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爬虫類、鳥類における頭蓋骨形態の多様化

 こんにちは、dreamyです。突然ですが、今回は番外編ということで、モンハンモンスターの形態進化を考察するうえで便利な知見を紹介したいと思います。テーマはずばり、「爬虫類、鳥類における頭蓋骨形態の多様化」です。頭蓋骨は、古くから進化学・系統分類学における主要なトピックの一つです。モンハンモンスターは全く登場しないのですが、もしよろしければ読んでいっていただけると嬉しいです!!

 爬虫類、鳥類、哺乳類は、陸上への完全な形での進出を果たした脊椎動物の系統である。陸上の様々な環境に適応するにあたり、彼らは餌を食べる上で不可欠な顎や、眼、耳、鼻などの感覚器、神経系の中枢である脳が備わる頭部の形態を著しく多様化させた。彼らがもつ多様な形態の頭蓋骨は、側頭部に開いた穴である「側頭窓」の下側を縁取る弓状の骨要素「側頭弓」の数によって、無弓型、単弓型、双弓型という大きく3つのタイプに分類される[1, 2]。

図1. 爬虫類、鳥類、哺乳類における頭蓋骨形態の分類
 爬虫類、鳥類、哺乳類の頭蓋骨は、側頭窓の下側を縁取る側頭弓(赤および水色破線内の弓状の骨)の数によって、無弓型、単弓型、双弓型と大きく3つのタイプに分類される。無弓型の頭蓋骨は、側頭部が骨によって完全に覆われているため側頭弓がなく、現生の爬虫類ではカメ類のみにみられる。単弓型の頭蓋骨には一つの側頭窓と、その下側を縁取る下側頭弓(水色破線内)がみられる。現生では、哺乳類の系統のみが単弓型頭蓋骨をもつ。双弓型の頭蓋骨には上下二つの側頭窓と、それらの下側を縁取る上側頭弓(赤破線内)と下側頭弓(水色破線内)がみられる。現生では、カメ類以外の爬虫類(トカゲ・ヘビ類、ムカシトカゲ類、ワニ類)と鳥類が双弓型の頭蓋骨をもつ。

 19~20世紀ごろまでは、側頭弓の数は、爬虫類、鳥類、哺乳類において系統を分類するための指標の一つであった。しかし、21世紀になると、ゲノム情報に基づく分子系統解析が確立され、ゲノム比較による系統分類と、側頭弓の数による系統分類では、分類結果が異なる場合が多いことが判明した。さらに、度重なる化石記録の発見によって、爬虫類、鳥類では、進化を通じて系統とは関係なく側頭弓の数が多様に変化していることが明らかとなった。例を上げると、側頭弓の数に基づく分類によって、無弓型の頭蓋骨をもつカメ類はこれまで、石炭紀後期に現れた最初期の爬虫類の生き残りであると考えられてきた。これは石炭紀の爬虫類のほとんどが無弓型の頭蓋骨をもっていたためである。しかし、分子系統解析や新たな化石記録の発見から、カメはワニや鳥の系統に近縁であることが示された [3-5]。これにより、カメの頭蓋骨は進化を通じて双弓型から無弓型に変化したものと判断されるようになった(詳細は「モンスターの系統分類」の図1を参照)[6]。現在では、側頭弓の数による分類はあくまで頭蓋骨の形態を3つのタイプに大別するためのものであり、生物の系統分類とは関係がない。

 前述した通り、爬虫類、鳥類の頭蓋骨の進化では側頭弓の消失と再出現が繰り返し起こった。その結果、現存する爬虫類、鳥類における骨側頭部の形態は極めて多様となっている。

図2. 現生爬虫類、鳥類における頭蓋骨形態の比較
 ムカシトカゲおよびシャムワニの頭蓋骨には、上下2本の側頭弓が見られる(赤線内)。ミズオオトカゲの頭蓋骨には上側頭弓のみが見られる(赤破線内)。ニワトリの頭蓋骨には下側頭弓のみが見られる(赤破線内)。コーンスネークの頭蓋骨には不完全な上側頭弓のみが見られる(赤破線内)。アオウミガメの頭蓋骨は、側頭弓が拡大することで側頭部が完全に骨で覆われている。爬虫類、鳥類では、その進化を通して側頭弓の消失と再出現が繰り返し起こった結果、側頭部の形態が多様化した。

一方、現生哺乳類の頭蓋骨では、側頭部の形態が爬虫類、鳥類に比べると一様である。

図2. 現生哺乳類における頭蓋骨形態の比較と単弓類から哺乳類にかけての系統樹
 現生哺乳類では、すべての種の頭蓋骨で下側頭弓が見られる(赤破線内)。また、すべての現生哺乳類で、側頭窓の上側を縁取る骨が消失している。哺乳類では、単弓類から獣弓類を経て哺乳類となるその進化を通して、側頭窓の上側を縁取る骨は減少し続け、再出現しなかった。その結果、現生哺乳類では、側頭部の形態が爬虫類に比べ一様である。黒いバーは下側頭弓の獲得を示す。

 以上より、爬虫類・鳥類と哺乳類では、頭蓋骨の進化の方向性が異なることがわかる。爬虫類・鳥類では側頭部の骨(主に側頭弓)の消失と再出現、縮小と拡大が繰り返された結果、側頭部の形態が多様化した。一方、哺乳類では、側頭部の骨が減少し続け、一度も再出現しなかった結果、側頭部の形態は爬虫類・鳥類と比べ一様になった。一説によれば、各系統の進化の方向性はペルム紀の初期に決まった可能性があると言われている[7]。また、各系統の複数種の胚を用いて、その頭蓋骨形成様式を調査した研究では、いくつかの骨形成遺伝子の発現パターンが、爬虫類・鳥類と哺乳類で異なっていることが明らかとなった [8]。この研究は、両系統が異なる頭蓋骨の進化を辿ったことを、形態学のみならず発生学的視点からも示唆している。 

 モンハンシリーズに登場するモンスター(主に竜)たちは、形態学的に興味深いかたちの頭蓋骨をもつ種が多い。実在する爬虫類、鳥類、哺乳類における頭蓋骨の進化史を理解しておくことは、今後、モンハンモンスターたちの頭蓋骨の進化を考察する上での参考になるだろう。

【引用文献】

  1. Romer AS, Osteology of Reptiles (University of Chicago Press, 1956).

  2. Rieppel O, “Patterns of diversity in the reptilian skull” in The Skull Volume 2, B. K. Hall, J. Hanken, Eds. (University of Chicago Press, 1993), pp. 344–390.

  3. Chiari Y, Cahais V, Galtier N, Delsuc F (2012) Phylogenomic analyses support the position of turtles as the sister group of birds and crocodiles (Archosauria). BMC Biology 10, 65.

  4. Fong JJ, Brown JM, Fujita MK, Boussau B (2012) A Phylogenomic Approach to Vertebrate Phylogeny Supports a Turtle-Archosaur Affinity and a Possible Paraphyletic Lissamphibia. PLOS ONE 7, e48990.

  5. Bever GS, Lyson TR, Field DJ, Bhullar BA (2015) Evolutionary origin of the turtle skull. Nature 525, 239-242.

  6. Abel P, Werneburg I (2021)Morphology of the temporal skull region in tetrapods: research history, functional explanations, and a new comprehensive classification scheme. Biological reviews  96, 2229-2257.

  7. Brocklehurst N, Ford DP, Benson RBJ (2022) Early Origins of Divergent Patterns of Morphological Evolution on the Mammal and Reptile Stem-Lineages. Systematic Biology 71, 1195–1209.

  8. Sato H, Adachi N, Kondo S, Kitayama C, Tokita M (2023) Turtle skull development unveils a molecular basis for amniote cranial diversity. Science Advances 9, adi6765.


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