中二んの多い料理店〜#封印されし闇の力を解き放て〜
2人の男は、Youtubeにアップする動画を撮るため、心霊スポットと言われる山奥に入っていた。
しかし、動画を撮影して喋りながら歩いていたため、道に迷ってしまった。
「ああ、もう動画伸びないな」
「同じ景色ばっかりで撮れ高がなさそうだ。」
このように愚痴を言い合っていた。
「ああ、腹減った。」
「なんか食わないと歩けない。」
ふと後ろを振り返ると、立派な一軒の洋館がある。
よく見ると、こんな札が出ていた。
【RESTAURANT レストラン BLACK CAT HOUSE 黒猫軒】
「へえ、こんなとこにレストランか。動画も取れるし丁度良いな。」
2人は、このレストランに入ることにした。もちろん、スマートフォンを向けて撮影の準備は万端だ。
玄関には、こう書いてある。
「全ての者よ、この次元の裂け目に足を踏み入れるがよい。決して恐れるな……ここに招かれし者は、その魂の重みを試される覚悟を持て!」
「要するに、入ってくださいってことだろ!」
「いや、回りくどすぎだって!」
2人は声をあげて笑いながら、玄関の扉をギイッと音を立てて開け、中へと足を踏み入れた。
玄関を入ったすぐのところには、小部屋があり、まるで別の世界に迷い込んだような雰囲気だ。
壁の奥に貼られた張り紙には、不気味なほど整った楷書で、
「次の部屋に進むには貴様の手にする“堕落の板”を、この結界の外に封印せよ。」
と書かれており、2人は一瞬戸惑った。
「堕落…スマホってこと?動画撮影ダメなのか…」
「それにしても回りくどいな…えぇと…そういうの、なんていうんだっけ?」
「なんだっけ…ド忘れした…小泉構文?」
「いや絶対違うだろ」
2人はスマートフォンを張り紙の下にある箱に入れ、横の扉を開けた。
すると、また同じような小部屋になっており、壁に例の楷書で書かれた貼り紙があった。
「ここは“数多の試練”を与える、呪われし魔宴の領域。
汝がこの地に足を踏み入れし時点で、全ての“契約”を受け入れることを誓ったとみなされる。今こそ“試練の扉”を開くときが来た。」
「ますます分かりにくい。だいいち、漢字が多すぎる。」
「契約…?まどマギみたいな?」
「クーリングオフできるやつ…?」
軽口を言っていたら、1人が急に青ざめた顔になった。
「やべえ……これ、俺らが中学生の時習った、『注文の多い料理店』に似てねえか?」
「え?宮沢賢治の?それって…本当に存在するやつだったっけ?」
「わからん…でも、山奥にある料理店、なかなか進まない小部屋…もしそうだとしたら、俺たち、食われる側だぞ!」
2人は先ほど来たドアに戻ろうとしたが、開かない。
顔を見合わせ、恐怖で打ち震えた。
「次の部屋で服脱がされて、クリームとか塩刷り込まれて、300℃の油でこんがり美味しく揚げらげるぞ……」
「100時間煮込まれるぞ…」
進む道は次のドアしかない。
恐る恐るドアを押すと、ギギギという音がして開いた。
また同じような小部屋に、張り紙があった。
「その穢らわしい服を脱ぎ給え…」
「うわぁ…!ほらやっぱり!もう俺たちは終わりだ!」
「……いや待て、その下に続きが書いてある。」
「…そして、この選ばれし者の血塗られた漆黒の装束を纏い給え」
確かに、文字の下には真っ黒な服が置かれていた。吸い込まれそうな深い色だ。手に取ってみるとずっしりと重く、まるで鎖や金属のプレートが隠されているような感触がする。
袖を通すと、「ガチャガチャ……」と鈍い金属音が響いた。
「なあ…これから食われるって時に、こんな金属でガチャガチャした布を着させると思うか?」
「さあ…なんの目的なんだろう…食われる前の儀式かもしれない」
黒い布地に、銀色の十字架やドラゴンの彫り物があしらわれていた。
「こういう金のドラゴン、修学旅行行くたびに買ってたなぁ…」
「そうそう、どこ行ってもどうせ一緒なのに…って、懐かしがってる場合か!食われるんだぞ!」
すると、部屋の奥から、少し掠れ気味の声が聞こえた。
「ようやく、準備が整ったようだな、さあ、封印されし闇の力を解き放て!」
声の主は、小柄な男性…というより中学生ぐらいの少年だ。
先ほどの掠れた声も、声変わり途中のものであることに気がついた。
2人はすっかり拍子抜けしてしまった。
「君は…?」
「我が名は、闇の眷属、“漆黒の刻印を刻まれし者”……冥府よりの使者!」
少年は、掠れた声を精一杯張り上げていた。
片目には眼帯をつけている。
「その目、怪我したのか…?」
恐怖する気持ちがすっかり消え失せ、眼帯について質問する余裕が出てきた。
「フハハハ…我が真の力を見せてやろう…これは、封印されし“混沌の魔力”を抑え込むための拘束具だ……。ククク……だが、貴様には到底理解できまい。この眼帯が解き放たれし時、我が“真の力”が覚醒し、全てを闇に包むのだ……ッ!くっ、頭がッ!やめろ……封印を、破るなァァアア!!!」
少年はいかにも苦しそうに頭を抱えた。
「あ…あの…大丈夫…?」と言いかけたところで、
「コラッ!!」
と、怒声が聞こえ、奥の扉からエプロンを付けた小綺麗な女性が現れた。
「こんなイタズラして!お客さんを困らせるなっていつも言ってるでしょ!!!こんな山奥なのに、あんたが変なこと言うから、ますますお客さん寄り付かなくなるじゃない!」
女性は少年の母親らしい。叱られた少年は、下を向いて黙ってしまう。
2人を見た母親はハッとして、
「ほんとう〜にごめんなさい!!いきなり変な事言われて、困ってるでしょう?よかったら、こちらで食べて行ってください。お詫びですから、お代はいりませんから!」
と、平身低頭で謝り始めた。
「俺ら……って、食べられる側じゃないんですか?」
そう言うと、母親は一瞬きょとんとした。
「なんのはなしですか…?」
「いや、一度入ったら出られないから….」
「え?…ああ、ごめんなさい、古い建物なので、ドアの建て付けが悪いみたい。あとで別の出口を案内しますね。」
「やたら綺麗な文字は…?」
「ああ、この子、小さい頃からお習字やってて。」
2人は、【黒猫軒】でビーフシチューをご馳走になった。
今まで食べたどのビーフシチューよりも美味しく、
「めちゃくちゃ美味しいですね!」と口々に言った。
「ククク…漆黒の鉄鍋にて煮詰められし魔獣の…」と少年が答えようとしたが、母親が「ほらっ!また変なこと言わないの!」と制した。
話を聞いてみると、少年は母親と二人でこの山奥に暮らしており、【黒猫軒】は祖父から受け継いだお店だという。母親が一人で料理を切り盛りしているが、山奥にあるせいで客はほとんど来ず、経営は常に赤字続きだ。
それだけでも大変なのに、最近では少年が学校で変なことを口走るようになり、そのせいで友達もできず……母親の悩みは尽きないらしい。
「俺らにできることあれば、言ってください。ささやかですが、動画投稿とかやってるんで。」
「フハハ…計画通り…所詮貴様らは我の掌の上…」
「コラ!そこはありがとうでしょう?…本当ですか?ありがとうございます。お手数をおかけして本当にすみません。また、良かったら遊びに来てくださいね。」
後日、2人は【黒猫軒】をYouTubeにアップした。
大きな反響を呼び、再生回数は300万回を超えた。
「中二病の少年がいる、ビーフシチューの美味しい料理店」があると、現役の中二病患者だけではなく、かつて中二病だった人たちが懐かしがってやってきた。客として、スタッフとして集まったのだ。
少年は、いつの間にか集まった中二病の「同士」たちと共に、自らの領域を築き上げていた。漆黒のマントを翻し、かつての「封印されし眼帯」を誇らしげに掲げながら、彼は同士たちと次々に“儀式”を繰り返している。
こうして、【黒猫軒】は「中二んの多い料理店」として、“中二病の聖地”とまで呼ばれ、人々に、長く愛され続けることになった。
読んでいただきありがとうございました!
この物語は、アルロンさんの「 #封印されし闇の力を解き放て 」という企画に参加して書いたものです。
>アルロンさん 素敵なご企画をありがとうございます!
中二んの多い料理店って言いたいっ!
そんなモチベーションでこの話を作りました。笑
山奥のレストランを営む中二病少年、ぜひ使ってやってください!
ショートショートの範囲で許されますか?許してください><
あと中二病詳しくないのでいくらかChatGPTさんのお力お借りしてます!ChatGPTさん、かなりノリノリでしたよ…元患者?
>コニシ木の子さん
クッ…また使ってしまったっ、この呪文っ!
「 #なんのはなしですか 」
引き続きゆっくり休まれてください!
中二病患者の息子を持つ小綺麗な奥様を派遣(?)しましたのでお休みのお供にしてください(笑)
>マイトンさん
臨時回収をされてるのですね…ほんとすごいです。
いつもありがとうございます!
パパでもありますし、お仕事もされてますし、お身体第一に、引き続き、一緒に楽しめましたら幸いです^^
最後に、ここまで読んでいただいた皆様!ありがとうございました!
アルロンさんの中二病企画に一緒に参加しましょう!^^
(ひとりごと)
この親子、エレガント人生さんに演じてほしい…(笑)
サポートいただけるなんて嬉しいです。 記事を書く上での、リサーチ費等に利用できればと存じます。 皆様を楽しませられるように頑張ります。