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【オリジナル脚本】四畳半

※著作権は全て「まんまる@脚本を書く人」に帰属します。脚本の使用に関するご連絡はs.ryth.mimi@gmail.comまでお願いします。


メインキャラ
橋本拓実…ごく普通の会社員。ひねくれており、言葉遣いが荒い。26歳。
妖精(ゆめ)…橋本の前に突然姿をあらわした少女。年齢の割にませている。
久保ちなつ…会社で人気の先輩。橋本が思いを寄せている。28歳。
吉田順平…橋本の大学時代からの友人。真面目で優しい性格。26歳。

サブキャラ
同僚A…橋本と吉田の同僚の男。
看護師…宿直の看護師。男女不問。


(雨音)
橋本「…雨か。今日洗濯物干したかったのに、ツイてねぇな」
(スマホを取り出し、少しいじってポケットに入れる)
橋本「コインランドリー1回800円…いい商売だな」
(洗濯物を入れたリュックを背負って出る)
(妖精、登場)
妖精「…ここが橋本拓実くんの家ね。よし、精一杯頑張らなきゃ」
(部屋を探検するも、物が少ないためすぐに終わる)
妖精「…本当にここで生活してるのかな?」
(インスタントコーヒーを発見、淹れる)
妖精「これでよし、と」
(橋本、帰宅)
橋本「はぁ…寒」
(玄関で鉢合わせる2人)
橋本「えっ…うわああああ!」
妖精「ひゃ!」
橋本「だ、誰だよお前!」
妖精「お、おかえりなさい、私たちの愛の巣へ!」
橋本「ここは俺の家だろ。なんだよ“愛の巣”って、気持ち悪ぃ」
妖精「さ、とりあえず上がって!外は寒かったでしょ?コーヒー淹れたよ」
橋本「…厚かましいヤツめ。だからここは俺の家だって」
妖精「頑張って淹れたから1口だけでも」
橋本「1口も要らねぇからお前が飲んどけ」
妖精「私、コーヒー飲めない」
橋本「…めんどくせぇ」
(一気飲みする)
橋本「熱っ!」
妖精「もしかして猫舌?可愛いところあるんだね」
(橋本、妖精を睨む)
(橋本、タオルで乱雑にリュックと腕を拭く)
妖精「それにしてもさ、ここ殺風景すぎない?」
橋本「…うるせぇな、他人の部屋にいちゃもんつけんな」
妖精「だって、独房みたいなんだもん。一緒に住むのになんだか落ち着かないじゃん」
橋本「…は?お前、今なんつった?」
妖精「え?だから、独房みたいだって」
橋本「そっちじゃねぇよ。お前、まさかこの部屋に住み着くつもりか?」
妖精「そうだけど、何か?」
橋本「何か?じゃねえよ。不法侵入で訴えるぞ」
妖精「お好きにどうぞ?私はあなた以外には見えないんだよ」
橋本「…でたー、漫画によくある設定。うさんくさ」
妖精「嘘だと思ったら、ちゃんと誰かに見てもらいなよ」
橋本「…はぁ?めんどくさ」
妖精「そんなこと面倒がってたら、将来詐欺に遭うよ」
橋本「うるせぇしばくぞ」
妖精「まあまあ、ここに住まわせてもらう代わりに家事はやるからさ」
橋本「…お前の本当の目的は何なんだよ」
妖精「知りたい?」
橋本「当たり前だろ。グズグズせずに言えよ」
妖精「ちょっと。さっきから思ってたけどさ、言葉遣いどうにかならないの?」
橋本「あ゛?どうだっていいだろ」
妖精「女性にモテなくなるよ?」
橋本「っるせぇ、余計なお世話だ」
妖精「あなたの好きな人、私知ってるんだけどなぁ」
橋本「は?」
妖精「会社の先輩の久保ちなつさん、2歳上で可愛くて優しくて社内でも人気者の彼女との出会いは新入社員時代…教育係になった彼女にひとめ惚れして早4年、最近はなかなか接点がなくて悩んでいる…」
橋本「…何でお前が他人の事情を詳しく知ってんだよ」
妖精「私は妖精なの。あなたに関する情報はぜーんぶ予習してきたの」
橋本「それってストーカーと同義じゃ…」
妖精「まあ、あなたに興味が無ければここまで調べなかったけど」
橋本「うっ…気持ち悪っ!さっさと要件言えよ!金か!?」
妖精「そんなんじゃないけど…何でも聞いてくれる?」
橋本「…あぁ、殺さなければな」
妖精「私と付き合ってよ」
橋本「…は?」
妖精「ね、いいでしょ?」
橋本「何でだよ」
妖精「だって、あなたが好きなんだもん」
橋本「俺はお前が嫌いだから無理」
妖精「…何でも聞くって言ったじゃん(泣)」
橋本「はぁ…俺が先輩好きってわかってんだろ?何で諦めねぇんだよ」
妖精「だって、付き合ってないじゃん」
橋本「うっ」
妖精「それに、どうせ告白する勇気もないんでしょ?」
橋本「チッ…っるせぇガキめ、勝手にしろ」
妖精「やった!」
橋本「ただし、俺が先輩と付き合えたら即刻別れるからな」
妖精「わかった!拓実くんだーいすき!」
橋本「…俺の名前まで把握してやがる。それより、お前も名乗れよ」
妖精「名前?ないよ、もともと」
橋本「じゃあ何て呼べばいいんだよ」
妖精「拓実くんがつけてよ」
橋本「俺が?…ポチ、とか?」
妖精「嫌だ、犬みたいじゃん。もっと人間らしい名前にして」
橋本「チッ…女の名前なんか知らねぇよ………………ゆめ、とか?」
妖精「ゆめ?」
橋本「お前みたいな実体のない存在は夢と同等だろ」
妖精(以下、ゆめ)「…すっごく可愛い名前!じゃあ今日から私は『ゆめ』ね!」
橋本「いいか、俺はお前の主人だ。俺の命令は絶対だぞ」
ゆめ「承知しました、ご主人様!」
橋本「わかったらまずは部屋の掃除をしろ。俺は洗濯物を取りに行ってくる」
ゆめ「はーい!いってらっしゃいませ、ご主人様!」
(掃除に取り掛かる)

(各自が用事を済ませて夜になる)
(着信音)
橋本「静かにしとけよ」
ゆめ「はいはい。どうせ他の人には聞こえないのに」
(通話中、次の吉田の台詞に繋がるまでの流れはアドリブでどうぞ)
吉田「久保先輩は弟系男子が好きって噂だぞ。お前が愛想よく声かけたら絶対気に入られるはず!」
橋本「マジで?よしっ…絶対堕とす!!」
吉田「その意気だ、拓実。俺はずっと、お前の味方だからな!」
橋本「サンキュー、順平。やっぱりお前しかいねぇよ!」
𠮷田「ははっ、じゃあまた明日な」
橋本「おう、おやすみ」
(切る)
ゆめ「楽しそうだね」
橋本「俺の唯一無二の親友だからな」
ゆめ「ふーん、でもいつ関係が壊れるかわかんないよ?」
橋本「まさか、何言ってんだよ」
ゆめ「だから、そのときのために私に依存しておくのも手だよ」
橋本「馬鹿馬鹿しい、寝る」
ゆめ「じゃあ一緒に寝」
橋本「そこに寝袋があるからそれで寝ろ」
ゆめ「…はーい。まったく、救いようがないな」

翌日の職場
(久保が歩いてくる)
橋本「あ、先輩!おはようございます!」
(久保、男の前を素通り)
橋本「あれ、久保先輩?俺ですよ、橋本ですって!」
(久保、そのままはける)
橋本「あれ…?俺、何かしたっけ?いや、そんなわけ!」
(吉田がやってくる)
橋本「よっ、おはよ!」
(吉田、気付かず素通り)
橋本「おーい、順平。お前までシカトか?(笑)」
(吉田、はける)
橋本「おーい、順平!」
(途中まで追いかけて止まる)
吉田「あ、久保先輩!おはようございます!」
久保「おはよう」
橋本「先輩と…順平?」
吉田「ねぇ、今夜も家行っていい?」
久保「ちょっと、そういう話は職場でしない約束でしょ?社内の人に聞かれたらどうするの?」
吉田「あはっ、ごめん。つい楽しくなって…」
久保「まあ、いいけど?順平、今度こそは寝落ちしないでね?」
吉田「もちろん、ちなつさん」
久保「ふふ、じゃあ楽しみにしてるね」
(沈黙)
橋本「…嘘、だと言ってくれ…」
ゆめ「親友に抜け駆けされちゃったね、残念」
橋本「…お前だけは…信じてたのに」
ゆめ「信用って、いとも簡単に崩れるものだね」
橋本「…ははは、ちなつさん、か」
ゆめ「…ここだ、大天使様が言ってたのは」
橋本「…はぁ、とりあえず仕事するか。今日は外回りがあるし」
ゆめ「良かった、まだ正気みたい」
(橋本、営業に出かける)
(空を仰ぐ)
橋本「…青空か」
(眩しさに目を細め、また歩き出す)
橋本「…」
ゆめ「拓実くん…あのさ」
橋本「…」
ゆめ「拓実くん?ちょっと拓実くん!!危ないっ!!」
(橋本、交通事故に遭う)
(サイレン音)

【橋本の身体は意識不明で入院中。尚、助かる見込みはない】

(橋本、無表情で冥土への吊り橋に向かって歩いている)
ゆめ「拓実くん!」
(橋本、気付かない)
ゆめ「拓実くん!止まって!」
橋本「…お前か。なんだよ」
ゆめ「お願いだから、その吊り橋は渡らないで!」
橋本「吊り橋?…うわ、なんだこれ」
ゆめ「その吊り橋は“冥土への吊り橋”って言って、死ぬ道を選んだ人しか渡れないの。だから、拓実くんは渡っちゃだめ」
橋本「?つまり、俺は瀕死状態ってことか?」
ゆめ「そうだよ。拓実くんは信号無視して交通事故に遭ったの」
橋本「ふーん…で、ここが冥土?」
ゆめ「だから、吊り橋を渡った先だって。お願いだから死なないで」
橋本「もう、生きてく意味なんてねぇよ」
ゆめ「私は?拓実くんがいなくなったら、私は」
橋本「別にお前のために生きたいなんて思えねぇよ」
ゆめ「そんな…私は拓実くんのために生きたい」
橋本「しつこいな…お前は俺の何なんだよ」
ゆめ「彼女でしょ」
橋本「俺は認めない」
(沈黙)
ゆめ「…ねぇ、拓実くん。もし、また身体が手に入ったらどうする?」
橋本「何をほざきやがる。もう死んだも同然の身に」
ゆめ「実はね、浮浪する意識を仮の身体に吹き込むを方法があるの」
橋本「仮の身体?」
ゆめ「そう。あくまで“仮の”だから、私以外には見えないんだけどね」
橋本「…そんなことが可能なのか?」
ゆめ「うん…でもね、もしバレたら厳罰が待ってるのは事実」
橋本「厳罰…?まあそれなら無理に自分を犠牲にすんなよ。俺は自分で成仏するから」
ゆめ「わかってる…でも、未練を残さないために、拓実くんが確認したいこととか、会いたい人とか、やりたいことを叶えてあげたいの」
橋本「…本当に、後悔しないか?」
ゆめ「拓実くんのためなら」
橋本「…じゃあ、もう一度あの日常に戻らせてくれ」
ゆめ「…うん」

(職場)
ゆめ「拓実くん、目を開けてみて」
橋本「…俺、身体が戻った?」
ゆめ「だから、仮の身体なんだって」
橋本「…わかってるよ、言ってみただけだろ」
ゆめ「それより、ここがどこかわかる?」
橋本「当たり前だろ…本当に、何も変わんねぇな。俺のデスクが無いだけで」
ゆめ「そりゃ、あれから半年経てばね」
橋本「まあ、とりあえず久保先輩を探すか」
(吉田が前を素通りする)
橋本「あ、順平お前っ」
ゆめ「残念ながら、姿も声も届いてないよ」
橋本「そうだった…なんか、デジャヴを感じるのは俺だけか?」
同僚A(以下、A)「吉田、お疲れ」
吉田「おう、お疲れ」
A「最近お前、仕事もプライベートも絶好調らしいな」
吉田「何、まさか社内で噂にでもなってんのか?」
A「いや、まだ誰にも話してない。そこは俺を信じていい」
吉田「まあ、好調は否定しないけど」
A「それで、どうなんだよ。久保先輩とは」
吉田「どうって?」
A「先輩、ここ数カ月体調が優れないらしいじゃん。今日も休みだし…お前が何か知ってんじゃねぇの?」
吉田「それは…知らないってわけじゃねぇけど」
A「お、ということはまさか…!?」
吉田「…絶対に口外すんなよ」
A「うわっ…これだから色男は!わかった、ランチ奢るから詳しく聞かせろよ!」
吉田「わかったわかった」
(2人、去る)
橋本「…」
ゆめ「…拓実くん?大丈夫?」
橋本「違う…俺が…見たかったのは…こんな風景じゃねぇ…」
(橋本、走り去る)
ゆめ「拓実くんっ、待って!」
(ゆめ、走り去る)

(夜、久保の家)
ゆめ「なんでこんなことしてるの」
橋本「うるせぇ。文句あんならついてくんな」
ゆめ「相変わらずお口が悪いこと」
(ドア音)
ゆめ「あ、帰ってきたよ」
久保「…ごめんね、荷物全部持ってもらって」
吉田「何言ってんの。ちなつのためなら出来ることは何でもするし」
久保「順平…ありがとう」
吉田「それより…良かったな、順調で」
久保「うん、元気でいてくれて安心した」
吉田「さ、とりあえず安静にしときな。俺は夕飯の支度するから」
久保「待って」
吉田「どうした?」
久保「…ちょっとだけ、甘えてもいい?」
吉田「…いっぱい甘えてくれてもいいけど?」
橋本「久保先輩…そのお腹は…?」
ゆめ「うわうわ…これはこれはお熱い」
橋本「…違う!!全部嘘だ!!幻覚だ!!そうだろ!?こんなことがあってたまるか!!」

(3日後、四畳半にて)
ゆめ「…郵便が届いてたよ」
橋本「…よこせ」
ゆめ「はい」
橋本「…『この度、私たち吉田順平と久保ちなつは、6月27日に挙式する運びとなりました。つきましては橋本様に是非ともご参列いただきたく存じます。』…バカなのか?行けないってわかってるはずなのに…俺に対する嫌がらせか?」
(橋本、ゆめに招待状を乱暴に突き返す)
ゆめ「ちょっと、せっかくの招待状なんだからもっと大事に扱いなよ」
橋本「ただのゴミだ。シュレッダーにかけて処分しとけ」
ゆめ「そんな、なんで私が」
橋本「主人の命令だ。ぐずぐずすんな」
ゆめ「…」

(場面、病室)
吉田「今にも起きそうな寝顔だな」
久保「そうね…」
吉田「拓実、今日はひとつ良い報告があるんだ」
久保「…」
吉田「実は…俺とちなつの子どもができた。3日前に定期健診に行って、安定期に入ったらしい。…聞こえるかはわからないけど、無事に産まれるように祈ってほしい」
(橋本の返答を待つ空白)
久保「お願い、橋本くん…目を覚まして…」
(橋本登場、だが二人には見えていない)
橋本「…ふーん、つまりはデキ婚か。他人(ひと)を失望させといて、やっぱり自分らのことしか頭にないのか…お前らでせいぜい幸せになっとけよ。俺は…これで踏ん切りがついた」
(橋本、走り出す)
ゆめ「拓実くんっ!」

(冥土への吊り橋)
ゆめ「待ってよ、早まらないで」
橋本「なんで体を失っても意識は手放せなかったんだ?なんで仮の身体を手に入れてまであんな現実を見る選択をしたんだ?俺はそれほどこの世界に未練があったのか?いや、絶対そんなわけがない。あれほど毎日は平凡だったはずだったのに、ゆめに出会ってから俺は狂い始めたんだ。お前が視界に入ったときには、既に俺は死んでいたんだ。そうだろ?なんでこんなに長い間それがわからなかったんだ。…いや、今やっとそれに気づけたんだ。だから俺は死ぬ!再び生きることがないように、徹底的に死んでやる!」
ゆめ「拓実く」
橋本「お前が救ってくれた命も、これでおしまいだ。世話になったと言ってやっても悪くない。しかしな、俺はもう死を目の前にして幸福すら感じてるんだ。もう止めても無駄だということだけは言っておこう」
(ゆめ、橋本を抱きしめる)
橋本「離せ」
ゆめ「いやっ」
橋本「離せって言ってんだよっ!」
(ゆめを突き放す。ゆめ、倒れる。橋本、その隙を狙って歩き出そうとする)
ゆめ「拓実くん!」
橋本「なんだよ」
ゆめ「私も行く!」
橋本「はぁ?なんでだよ」
ゆめ「拓実くんが好きだからだよ!」
橋本「俺はお前のこと大っ嫌いなんだよ!ついてくんな!」
ゆめ「嫌われててもいい!お願い、私も一緒に死なせて!」
橋本「お前に全てを狂わされたんだよ!二度と近寄るんじゃねぇ!」
ゆめ「それは本当にごめんなさい…だけど、せめて死ぬことで償わせてほしい」
橋本「大体お前は妖精なんだから死ねねぇだろ」
ゆめ「それはっ…!」
橋本「幸か不幸か、『死』は動物の特権だからな。…じゃあな」
(橋本、そのまま吊り橋を走って駆けていく)
ゆめ「…拓実くんの、ばか。ばかばかばかっ!!!…うぅ…」
(ゆめ、泣き出す)

久保「うぅ…」
吉田「どうした?気分でも悪い?」
久保「…大丈夫、ちょっと疲れただけ」
吉田「そう?…そういえば、子どもの名前、どうする?」
久保「順平が決めて…うぅ…」
吉田「おい、しっかりしろ!救急車呼ぶか!?」
(不吉な電子機器の音が鳴り響く)
吉田「何の音だ?…拓実!?拓実!!おい!!どうした!!おい!!拓実!!」
看護師「橋本さん!!ちょっとどいてください。橋本さん!!橋本さん!!」
久保「橋本くん…?橋本くんっ…!」
吉田「ちなつ!俺らは移動しよう、救急車を手配するから」
久保「嫌っ、橋本くん…!」
吉田「ちなつ…!」
看護師「2人とも、今すぐ出ていってください!」
吉田「ほら、行くぞ!」
久保「うぅ…橋本くん…橋本くん…!」
(不吉なサイレン音)

ゆめ「…私は、拓実くんの命を救えなかった。その上、重罪を犯した。罰として、今日付で天界から追放されることになった。…拓実くんがいない世界で、拓実くんとの記憶を失って生きることに意味は見出せないけど、これが私にできる最善なのかもしれない。また会えるまで長くかかっちゃうけど、絶対に会いに行くから待っててね。…拓実くん、今まで本当にありがとう。心から、愛してるよ」

(場面は変わり、かつての四畳半)
(吉田、赤ん坊を抱いている)
吉田「拓実…お前が死んでからちょうど1年が経ったよ。…元気か?ちゃんと天国に行けたんだろうな?」
(沈黙)
吉田「…実は半年前にちなつが死んだ。産まれて間もない娘を遺して…俺がお前を騙してちなつを奪った、そのツケが回ってきたんだろうな。…本当に悪かった。正直不安だけど精一杯育てるから、どうか二人で見守っていてくれ。」
(沈黙)
吉田「…名前?名前は、ゆめ。笑った顔がお前にそっくりな、可愛い女の子だよ」

【終】

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