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なぜ、露人は未だにプロパガンダを信頼し、独立系メディアを拒否しているのか

10月13日  ボイス・オブ・アメリカ: (5,196 文字)
エコーチェンバー効果 

露人はなぜ未だにプロパガンダを信頼し、独立系メディアを拒否しているのか

ほとんどの露人はいまだにプロパガンダを信頼し、独立系メディアを拒否している
なぜ、多くの露人がいまだにクレムリンのプロパガンダや偽情報を信用しているのか?
露のウクライナ侵攻開始以来、クレムリンのプロパガンダは極めて積極的になり、抑制が効かなくなった
とはいえ、ほとんどの露人は依然として国営メディアに依存しており、露に残る独立系ジャーナリストをクレムリンが残酷に弾圧していることに気づいている人はほとんどいない
PONARS Eurasia(The Programme on New Approaches to Research and Security in Eurasia)では、露の独立系ジャーナリズムがクレムリンの偽情報に対抗できず、また露人のニュース・リテラシーは権威主義のプロパガンダに対して脆弱であることが証明されたという問題点に焦点を当て、講演が行われた
Anton Shirikov(コロンビア大学ハリマン研究所露政治学博士研究員・ウィスコンシン大学マディソン校政治学博士)は、なぜ多くの露人がクレムリンのプロパガンダに説得力を感じるのか、そして露人が特に影響を受けやすいプロパガンダのナラティブ(物語)や手法は何なのかを詳しく説明した

プーチンのプロパガンダはどのように行われているのだろうか?

露人はどこまでそれを聞き、その情報源を信頼しているのだろうか?
露人は、クレムリンが作り出した偽情報と真実を見分けることができるのだろうか?
いつか、プロパガンダが力を失うと思ったほうがいいのだろうか?
この問いに答えるべく、Anton Shirikovは過去2〜3年間に実施した調査のデータを用いて報告書を作成した

メディアの国家統制:「全てはプーチンのために!」

露政府は長い間、露のメディアのほとんどを支配してきた
「本格的な戦争が始まって以後、露国営テレビはノンストップ・プロパガンダ・マシンと化し、戦争について、作り話や偽情報に満ちたニュースやプロパガンダ番組をオンエアや政治トークショーに見せかけ、週に最大80時間流している」
全てがプーチンと戦争を支持する『国家建設』のための非人間的お手本だ
国営テレビが論調の基準を示し、時には一見、中立的でよりバランスのとれたメディアを装うこともあるが、他のすべての国営メディアもこの路線に従う傾向がある
残念ながら、独立系メディアは二次的役割を担っているに過ぎない
独立系メディアは破壊されてしまい、幅広い読者を持つことはなかった
「2月のウクライナ侵攻以前、何十もの露独立系メディアがあったが、あらゆる手段で脅され、攻撃され、迫害され、排斥された」 と、Anton Shirikovは強調する
彼のデータによると、今年3月までの露の既知の独立系メディア・ウェブサイトへのアクセス数は、全部合わせて月に1億件程度だった
他方、露国営通信社だけで1億5千万件のアクセスがあった
このように、一国家機関が、全独立系メディアの合計よりも多くの報道を行っていた

「真実の罪で」刑事訴追

2022年、状況はさらに悪化し、戦争に関する独立した出版物や、前線で起こっていることについて無許可で報道するだけでも犯罪となった

露国家は、残っていた独立系メディアのほとんどを封鎖、閉鎖した
彼らの多くは海外に移住し、イベントの取材を続けていたが、ほとんどの露人はVPNを持たず、アクセスできない状態であった
(画像は露でプロックされているWebサイト数の変遷)

今年に入り、露政府が月に最大2万件のウェブサイトをブロックした月もある
ほとんどは独立系メディア関連ではないが、数字が検閲レベルの厳しさを物語っている
現在、露にはYouTubeやTelegramなど、いくつかのSNSプラットフォームが残っている
これらのプラットフォームは「一部の独立した声」と「多数の国家検閲(または間接的な国家検閲)後の声」を特徴としている
「コメルサントのような、露で非常に権威のある新聞社からは戦争の真実は学べない
しかし、驚くべきことに、調査対象者の20%は、検閲が導入されてからの方が戦争に関する情報が多いと答えている」 とAnton Shirikovは強調する

無言の追認

露人が公式な政治的シナリオを受け入れていることに衝撃を受けざるを得ない
ほとんどの露人は、戦争(注:「戦争」という表現は禁止されている)や原爆投下の可能性をあっさり否定する

ウクライナの親族が私的な会話の中で爆撃の跡を写真で見せ、砲撃されたと言うと、露人達は「それは違う、全部間違っている」と返事をする
「あなた方ウクライナ軍がやっていることだと状況を説明し、より多くの情報が明らかになった現在でも、多くの露人はこの戦争は必要で適切だと考えている」

情報バブル(エコーチェンバー)

Antonは、プーチンのプロパガンダが安定している理由として、4つの理由を挙げる
第一に、国営メディアは一種の情報バブルを形成し、競合、または代替となる物語を遮断している (露人の60%が国営メディアを視聴し、80%が国営メディアのサイトからインターネットで検索している)
第二に、このバブルは、多くの露人にとって「都合がいい」ということだ
ある意味、露人にとって「情報の安楽地帯」なのだ
第三に、露人は情報を評価するのが苦手で、メディアにおける「真実と嘘」の区別する力が弱いという
そして特に残念な第四の理由は、クレムリンのシナリオの多くが露人にとって非常に魅力的であるということだ

SNSにおける国営放送のシナリオの繰り返し

現代露プロパガンダを研究しているAntonは、露のメディア視聴者のもう一つの重要な問題点を指摘する
「情報バブルはメディアの信頼性を錯覚させる」と露プロパガンダ・マシンの働きを説明する
「私たちはしばしば、情報の確認や検証を他の情報源に求めます
しかし… しかし、問題なのは、国営メディアが多数存在するにもかかわらず、どのメディアも多かれ少なかれ同一のストーリーを提示しているということです
その結果、露人たちはニュースを見たり、インターネットで調べたり、別の出版物で情報を確認したりしても、そこでは同じような話ばかりなのです」
露人もさまざまなソースで情報を確認するが、そのソースが同じ物語を語るのだ
露で最も人気のある検索エンジン「Yandex」を使って露人は検索するが、それは露国家が間接的に管理している検索エンジンであり、同じ物語を語るのだ
「メディアの『情報源』に相当しない者同士が、互いに信頼できるように見せかけ、本質的に何も根拠の無いところに『信頼』を作り出している」とAntonは言う
調査によると、インターネットを利用する露人の75%が、少なくとも一部の国営メディアを信頼している
(あるいは、国営メディアを「信頼できる」メディアとして挙げる)
独立系報道機関を信頼すると答えたのは15〜20%に過ぎない
露人は国営メディア報道が「好き」なのだ
「プロパガンダに対する高い信頼は、ポストソビエトのアイデンティティとソビエトの崩壊という過去が強い感情を刺激することに基づいている」 とAntonは説明する
実際、彼の世論調査によると、露人のほぼ3分の2がソ連崩壊を後悔している(63%)
その理由は理解できる
1990年代、露経済危機、社会的混乱と不安定に直面し、大国としての地位を失ったからだ
さらに、ほとんどの露人は、問題の原因を西側諸国やNATOに求め、第二次世界大戦でのソ連の勝利を「崇拝」しているのだ
プロパガンダは、こうした不満や感情を利用し、プーチンに対する独自の支持基盤を構築することに積極的である
多くの露人の論理に従うなら「プーチンは露人たちと露の成功を応援している」のである
プーチンに批判的な独立系メディアは、選挙違反、警察の暴挙、少数民族の抑圧、プーチンの汚職など、困難で不快な話題に焦点を当てており、このような視聴者には敵対的に見えるのである
世論の二極化 その結果、露国家と独立系メディアに対する認識は二極化している
プーチンを支持する人のうち、3分の2以上が国営メディアを信頼すると答え、独立系メディアを信頼すると答えた人はほとんどいない
逆に、独立した情報源を好む少数派は、国営メディアを信用していない
Anton Shirikovは、露の世論の極端な二極化は、古典的な「エコーチェンバー」効果の結果だと考えている
(「エコーチェンバー」とは、メディア論における概念で、「閉じたシステム」内で受信者が自分自身のために意見を作り、自分自身の声を聞き、自分自身に同意している状況を表すものである
このような「閉じたシステム」には、反論や反証は入ってこない)
(注:ツイッターでブロック・ミュートを多用している人に生じやすい環境)

ウクライナについて「国営ニュース」を信じますか?
驚くべきデータは、ウクライナと戦争に関する最も攻撃的なメディア「ロシア24」の視聴者の調査結果だ
回答者の大多数 (70%) は、このメディアが正確な情報を提供していると主張する
「ロシア24はまったく嘘をつきませんし、検閲もありません。
ロシア24は重要なニュースを全て報道します。」 を選んでいる

露人は真実とフィクションを見分けられるのか?

Antonの調査によると、真実のニュースと偽のニュースを正しく区別できる露人は 50 ~ 60% にすぎない
最近の調査でこの割合が通常70% を超えた米国や英国などの民主主義国よりも悪いものです
興味深いことに、「親プーチン」の視聴者とリスナーはフェイク ニュースの影響を受けやすい
(フェイクを信じる可能性が 20 ~ 25% 高い)
「信仰(フェイク)を受け入れる」傾向は、4つの物語のチェックで調査され、次の2つは完全なフェイクでした
・制裁により、EUは5兆ユーロを失なった
・カリフォルニアでは「夫」と「妻」という言葉は同性婚を理由に禁止されている
他の2 つは真実です
二つのフェイク ニュースは露国営メディアから発信されたため、プーチン支持者 (62% と 73%) はその話が真実であると考えていました

プロパガンダの 「信頼失墜」の始まり

しかし、露人の意見を変えようとした他のプロパガンダ、例えば、定年退職年齢の引き上げや、コロナウイルスのワクチン接種についてなどでは、支配的な官僚に対して露人は根強い不信感を持っていたため、たいてい失敗しています
9月の「部分動員」発表の時もそうでした
露の人々は当局を信じず、ジョージアやカザフスタンとの国境に長い行列ができ、大量の露人が国外に逃亡しました
「このことは、一般的な説明が示唆するよりも、実際には露人たちにもっと自由意志があることを示しています
つまり、露人たちが 『絶対に』信じたくないものなら、それを信じさせることは非常に難しいのです」 とAntonは指摘する

良い知らせ:代替情報の需要の高まり

それでも、VPNを使い始める露人は増えている ウクライナへの侵攻が広まる前は、露でVPNを使う人はほとんどいませんでした
しかし、今では人口の約4分の1がVPNを使っています
「独立した声」にアクセスできるYouTubeやTelegramを好む若者がほとんどです 同時に、戦争が始まって以来、国営放送の視聴者数は、劇的にではないものの、若干減少しています

プロパガンダに抵抗するには、長い時間がかかる
「プロパガンダの有効性がすぐに失われるとは思わないほうがいい
プロパガンダに対する信頼や同意する意欲も、非常にゆっくりと『侵蝕』されるかもしれません
しかし、これは本当に非常にゆっくりとしたスピードで起こっています」
Antonは彼の研究が興味深いテーマであり「なぜ露でこのようなことが起こっているのかを理解する試み」であるというだけでなく、露内の独立系ジャーナリズムを破壊しようとするプーチン政権に対する個人的な抗議であることを認めている
「この研究が誰かの役に立つかどうかはわからないが、そう、私のモチベーションの一部になっている」という
「しかし、今のところ、来月や来年に露でそのようなこと(プロパガンダの信用失墜)が起こるということはありません
だからこそ、私たちは独立したジャーナリストを支援する必要があるのです
絶対に重要な仕事を彼らはしているのです
これまで、露国民の多くは独立したジャーナリズムに関心を持たなかったし、今も持っていません
プロパガンダは、露人に必要とされなくなったときに 『崩壊』します」
(終わり)

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