、FGFタンパクをしみこませたビーズを打ちこむとともに、Tbx4遺伝子を強制発現させると、前肢ではなく後肢が形成される(下段ピンク矢印)図は「Developmental Biology. 6th edition. Figure 16.6」を改変。

 図3では、FGFタンパクの投与とTbx4遺伝子の強制発現によって、ニワトリに新たな肢が形成される( ピンク矢印)ことが示されている。初期の古龍の進化の中でも、このような遺伝子発現変異が起こることで新たな肢が形成されるようになったのではないかと考えられる。

図4. 古龍の胸肢と翼(翼脚)の進化史予測
 古龍において、指骨が伸長し、飛膜が形成されることで前肢が翼(翼脚)に進化した可能性がある。この進化プロセスは、コウモリやプテラノドン、飛竜や鳥竜の翼の進化プロセスとほとんど同じである。

 以上より、古龍の翼(翼脚)は我々の前肢と相同な器官であり、遺伝子発現の変異によって新たな肢(胸肢)が生じることで、古龍は六肢をもつようになったことが示唆された。
 各古龍には、一般的な脊椎動物と比べ遥かに長い数千年単位の寿命や、自然現象を意のままに操るという人智を超越した力が備わっており、それによって古龍と一般的な脊椎動物を同じ土俵で比較することに可否があるという現状がある。
 しかし、上記の仮説が正しければ、ドスおよびマガラ型古龍はあくまで脊椎動物、とくに羊膜類の系統なのではないかと考えることができる。これらの古龍が羊膜類なのであれば、その一見すると超常的とも取れる数々の能力も、現代科学で説明可能なメカニズムによってもたらされているのかもしれない。 

 「古龍は人間の理解をはるかに超えた生物である・・・」。いつからか定着してしまったこの認識が古龍を古龍たらしめているが、彼らも所詮は地球内でのルールを逸脱することはできない動物群であるはずだ。


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