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小説「北の街に春風が吹く~ある町の鉄道存廃の話~」第5話-①

・第五話 存続協議会 その二


「おいっ!」

いきなり会場に現れた雄二に対し、出席者から憤慨した声があがる。

「なんだお前は? 会議の途中だぞ」

「早く会議室から出ないか」

激しい罵声であったが、雄二はさして慌てる素振りも見せず言葉を続けた。

「すいません。町長、今戻りました」

その言葉を待ち望んでいたように、出席者の中から大きな声が出る。

「あっ、そうだった。そうだった。みなさ~ん、すいません。私のせいです」

声をあげたのは横田である。独特の身振り手振りをして、いかにも忘れていたような仕草で会場の注目を浴びる。横田のおおげさな、わざとらしいその言葉に雰囲気がさらに悪くなる。しかし、横田も言葉とは真反対の落ち着いた態度で言葉を続けた。

「みなさん、彼はまぎれもない沼太町の職員です。私が会議のメンバーに申請するのをすっかり忘れておりました。そして彼が開始に間に合わなかったのも、私の命によるものなのでどうか彼の参加をお許しください」

「横田町長、いったいどういうことですか?」鉄道側から質問があがる。

「あ、はい。今から説明しますが、彼は私からの指示であるお方を連れてきてもらうようにお願いしたのです。もしも、その方が来なければ彼も協議会には出ないことになっていました」

「その方っていったい誰なんですか?」

「石井課長、その方はお連れ出来たのですか?」

横田は雄二の顔を確認するように尋ねた。

「はい、町長」

雄二は作業着のポケットから携帯電話を取り出し指示を出す。

「桝田くん? 今からお連れしてください。はい、すぐで構いません」

どこか近くの部屋にでも待機していたのだろう。ドアがノックされるとすぐに二名が現れる。

「お連れしました」

「えっ?」

先ほどのどよめきとは少し異なる声が再び会場に起こる。

会議室に入ってきたのは出席者が良く知る瑠萌市長の大西であった。

つづく

石井が連れて来た大西市長。この後、協議会は大荒れの事態を迎える。頑なな鉄道会社を石井はどのようにして交渉を行うのか?乞うご期待!


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