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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第5話-⑤

・第五話 存続協議会 その二


 道知事の言葉に大西の協議会への復帰や鈴井自身の会議への参加を承認する過程は全て省略されて、話題が沼太町からの提案に集中する。誰もが反対意見を出せない状況となった会議室の空気を読み取った横田は、このタイミングで声をあげる。

「私からもみなさんにお願いしたいのですが、ぜひこの石井からの提案を聞いてあげてくれませんか?」

 会場から特に反対の声はあがらない。沈黙は承認したものと取られるのが世の常である。

「知事、今回の協議会は、瑠萌線存続のために私たち沿線自治体がどの程度の資金援助を北海道鉄道に対して出来るかという回答をする予定でした。ですが、我々としては鉄道に支援することについては、どこに自治体も住民の了解をとれていません」横田が丁寧に今までの流れを知事に説明しようとした。しかし、モニターの中で静かに話を聞いていた鈴井は冷徹ともとれるほど意外な一言を横田に伝える。

「いや、私は先ほど、沼太町からの提案が聞きたいと言いましたが……」

 すでに鈴井の存在が会場の空気を支配している。これまでの経緯など興味がないとでも言うようなその鈴井の気配に気付き、横田は話を先に進める。

「あ、はい。説明します。実は、私たちが瑠萌線存続のために作った『瑠萌線を残し隊』という活動グループがありまして、そのメンバーの中から出た新しいアイディアがあり、とてもワクワクする内容です。今までの鉄道とは全く新しい制度で鉄道経営の改善が出来ないかということを協議会にかけさせてもらいたいと思っていました」

 雄二は鈴井と横田のやりとりを緊張していく。

「だから、それは、どのような提案なのですか? 議論を先に進めてください」

鈴井の苛立ちがさらに会場に伝わる。横田は会場、そして雄二の顔を見る。明らかな緊張が表情から一目瞭然で、おとなしい雄二がこれからの提案を上手に伝えることが出来るのか不安になる。

「あ、はい。石井から新しい鉄道の話をいたします。しかし、知事。この会議も始まってかなり時間が経ちますので、ここでいったん休憩を入れさせてもらいます。その間に石井には提案の準備を行わせていただきます」

横田が雄二のために出来る精一杯の援護射撃であった。その横田の言葉に鈴井は一瞬、眉間にしわを寄せたがすぐに穏やかな表情に戻り了解の意を示した。

 協議会の場を鈴井に支配されそうになり、雄二に時間的な、そして心の余裕を与えたいと思った横田の必死の抵抗であった。沿線自治体と鉄道会社だけでなく、道知事までが参加することになった瑠萌線の存続協議会はこれまでで最大の山場を迎えた。

 会議の参加者がタバコやトイレのために席を空けるなか、雄二は椅子に座り足元を見つめて、今からどのように話を切り出すかを静かに考えていた。



雄二がローカル線を存続させるために鉄道会社を相手に話す提案とは・・・
ここから物語は佳境へと突入します。こうご期待。

第6話へつづく

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