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招かざる訪問者との物語⑩

【私について】No10
高山真一が人事部に転勤となって4ヶ月が経った。この春15年間の単身赴任を終え、ようやく家族の待つ東京に戻ってきた。

東京駅前丸の内にある一友製薬12階の高山の執務室は、本社機能を集約し、フロア一面がフリーアドレスとなっている。部門毎、各自好きな場所でパソコンを開き業務を行っている。解放的で洗練された雰囲気だ。

コロナ禍の影響で出社制限がある為、本来なら500人居る広いオフィスは、人もまばらで閑散としている。静かなフロアでは、粛々と業務が行われている。

長年、営業所で管理業務や外勤に追われていた慌ただしさはここには無く、上司を突き上げる部下も居ない。

高山は、MRとして営業畑を歩み、40歳で所長になり沢山の同僚、部下と仕事をしてきた。
彼が実践した地域医療連携アプローチは、成果の高いモデルとして注目を集め、全国を渡り歩く中でその種を蒔いてきた。

営業所長として、地域医療コーディネーター養成に打ち込んできたが、その夢は、今年55歳を迎え役職定年となり、一つの区切りを迎えた。

サラリーマン人生もいよいよ最終コーナーを迎えている。4月より人事部にて営業人材育成などの職責を担うことになった。
希望していた部署へ異動となり、高山は晴々とした気持ちでいた。

異動による引き継ぎ業務も一段落した、ゴールデンウィーク直前、自宅近くの開業医を受診した。

高山は、40代で糖尿病を患い、3年前からは、甲状腺機能低下症の慢性疾患も抱えていた。
転勤先から東京に戻り、紹介状を持って、糖尿病内科クリニックK先生を訪ねた。

ここ最近、何となく左上腹部が重苦しく感じていた。K先生に、新患として診て頂いた際に、たまたま膵臓に腫瘍を見つけて頂いたことは、今思えば幸運だったと感じる。

その後、A大学病院で、IPMN 膵管内乳頭粘液性腫瘍の確定診断を得て、今に至る経過は、以前に述べた通りだ。

妻と2人の娘達。愛犬ゴウとようやく、一つ屋根の下で暮らせる幸せな日々。15年間待ち侘びた家族の団欒。

限りある尊いものに感謝しながら、
これからも歩んでいきたい。

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