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【創作】2人で作ったライダースーツ【仮面ライダー】17話 (完)

時雨のマンションの前

戦いを終え、組織の基地から戻ってきた藤と時雨

マンションの前でバイクを停め、後ろに乗っていた時雨が降りる

藤「未来に戻るまで、まだ時間がある。そうだな… 3時間後にまたここに来るよ」

時雨「3時間後?」

藤「うん、最後に二人でゆっくり走ろう。少し体を休めてから」

時雨「…分かった!オシャレして待ってる」

藤「ああ、それじゃ、まだあとで」

藤はバイクのハンドルを回し、走り去っていった

藤の背中が見えなくなるまで見送り、時雨は部屋に戻った


街はずれの倉庫

基地から避難した組織の生き残りが数名集まっている

ボス「こんなことになるとはな…」

戦闘員「ボス…私たちはこれからどうするのです?」

ボス「今それを考えているんだ!黙っていろ!」

追い詰められたストレスでピリピリしているボス

志摩「とりあえず、拠点を探すしかないですな」

端末を操作しながら、志摩が呟く

ボス「当てがあるのか?」

志摩「ええ、昔の研究所があります。一旦そこに落ち着きましょう」

ボス「よし、案内しろ」


ガシャーン!!


倉庫のシャッターを一台のバイクが突き破った

戦闘員「な、なんだ!?」

狼狽える一同


ドルドルドルドル…


突き破ってきたのはライダーだ


志摩「貴様…!生きていたのか…!」

ライダー「最後まで見ていくべきだったな。お前の作品が粉々になるところを」

ボス「お前たち!何をしている!奴を消せ!」

心もとない装備で戦闘員たちが襲い掛かってくる

ライダー「悪いが時間が無い。さっさと終わらせてもらう」

ハンドルを捻り、アクセルを吹かす

倉庫中にバイクのエンジン音と男たちの悲鳴が広がった

組織の最後はあっけないものであった




再び、時雨のマンションの前

太陽が夕陽に変わろうとしている

時雨は小さい紙袋を片手に藤を待つ

遠くからブーンとバイクの排気音が聞こえてきた

パッと音のする方を見ると、やはり藤が現れた

藤「ごめん、待たせた」

時雨「ううん、全然」

藤「それじゃ、行こうか」

時雨「待って、行く前にちょっと、話さない?」

藤「え?」

二人は近くの公園に移動した

最初に出会ったときに話した公園だ

ベンチに腰かける二人

夕暮れの涼しい風が二人を包む

しばしの無言

時雨が口を開く

時雨「これ…」

持っていた紙袋を藤に渡す

藤「え?ああ、ありがとう… 開けてもいいい?」

コクリ、と小さく頷く時雨

紙袋の中の箱を開けると、白いマフラーが顔を見せた

藤「おお… キレイなマフラー…」

時雨「藤くんの話を聞いて、なんだか未来って寒そうなところだなって思ったの、だから…」

藤「ありがとう… 大切にする。あ、今巻いてみてもいいかな?」

時雨「うん! あ、私巻いてあげるよ」

マフラーを手に取り、藤の首に手を回す

時雨「やっぱり、スーツによく似合ってる」

藤「さすが、スーツの生みの親だね」

風に吹かれ、マフラーがたなびく

時雨「藤くんが着てるスーツは私じゃない私が作ったスーツでしょ? なんだかちょっとヤキモキしちゃって…」

時雨「こっちの私も少しそっちに連れて行って?」

はにかむ時雨

藤「ああ、このマフラーは時雨がこの世界で平和に生きている証拠。時雨の思いとか、温かさが全部詰まってる。それだけで、俺はもっと強くなれる」

時雨の目をまっすぐ見る藤

時雨の顔が真っ赤になっていく

夕陽に照らされているのか、はたまた…

時雨「そ、そんな…! あ、そうだ! こういう話知ってる? ライダースーツについての豆知識!」

強引に話題を変える時雨

藤「豆知識?」

時雨「そう!ライダースーツってね? ライダーが着て初めて完成するんだよ?」

藤「どういうこと?」

時雨「スーツはバイクに乗る時に着るでしょ?色々な場所で風を浴びて、太陽を浴びて、雨水なんかも浴びちゃったりして」

時雨「同じスーツを着ても、ライダーによって全然形とか色が変わっちゃうの」

時雨「だから、藤くんが着てるそのスーツは、藤くんと、藤くんの世界の私、二人で作ったライダースーツってこと!」

藤「二人で作ったライダースーツ…」

胸をくしゃっと掴む藤

時雨「そのスーツはどの世界にも同じものが存在しない、たった一つのライダースーツ」

時雨「だから、戦いを終わらせて… 平和な世界をたくさん見せてあげてほしい…」

時雨の顔が少し沈む

藤「時雨…」

スッ!と立ち上がる藤

藤「じゃあ、早速見せに行こう!」

時雨に手を差し伸べる藤

顔を上げる時雨

時雨「…うんっ!」

時雨は伸ばされた手を握った


美しい海岸が見える道を一台のバイクが颯爽と駆け抜ける

一台のバイクに二人が跨る

藤の腰には時雨の両腕が交わされ、背中と体が重なる

藤が救った平和な世界の風が心地いい

白いマフラーと青いスーツ全身で風を感じる

二人の間に会話は無く、ただただこの瞬間に身をゆだねる



時間がやってきた


藤を未来に連れていくため、バイクが変形する

藤の腰に交わされた両腕がベルトに上書きされる

風車が回り、時空を超える粒子が光る

マフラーが後方に真っすぐ揺れる

藤の顔にヘルメットが展開

ライダー、バイク、そして時雨が光に包まれていく



藤と時雨は光に包まれた不思議な空間で向き合っていた


時雨「時間が、来たんだね」

藤「ああ、もう、帰らなくちゃ」

マフラーに手をかける藤

藤「こっちの世界に来てから、俺はすごく強くなれた。それは、時雨を守りたいっていう気持ちがあったからだと思う。」

藤「このマフラーとスーツのおかげで、あっちの世界でも俺は強くいられる。ずっと、時雨を感じることができるから」

時雨の目からたくさんの涙が溢れる

藤「本当にありがとう、時雨。こっちの俺によろしく。かっこいいライダーにしてやってくれ」

藤の目にも涙が滲む

時雨は涙声で、必死に笑顔を作りながら、精いっぱい答える


時雨「…あなたよりもねっ」


言葉を聞いて、藤が笑う

光の空間が輝きながら消えた



気づくと、マンションの前に戻っていた時雨

激動だった3日間が嘘のように喪失感と孤独感に苛まれる

そこへ、一筋の風が吹く

高い空に、バイクの走る音が聞こえた

どこへ行ってしまっても、守ってくれている

彼の中に私がいるように

私の中にも彼はいるのだ



『二人で作ったライダースーツ』

      完

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