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招かざる訪問者との物語⑨

【帰宅して 家族と過ごす時間】No9
A大学から電車と、バスを乗り継いでほどなく帰宅した時には、午後7時を過ぎていた。
家路を急ぐサラリーマンや若いOL、高校生などで電車もバスも混んでいた。
最近は、コロナウイルス感染者数も減少しており、随分と街を出歩く人が増えたと感じる。
一日の仕事を教えて、目にする人々は、皆疲れた様子で携帯を眺めている。

コロナ禍となって2年あまり。仕事を終えて職場の同僚と楽しく酒を酌み交わす機会もめっきり減って社会全体が閉塞感に溢れている。

バスを降りて目の前にある自宅マンションに駆け出した。
このマンションは、2年前に終の住処として、購入しだもので、3LDKではあるものの大人4人で住むには、かなり狭い。

帰宅すると、愛犬ゴウ君が尻尾をグルングルン回転させて私に駆け寄ってきた。妻も出迎えてくれた。
「ただいまママ。ただいまゴウ!」帰りの電車の中から妻に今日の診察結果をメールしたが、改めて詳しく病名と現状について説明した。

IPMN (膵管内乳頭粘液性腫瘍)で良性腫瘍が2つ見つかり、暫くは、経過観察となり、年末に精密検査の予約を入れたことを伝えた。
じっと聞いていた妻も、私の口から膵臓癌では無く取り急ぎ入院や手術などでは無かったことに安堵したようだった。
少し安心したのか、この2カ月間、精密検査となってから不安と緊張で一杯だったのだろう。押し潰されそうな心が解放され、妻も私も抱きしめあって共に涙を流した。

程なくして娘2人も帰宅し、久しぶりに家族が少し遅い食卓を囲んだ。
娘達は父の身体のことは知らない。いつも通り娘達の今日あった出来事や愛犬ゴウのことなど、楽しいおしゃべりを聴きながら、共に笑い合って時間を過ごした。

今、暖かい家族の団欒がここにある。

神様、幸せな気持ちを再び与えて頂きありがとうございます。

家族みんなが、病気・災難の無いように。
コロナに感染しませんように。

家族の笑顔を見ながら、心の中で深く祈った。

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