宇宙軍2(停留地)

サドとマゾのどちらかで盛り上がると、冬眞が言う。
「って、言うかどちらかで人を判断しないでください」
「でも、人は多かれ少かれどちらかだと思うぞ」
「では、大将の場合は?」
冬眞が聞くと、輝はニヤリと笑う。
「さて、どちらだと思う?」
「間違いなくサドでしょうね、大将の場合」
「そう断言されるとな。複雑だ。 でも、その根拠はどこにある?」
「だって、大将は僕を最初苛めて楽しんでいましたよね」
そう言われ、輝は笑う。
「根に持っているな」
「当然です。僕はあれで強くなりましたが、傷付いたんです。責任取って下さい」
「傷付いたか? それは悪かった」
笑いながら輝は言う。
「責任か、どう取るかね? どう取られたい?」
逆にそう聞かれ、冬眞は悩む。
「俺に出来ることと言ったら、推薦ぐらいだな。どこが良い?」
「どこもありません。僕は、あなたの下で働きたいんです。あなたが、僕を放り出したいなら別ですけど」
そう言って、冬眞は泣きそうな顔になる。
輝は冬眞の頭を抱き寄せる。
「バカそんなことあるか? お前をここまで育てたのは、俺だぞ。でも、そう言えば、上官に口答えしちゃあいけないんじゃないか? 士官学校で習うだろう?」
面白そうに言えば、冬眞も笑って返す。
「家の艦長自体、軍務規定なんて何のそのの人ですから、部下はこのぐらいでちょうど良いんです」
上官が白と言えば、例え黒くても白になるのが軍だ。上官の言葉はそのぐらい絶対だ。
それが、軍の中では当たり前のこと。
輝は笑う。
「だが、お前が、使われた理由がよく分かったよ。お前はすごく実直な奴だ。だから、使われるんだよ」
「使われていた気はありません」
怒ったように、冬眞は言う。
「そうは言うが、お前がここに来た、いきさつを思うと私は心配だよ」
「いいんです。あれで、良い勉強になりましたから。今では、彼らに感謝しているぐらいです」
本心から、冬眞は言った。
「そうか」
「ええ。あれで、自分のいたらなさを知りました」
本当に、そう思っているように言う。
「一応、私は自分で志願を出してきたんです。経緯は、どうあれ」
「まぁ、確かにな」
輝は苦笑いする。
「一応、僕は志願兵です。ここに来て、色々なことを学べました。来てよかったです」
「そういってもらえて良かったよ」
冬眞は軍学校を首席で卒業した。なのになぜ、そんな冬眞がこんな辺境地域に来たのかと言えば、それは己の甘さのせいだった。
始め、情報部へ行こうと思っていた。しかし、仲間の中で、情報部をすごく希望している者がいた。そいつは、この間父親を戦争で亡くし、弟妹達をこれから、養っていかなきゃいけない。そんな、人からその人が行きたい部を取れるだろうか? 否である。受けたら、彼は受からないと思い、受けるのを辞めた。その後知った衝撃の事実。それは、彼らが仲間内で話していたものだった。それは」
「な、俺が言ったとおりだろう。あいつに言えば、絶対受けないってな」
「あれじゃあ、頭よくてもな」
「ああ、本当に。でも、そのおかげで、俺らも試験の山とかも教えてもらえったけどな」
「冬眞様様だな。そのおかげで、俺らも希望の部署に行けたし。良かったよな」
「そうだな。あいつのおかげで、俺らもおこぼれに預かれたし。希望の部署に進めた」
「本当だよな」
自分が彼らに使われているとは薄々感じてはいた。
中には彼らと付き合わない方が良いと同級生の中には、忠告してくれた者もいたが、信じたくなかった。
友達だと、思ていたから。
でも、そう思っていたのは自分だけのようだった。
どうでもよくなった。引き抜きの話もなかったわけではないが、それらを丁重に断り、みんなから、気が狂ったのかといわれたが、それらを全部黙殺し、こんな辺境へと来た。来てみてビックリ。そこには、歓迎のかの字もなかった。それどころか、冷たい眼差しで艦長に言われたのは、
「何で、お前はここに来た? すぐママのおっぱいが恋しくなるよ。ここは託児所じゃないんでね。このままユータンして、帰りな。優等生のおぼっちゃん」
だった。
「何で、そんなこと言われなきゃならないんですか?」
怒った冬眞に、輝は笑いながら言う。
「そんなこと、言わなきゃお前、分からねぇのか? そのおつむはお飾りか?」
嘲(アザケ)るように輝は言う。
「じゃあ聞くが、お前が、ここを志願した理由は? それが、答えだ」
まるで、冬眞がここに来た経緯を知っているかの言う。
「当初、お前は、花形と言われる情報部に狙いをしぼってたはずだ。まぁ、受けなくって正解だったよ。どうせ、受けても、受かってないさ」
あまりに、当然のことのように言われ、冬馬は怒る。
「なっ」
プルプル震える拳。
「怒ったってことは、自分が受ければ、受かるって思ってたわけだ。多分、お前は友達に譲ったって思っているんだろうけど、ずいぶん、その友達をバカにしてるじゃないか? 卑劣な奴だな」
「何でそんなこと、あなたに……」
屈辱に震える冬眞に、輝は冷めた眼差しで言う。
「言われたくないってか? じゃあ言ってやるよ。友達だと、友達の方が思っていなかったわけじゃねぇ。お前の方が友達だと思っていなかったさ。本心ではバカにしてたんだ」
「そんなこと?」
「思っていないか? だったら、なぜ情報部を受けなかった。受けなかったのは、その友達のためだろう? 自分が受けたら、相手は落ちるって考えたののそれのどこが、友達だよ。ずいぶん、そのお友達をバカにしているじゃないか。お前は友達のことを本当に思うなら受けるべきだった。正面から勝負すべきだった。俺の言っていることは間違っているか? 間違っているなら、俺が直す。それより、あまり軍を嘗めるなよ。軍は、そう言う奴は取らねぇよ」
輝はキッと睨む。それに、冬眞は少し怯む。
そう言われ、その通りだと冬眞は思った。相手をけして侮っていたわけじゃない。でも、彼らも日頃からそれを冬眞から感じていたのかもしれない。
だったら、自分だけが被害者面できないなと、この時、初めて感じた冬眞。
輝は冬眞のことを来ると決まった時から、調べていた。なぜ、天才がこんな辺境に来るのか、不思議だったからだ。そして、調べて分かったのは、仲間内に良いように使われてたことが分かった。それが、分かり輝は頭を抱えた。こう言う者には、初めから叩き捲った方が良い場合と、逆に同調した方が良い場合とがある。この男はどっちだ?
どちらにしても、この艦でやって行くには、同調何かじゃない。叩き捲ることだ。それで続かなかったら、それまでの奴ってことだ。そこまで、輝が指導すべきことではない。ここは、学校ではないんだから。でも、冬眞は言った。
「お願いです。僕を教育し直して下さい。僕は間違っていた。軍と言うものを甘く考えていました」
だから、いさせてくれと艦長に頼んだのだった。それに対して、艦長は笑って、
「お前の性根を叩き直すのは、面白そうだ。それ買った」
だった。そして、あれから4年。今に至る訳だが、その間にずいぶん強制されただろうと思う。情報部に行った奴は、その間に違う部署へと回されたらしいが、ざま~あみろとは、思わなかった。彼も、頑張っただろうに、残念だとしか思えなかった。こう思えたのも、ここに来たからだ。
「もうすぐ港につきます。艦長も着替えて下さいね。その格好ではあまりにも酷すぎます」
そう言われ、輝は自分の格好を見る。
上は、黒のランニング、下は、黒の短パン。靴は、サンダルを引っかけただけ。その上、髪はボサボサで、目の下には大きな熊を飼っている。
「やっぱり、不味いか」
「ええ、限りなく不味いです」
そう答える冬眞は、きっちり黒の宇宙軍の軍服を着込み、皺一つ、埃一つ、塵一つついていない。これぞ、まさしく宇宙軍の鏡と言った格好だ。腰には、時代錯誤のサーベルを下げ、見た目だけのために下げているとしか、思えないと、密かに冬馬は思っている。
もっと、機能性を重視しろよと、今どきサーベルはないだろう。と、冬馬は思わずに、いられなかった。
窮屈で仕方がないことないこと。それが、軍服だ。

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