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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」エピローグ-①

・エピローグ


「おーい石井、急げっ! もうすぐ列車が来るぞ」

「山本さん、少しは手伝ってくださいよ」

「何言ってんだ。沼太町の担当はお前だぞ。おれはあくまでもサブだからな」

 今日は沼太駅前の広場で駅フェスタが初めて開かれる。僕は地元の農家からたくさんのトマトや米やらを提供してもらって、今日一日ここで沼太町の特産品を宣伝、そして販売する予定だ。駅前の広場にはカラフルなテントやパラソルが立てられて、今までに開催した朝市よりも一段とにぎやかな景色になっている。フェスタに来てくれる人が楽しめるように、北海道内外からの飲食店の出張販売も企画し食べ物の出店が並んでいる。

 この駅前フェスタは町の商工会議所が企画し、各自治体や地元企業が協力してくれている。これまでであれば、北海道の田舎町である沼太駅でこのような大きな催しは考えられなった。どれくらいの人が来てくれるかは分からないが、今回のイベントについては、各自治体の広報誌や北海道鉄道のホームページそして地元のテレビ局の情報コーナーで宣伝がずっとされてきた。

「うそ? 〝三食すみれラーメン〟、来てくれたの?」

「ロイスチョコの出店もあるってよ。なんか手作りチョコが作れるって聞いたよ」

イベントに参加しているスタッフからあちらこちらで驚きの声があがっている。

 新しい鉄道を模索するための動きがスタートしてひと月が経った。北海道鉄道は道や自治体の協力のもと三十万人のモニター会員を募り、鉄道乗り放題の社会実験を開始した。モニター会員は年齢構成や会員の居住地ごとにバランスよく配置された。また列車にグループで乗車することを想定し、会員は基本的に二名一組で申し込みとなっている。開始にあたっては都市部、いわゆる札幌近郊での輸送能力のキャパ不足が懸念されたため、安全確保のため一部時間帯の列車に乗車制限をかけて始められた。そのためか大きな混乱を生じることはなく、各線区で時間ごとそして駅間ごとにデータが集約されている。北海道鉄道はそのデータをもとに、一か月後に車両の増結およびダイヤの改正を行い輸送能力を増やす予定と聞いた。

 一方、地方のローカル線については、期待以上に利用者が増えていてマスコミの話題となることが多くなった。モニター会員に当選したひとがきっかけとなり彼らの友人、知人と一緒に観光に出かけていると分析がされている。切符を買わなくても列車に乗れる感覚は新鮮であり、人々の間で話題になっている。

各駅の所在地となる沿線自治体は、この動きを見逃さないように駅から観光スポットまでのアクセスを整備したり、駅前で朝市を開催するようになった。

 沼太町でもこれまでに二回の朝市を開催し盛況を博したが、沼太町での協議会のことが少しずつ道内そして日本全国でも話題となり、沼太町でのイベントに協力したいという企業が出てきた。そのおかげで今日初めて、大きなイベントのひとつである駅フェスタを北海道鉄道と沼太町が合同開催で行うのである。 

 このフェスタで町おこしにも力を入れようと説明用のブースを設置し、移住プログラムを推進する役場の職員も宣伝パンフレットを準備している。

 僕と山本さんは自分たちのテントの陳列をほぼ終え、一服しているところだ。

 「なにかすごいイベントになりそうですね。明日はグラウンドで“やきものがかり”のミニコンサートがあるから、もっと来る人増えるでしょうね」

「俺さ、やきものがかりの「WE’ll DO!」って曲が大好きなんだよ。あの曲聴くと、なにか新しい未来を自分たちでつくれるんだって勇気もらえて元気が出るんだ。明日のコンサートで歌ってくれないかな?」

「そうですね。今回、鉄道が変わったのが沼太町からっていうのが、なにか感動的なんですよね」

僕たちはフェスタが始まるのを期待をこめて待った。フェスタは九時二七分に着く深河からの列車の到着で開始される。

つづく


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