青天の霹靂6(結婚式)
二人は、親族の集まるところへ行く。
「廉夏、綺麗じゃぞ。流石、儂の孫じゃ」
豪造は、もう涙ぐんでいる。
「有り難う、爺様。ねぇ、廉兄は言うことないの」
「そうだな?」
考える振りをして言う。
「孫にも衣装」
「酷いよ。廉兄」
「うそウソ。似合ってるよ。さすが俺の妹だ」
それを聞き、
「えっ?」
冬眞は首を傾げる。 廉夏はそれを見て、何故か笑う。
「でしょう。だって、私、廉兄の妹だもん。って、廉兄言っちゃった。あ~あ、私が驚かせたいって思ってたのに。でも、これは当事者同士が話し合うべきよね。とにかく、私と廉兄は兄妹なの」
廉夏の言葉に廉も頷く。
「ええー、何で?」
「名前に二人とも、廉が付いているでしょ? それが兄妹の証。冬眞にも、私と親族だって、証があるのよ」
「えっ、何処に?」
「名に季節が入っているでしょう? それが、爺様の精一杯だったんだよ」
「でも、僕のには冬で廉夏のは夏、年下の廉夏の方が季節は先に来ますよ」
「ねぇ、季節って、日本だと春からだけど、本当にそれが正解なのかな?」
「どういうことです?」
「だって、カレンダーだと、1月は冬の季節じゃない。つまり、冬から1年は始まるのよね。春だとすると、3月だから、1年の始まりじゃないんじゃないかしら。昔の人は冬こそ、1年の始まりって考えていた証拠なんじゃないかしら。だから、爺様も冬から始まるって思ってるよ。だって、何もないところから、芽吹くために、一生懸命蓄えている、一番大切な季節じゃないかしら。私も、その考え方好きよ。だから、冬眞兄には冬の寒さなんかに負けずに芽吹くために、蓄えておけって意味で付けたと思うよ」
「それだと、春じゃありませんか?」
「う〜ん、そこが爺様は素直じゃないんだ。芽吹く春じゃなく、芽吹く為に蓄える冬こそが季節の最初って考えてるんだな」
「そんな意味が」
「本当のところはどうだか分からないけどね。私には爺様の考えは?」
「でも、僕も貰ってたんですね。お父さんから」
「うん。これ以上ないぐらい大切な物をね。ただ、分かりにくいのよね、爺様の遣ることは。以上、後は廉兄からどうぞ」
「私の話に移る前に、さっきの薬は何だ?」
「やっぱ、何か出た?」
「私の質問に答えるのが先だ」
ぴしゃりと廉が言う。
それに、廉夏は少し不満そうに言う。
「式場に遅れた理由を私は、気分が悪くなったので、って言って、誤魔化したの。その時に貰った薬だから」
「つまり、京極を狙った訳じゃないって、ことか?」
「そう言うことになるね」
そのあと、真剣な顔をして言う。
「今回の犯人は、でも無差別だよ。誰でもいいなんて、許せないよ」
「そうだな。すぐ、出入り業者から職員までを調べさせよう」
そう言って廉は、携帯でどこかにかける。
「廉兄って、こう言うとき頼りになるよね」
「なりたくないがな」
「当面の目標は廉さんって、ことですね」
苦笑いしながら冬眞が言う。
「俺になったら、廉夏の都合がいいときに使われるだけだぞ」
「廉兄、酷い」
「じゃあ、違うと思うのか?」
「悔しいことに正解です」
ぶすくれる廉夏。
「廉夏に使われたいなら、この場は今すぐにでも譲るぞ」
「廉さんが譲ると言っても、廉夏ちゃんの想いは変わりませんよ。やはり、何かあって頼るのは廉さんだと思います。今のままでは」
「ふ~ん、そんなものかね?」
「何か、迷惑そうだ」
廉夏が不満そうに言う。
「そりゃそうだろ」
廉が言う。
「お前自分で甘えてるって、自覚はあるか?」
「ないで~す」
「だろうな」
廉は額を押さえ、頭を振る。
「冬眞に言っておくぞ。こいつに憑かれたら、骨の髄までシャブられるぞ」
「何か、その言い方、酷い」
廉夏が膨れる。
「じゃあ、何て言えばいい?」
「もう、いいや」
ツ〜ンと、廉夏は膨れて、いなくなる。廉夏がいなくなると、早速聞く。
「でも、何故廉さんは気付いたんですか?」
「会長が祖父だってことか?」
「ええ、そうです」
「大学1年の時に友達と献血しに言って知った。聞いていた血液型じゃなかったからな。その後は医学書を読みあさった」
「献血から」
冬眞は頷く。
「そこで、私が会長の実子じゃないことに気づいた。会長がBで、婆様がO型だったから、A型の私が生まれない」
「でも、浮気をされてたら、出来ますよね?」
「確かにな」
廉はクスリと笑った。
「でも、その頃祖父さんの近くに妊娠しそうな者がいた。その者はA型で、その旦那はO型だ」
「それって?」
「そう姉さんだ。姉だと思っていた人が実は母さんだったって、ちょっと複雑だろう?」
「ちょっと、じゃないと思いますよ。複雑すぎます。ところで、廉さんはいつ気付いたんですか?」
冬眞の問いを廉は正確に悟る。廉の母親のことじゃなく、自分の存在について聞いていると。
「お前の存在をか? 案外早いうちから気付いていたよ」
「え、何でですか?」
「祖父さんが金送っていたからな。変なのに引っ掛かったと思って、調べたからな。でも、彼女に会いに行った時、怒られたよ。私は、貴方のお祖父様と本気の恋をしたと。ただ、私達は結ばれなかったけど、私の恋を金なんかで、汚さないでってな。怒られたよ。その後、ずいぶん仲良くしてもらった」
「でも、僕の存在が邪魔だったんじゃないですか?」
「そうだな。何度頭の中で殺したか分からないな」
廉は、笑って言う。それを聞き、冬眞は技とらしく怖がる。
「お〜、怖い。でも、そんなグレた廉さんが何故、会長に従う事にしたんですか?」
「ある取引をしたんだ。己の人生を掛けてな」
廉は苦笑いをする。
「人生を掛けてって?」
「買ったのは、それぐらい価値のあるものだった」
廉は済まして言う。
「で、分かったのは会長の側にいる事は、凄い勉強になるってことだった。その時に自分があの人の子じゃないことを恨んだね」
「それこそ何故?」
「俺は孫であって、あの人の子ではないからな。あの人の子だと、疑わなかった頃が懐かしいよ。だからこそ、私は本来の持ち主に返したいんだ。それが、私の役目だろ? 夏海も自分の役目を果たしたんだ。今度は私の番だろう?」
「私の番とかやめて下さい。廉さんがいくら穴を作っても、僕には見付ける気はありません。例え、見付けてもその穴を僕は塞ぎます」
それを聞き、廉はため息を付く。
「お前、もうちょっと、欲出せ。名字だけで満足するなよ」
廉がそう言うと、冬眞は苦笑いして言う。
「これから、探します。取り敢えずは、今は名字だけで十分満足です」
「あっそ」
こうして、冬眞と廉の話し合いは終わった。
結婚式は滞りなく始まり、滞りなく終わったのだった。
1人を除いては。
廉夏は最後まで叫んでいた。
「誰か嘘だと言ってくれ~」と(笑)
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