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安全な不安

セロトニンという物質、これは神経細胞の末端部から放出され、次の神経細胞に受け取られていきます。余ったものが前の神経細胞に吸い込まれていきます。この吸い込むものを「セロトニントランスポーター」と言い、いわばリサイクルポンプです。これをたくさん持っている人と、中くらいの人と、あまり持っていない人がいます。その数は遺伝子で決まります。
この遺伝子に「S型」というのがあり、これを俗にいう不安遺伝子といいます。
これはセロトニントランスポーターを「少なく作れ」と指令する遺伝子です。
逆に「多く作れ」と指令するのは「L型」で、このSとLの組み合わせ(SSとSLとLL)でセロトニントランスポーターの数が決まってしまいます。
Sを2セット持っているSS型の人は、不安や不公平感を感じやすく、緊張しやすく、危機に直面すると焦ってパニックを起こしやすいようです。

脳科学者 中野信子氏の発表より抜粋

遺伝子の組み合わせには、「LL」「SL」「SS」の3種類がある。
この組み合わせが人種によって割合の異なることが分かってきた。

「S」型遺伝子保有は日本人で80.25%、アメリカ人44.53%、南アフリカ人27.79%。

さらなる不安遺伝子である「S」を2つ持つ、「SS」型が最も多い民族は日本人と言われ、全体の68.2%。
アメリカ人の「SS型」が全体の18.8%に過ぎないというから、国民性の違いは顕著だ。

セロトニンを多く作る「LL」型遺伝子を持つ人は、ストレスを感じる状況に置かれても気分が安定しており、前向きな人が多いと言われる。
アメリカ人の「LL型」保有は32%で、人口の3人に1人は楽観的ということになる。
我々日本人が抱く「陽気なアメリカ人」のイメージには、こういう裏付けがあったのか。

日本人に自己主張が少なく、未知の分野に挑むのに足踏みしがちなのも、「S」型遺伝子保有率から考えれば納得がいく。
裏を返せば損害回避能力に優れていて、無茶な行動に走ったり、一か八かの挑戦をすることが少ない民族とも言えるだろう。

日本人に「SS」型が多いのは、日本の地形・地質・気象などの自然的条件からで、台風・豪雨・豪雪・洪水・土砂災害・地震・津波・火山の噴火など、災害が発生しやすい国土となっていることが影響していると、説を唱える学者がいる。

世界の災害被害総額のうち、日本はなんと20%の割合を占める、過酷な自然環境にあるそうだ。
東日本大震災(3.11)による被害額は3,600億ドル(日本円で約32.8兆円)、阪神・淡路大震災による被害額は1,970億ドル(日本円で約21.3兆円)にものぼり、世界の自然災害として史上最大とされている。

厳しい自然環境ゆえに日本人は不安遺伝子を活用し、災害に対して長年対処し続け、常に備え、適応してきたと言える。
楽観性が高く「何かあってもどうにかなるさ」「そんな悪いこと起きやしないさ」という遺伝子では、自然災害に対して対処ができなかったわけだ。

これは「日本人は災害を忘れやすい」ことと、表裏一体の関係にあるのかもしれない。一度起きてしまった災難に、いつまで悲嘆し続けてばかりでは、前を向けないからだ。
不安遺伝子とは目に見えない「未来」に対し発動するものであり、起きてしまった「過去」には無縁である。

日本の神道では、死や血を「けがれ」と表するが、手や体を水で洗うことで目に見える汚れを落とすと同時に、「けがれ」もはらわれる。欧米的な「原罪」や隣国「千年の恨み」の概念とは、人間の捉え方がまったく異なる。

良くも悪くも過去の出来事や問題を忘れてしまう、または許すという「水に流す」の精神も、ここから派生しているのか。

もう少し続ける

イラスト hanami🛸|ω・)و

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