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プリゴジンとベグロフの因縁

12月20日 モスクワタイムズ:(2,657 文字)

プリゴジンとベグロフの確執から見えてくるロシアの縦割り構造

実業家エフゲニー・プリゴジンがサンクトペテルブルク州知事アレクサンドル・ベグロフに対して行っている悪質なキャンペーンは、ロシアの縦社会におけるこの種の公然たる対立(注:表の有力者と裏の有力者の露わな権力闘争)に慣れていないロシア社会を揺るがせている

恥部を晒すことは大罪であり、事を公にして重要な問題を解決しようとする試みは失敗する運命にある、というプーチン・システムの基本原則に反しているように思われるからだ

プリゴジンとべグロフの対立が公になったのはここ数カ月のことだが、その確執は2019年9月にベグロフが知事に選出された直後にまでさかのぼる
それまでに多人数のメディアネットワークだけでなく、悪名高いボットファームを作っていたプリゴジンは、選挙戦の間、べグロフを助けていた

ベグロフが実際にプリゴジンに依頼したのか、それともプリゴジンが自発的に手伝ったのか不明だが、プリゴジンは最近のインタビューで、ベグロフの選挙運動に資金を提供したが、その後、知事が約束通りに返済をしなかったとほのめかしている

選挙が終わると、すぐに友情は冷め切ってしまった
プリゴジンの言い分では、ベグロフがサンクトペテルブルクに何千億ルーブル(それほど費用が必要なのは、利益のためではなく、故郷への愛着からなのだという)もかけて建設しようとしているインフラプロジェクトを引き延ばし続けているというのだ

フィンランド湾に面したゴルスカヤ地区の再開発など、プリゴジンの開発計画を知事が邪魔しているのは事実だ
最近でも、プリゴジンが建設したビジネスセンターの開店許可証の発行が、市当局の判断で遅々として進まなかったという
このビジネスセンターは、プリゴジンが長年関与を否定し、つい最近まで出資者であると認めなかった民間軍事会社にちなみ、「PMCワグネルセンター」と名づけられた
結局、数日の間注目を集めてから、このビジネスセンターはオープンした

プリゴジンの政治的野心も挫折したことがあるようだ
2019年、知事選と同時に行われたサンクトペテルブルク市議選で、プリゴジンは同市の地区の一つヴァシリエフスキー島の自治体に自分のチームを当選させようとして失敗したと広く言われている

その2年後、サンクトペテルブルク議会選挙を前に、プリゴジンは、リビアの刑務所に服役して話題になったマクシム・シュガレイを党首とするロディナ(祖国)党に肩入れするようになった
しかし、シュガレイは選挙区で落選し、ロディナ党は署名集めに不正があったとして、選挙から締め出された

マクシム・シュガレイ:アフリカで活躍したロシアの特殊工作員としてプロモーションされているが、実質的にはただの戦争犯罪者であると思われる。ロシアに帰国後、アクション俳優、タレント、政治家として活動している。

https://www.washingtonpost.com/world/2022/01/10/russia-afghanistan-shugalei-prigozhin/

ベグロフは政治的重要人物とはいいがたく、プリゴジンを相手にするのは得策ではない
COVIDが大流行したとき、市内の飲食店やバーには外出禁止令が出されたが、スモリヌイ市が措置(結局、抗議活動のリーダーに対し贈収賄事件をでっちあげた)をとるまで丸2ヶ月間、多くのバーが公然と外出禁止令を破っていた
また、フルシチョフ時代のプレハブアパートを取り壊すという法律を出した時も、市民の反発を買い、知事はすぐに引き下がった

この数年、プリゴジンと関係のある地元メディアは、市当局のミスをことごとく取り上げてきた
さらに、プリゴジンは、市内で最も強力な市民運動である建築物保存運動を利用し、シュガレイを会長とする建築物保存会を立ち上げようとさえした
そのプリゴジンが、ベグロフを侮辱する発言から、国家反逆罪で検察庁に捜査するよう要求するまでになった

サンクトペテルブルク当局は、プリゴジンの挑発的な攻撃をほとんど無視し、「ある種の 『犯罪分子 』が、改革によって違法な収入を奪われることを不満に思っている」と言うにとどめている
また、ベグロフへの攻撃が、地方政府の評判を著しく落としているわけでもなさそうだ
サンクトペテルブルクでのベグロフの人気はどうせ落ちないし、クレムリン内部でも、プリゴジンがベグロフに対する人事の決定権を持っていない
決定権があるなら、とっくに交代しているはずだ

プリゴジンとベグロフの確執が面白いのは、権力の縦割り構造によって、かつてならあり得なかった衝突が、公然と起こっているという事だ
これは、時代の流れと言うべきものだろう
NATOを目前に控えたクレムリンに、そんな些細なことに構っている暇はないのだ
真の陰謀は、評判の悪い戦争中に、悪名轟く人物が、ロシア国内でも国際的メディアによっても最も危険な人物の一人として描かれているのか、そして、ロシアの権力者たちがなぜ、彼の故郷の日常的な些細な問題さえも解決できないのか、ということだ

おそらく、強力とされる人々は見かけほど強力ではなく、私たちが実際に見ているのは、クレムリンにコントロールされたプロセスの一部となってしまい、戦争によってプリゴジンがワーグナーの新人を探して刑務所を回ることを許可され、クレムリンにコントロールされた選挙によって易々とべグロフがペテルブルグの知事になったあと、ロシアのエリートたちがどれほど無力で、どのていど実権を持っているかという事実なのだろう
そのため、目立っているせいで、プリゴジンとベグロフには、実際には到底実行できるはずもない過大な期待(二人の間で対立問題を解決すること)がされているのだ

また、内輪の恥を晒すことが最大の罪であるとしてヒステリックになりながらも、冷静な現実主義者であり続け、社会をコントロールし続けることは不可能だと示しているようにも見える
ロシアのエリートたちに、国会や国連総会でわめき散らしながら、次の瞬間には冷静沈着に対応することを期待するのは酷な話なのだ

この点で、プリゴジンは、新しいロシアのエリートになったとは言わないまでも、少なくとも、新しいエリートとしてふるまっていると言える
彼には、(今は)自分が欲しいものを手に入れることよりも、公人になることが重要なのだ
今、人々が衝撃を受けるようなことも、やがて当たり前のことになるのだろう

(終わり)

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