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イケてるMac③

10年ほど前、所属していた会社で衛生管理者選任が必要になった。それまでも労働基準監督署からさんざん指導を受けていたらしく、数か月以内に条件を満たさないと怒るぞー、となったらしい。そこまで放置した総務部も大したもんであるが、いよいよ事態が差し迫ったころになって、初めて僕に相談がきた。
国家資格だから、試験に合格しないと当然取得できない。で、誰が受験するの?ってなると、アンタ行けよって眼差まなざしがやけに痛い。最初からターゲットを、一人に絞っていたようだ。

まぁね、本社でヒマそうにしてるのオレぐらいだけど、50歳過ぎてのお受験はきついよなぁ。誰か行きたいひと手ェあげてーって、そら誰もおらんわな。

しゃあない。試験日を決め、問題集と過去問に取り組む。これがあなたアータ、昨日の晩飯も憶えていない、無記憶能力だったら抜群の僕にとって、半端ない苦行なのである。

血液に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)血液は、血漿と有形成分から成り、血液の容積の55~60%程度を占める血漿中には、アルブミン、グロブリンなどの蛋白質が含まれている。 
(2)血液の容積に対する赤血球の相対的容積をヘマトクリットという。
(3)骨髄中で産生される赤血球の寿命は、約120日で、白血球の寿命に比べて長い。
(4)白血球の一成分であるリンパ球には、Bリンパ球とTリンパ球があり、免疫反応に関与している。
(5)ある人の血漿中のフィブリン(線維素)と別の人の血清中のフィブリノーゲン(線維素原)との間で生じる反応を血液の凝集という。

実際に試験を受けたとき出題された全30問の一つで、正解は(5)である。
フィブリノーゲンがなんであるかいまだに知らんし、デンマークのパンクバンドだと耳にすれば、そのまま受け入れるだろう。新たに発掘されたマイルスの未発表曲と言われたら、いかにも帝王らしいとしたり顔で頷くはずだ。

意味も分からん単語を頭に詰め込んでいくと、文字通り吐き気を覚えるのをこのとき知った。
三半規管がやられ、くらくらと目まいがし、オエップ!になるのである。衛生管理者の試験は、おのが心の衛生管理に有害なのであった。

自慢するわけじゃないが、いや、この際だから大いに自慢しちゃうが、ワシ以外ほぼ20代が占める受験会場に臨み、一発合格を果たす。
そして合格発表と共に、衛生管理者がなんであるのか、きれいさっぱり忘れたのであった。

そのトラウマ(?)もあって、新しい事ことを覚えるときの心理的抵抗感が容赦なく立ちはだかる。
師匠よりFinal Cut Pro Xファイナルカットプロテンのテキスト本を頂戴したが、ジェネレータやらトランジションやら、ビューアがなんたらでタイムラインがどうしたの、もーはなから頭が拒絶しまくりなのだ。

習うより慣れろ、見る前に跳べとばかり、わかんないままいじり始めた。YouTubeで「Final Cut Pro X」を検索すると、こんなのタダでいいんかいくらい丁寧な、初心者向けチュートリアル動画が幾つもあがっている。
これら若いクリエーターたちの講義を繰り返しうけながら、知識というより、感覚的な操作で馴染んでいった。

イラスト hanami AI魔術師の弟子


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