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働き方快覚

仕事の関係で、娘が数日帰省していた。最近、会社内でトレーナーというポジションに昇格したという。
若い層をターゲットにした全国展開のメガネチェーンで、社員もパートもほぼその世代が占めている。低コストとオシャレなデザインがウリで、一度に数本購入する来店客も珍しくないようだ。

本人だってまだ28歳の(こっちから見れば)小娘だが、10代後半~20代前半の、より若い子たちを育てるというなかなかの重責である。
コーチングの要素があり、娘が一方的に指示を出すのではなく、 目標の達成に向けて気付きを与え、自主的な行動を促す役割だ。
娘いわく「今の若い子、ヤバいの多すぎ」。28歳はすでに、若い部類に入らないらしい。

経験は乏しいのに、自分の考えや感覚が正しいとかたくなに思っていて、話の途中で自分なりに結論を出してしまい、仕事に支障を来す。
自分が間違っていても認めようとせず、ストレートに指摘するとプライドが傷つけられて、さらに話を聞かなくなってしまう。その結果、すぐに離職しまうケースが後を絶たないらしい。

企業側はそんなのすぐ辞めてもらっても結構だろうが、現場からすれば人手不足に拍車がかかり、困ったチャンでもなんとか残したいとなるのだろう。支店によっては店長が突然退社してしまうケースもあるらしく、そうなると一般従業員のみで回すという。リーダー不在のなか店の切り盛りや、収支の報告まで担わされるのではたまったもんじゃなかろう。なんとなく、企業の先が見えてしまったような気になる。

若い連中が立ち上げて急成長した会社だから、成熟するまでにまだ相当な時間を要するはずだ。いわゆる「グローバル」系の新興企業が生き残っていくのは、街で老舗しにせの小さな和菓子屋さんが続くよりも、困難な気がしてならない。

娘の話を聞いていると、トレーナーという仕事にやりがいを感じているのがよく分かる。本など読んではその手の人材の心理を理解しようとしているし、コミュニケーションを取りながら相手の意識が変化するのを実感していくのが、楽しいと言う。
社内で地位が上がっていく事にも意欲を持っていて、新しい資格にも挑戦したいという。

その一方で、会社に対する評価は一切ない。
トレーナーに昇格する際は春日井から東京の本社まで何度も通い、トレーニングを積んでいる。トップの顔を知らないというわけでもないのに、娘の口からは、会社に対する賞賛も愚痴も聞いたためしがない。

理由は紛れもなく、会社とそこに勤める社員との、距離の遠さに起因する。
多少なりと近しい存在であれば、相手に対し印象が生まれる。
好きだ嫌いだ、あのひと苦手、逆に親しみがあるとか、社長カッコイイでも上役がアホだでも、個人の見解はあって然るべきだ。
それがトップに限らず、中間管理職や直属の上司でさえも話題に上らないのは、両者の関係性の希薄さを象徴している。

現に娘は2年前まで(やはり新進気鋭の)アパレル業界に身を置き、6年間働いてとつぜん退職した。理由は「欲しい資格がとれないから」と「勤務地が遠くなったから」。
組織に対し、なんの夢や希望も抱いていないのがよくわかる。だから、使ってもらったことへの「感謝」もなければ、逆に「裏切られた」感もない。
強い感情抜きに、きわめて即物的に、そこに所属していたに過ぎないのだ。

松下幸之助の「会社は社員のためにある」時代から、「会社は株主のためにある」とホリエモンらの世代が価値を転換した。そして彼の登場から、20年も経過している。
「この会社があるから家族を養える」「会社が儲かれば給料も上がる」
会社と従業員が運命共同体の関係にあれば、愛社精神は自ずとはぐくまれるし、それが組織を強くもした。
株主資本主義の台頭によって、かつて一体感を誇った日本企業は、マルクス言うところの資本家と労働者に見事二分され、双方の収入も意識も、距離は遠のくばかりである。

その結果は、火を見るより明らかだ。
世界の名目国内総生産(GDP)2位を誇った日本は、2010年に3位となり、2023年はドイツに抜かれ4位に転落した。いずれイギリスが日本を抜き、5位になるのもそんなに先の話ではない。

その要因は、日本の力が衰えたためではない。日本が本来大事にしてきた「会社は社員のためにある」に戻ればいいだけなのだ。
欧米型の発想やビジネスが、日本人に合っているとは限らない。社員を大事にしようを発想の起点とするとき、小さくとも後々まで「残る」会社が生まれるんじゃないか。そんな企業であれば、社員と共に成長することも可能だろう。

あとは、アホな「働き方改革」を止めればいい。「改革」なんて名前の付く政策は、世の中を改悪に導く愚策に決まっているからだ。
政府や官僚が民間から自由を奪うほどに、マルクスの描くディストピアが、近づいてくるだけである。

イラスト hanami🛸|ω・)و

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