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この戦争は、どう始まったか -ファントム(2)

(3,976 文字)

市民生活復帰の試み

年齢と経験を重ねたオレクシィは、紛争地の実情や情報を細かく分析するようになり、前線での戦いのレベルに失望するようになっていた
こうした背景から、2016年、軍事的な仕事を完全に辞めることを決意した

そして彼はビジネスを始めた
そこで彼は印刷の分野の起業家という新たな才能を見出した
その複雑な工程を理解するために、彼は工房に通い、エンボス加工、製本、印刷など、生産の細部まで学んだ
今では、触るだけで何十種類、何百種類もの紙を見分けられるようになっている

「高品質な印刷物を目指しました
例えば、広告用に山々を背景にした牛の画像が必要なときも我々はPhotoshopを使わず、牧場へ行き、3種類の牛を探し、顧客にその写真を送ってその中から1頭選んでもらいました
そしてその牛を購入し、撮影場所に連れて行きました
全て高級志向なやり方でやりました」

コロナウイルスの時期でも事業は順調に発展した
強い家庭、魅力的な妻、二人の子供、そして成功した経営者としての確かな地位
いつまでも続くように思えた
軍でのキャリアは過去のものだった
しかし、突如として本格的な戦争が勃発した
最初のミサイルの爆発が何百万人ものウクライナ人の生活を一変させ、オレクシィもそのうちの一人だった
しかし、多くの人と違い、オレクシィには準備ができていた

本格的な戦争

「いつも分析しています
私はアナリストです(笑)
グローバルなものではなく、国内アナリストですが、ロシアの情報はよく見ていました
そして、『平和を実現させる ≪Мы будем принуждать к миру≫』というフレーズを聞いたとき、『やっぱり』と思いました
実際、2008年にジョージアの一部が併合されたとき、このときも同じフレーズを使っていたのです」

「2月21日にすべてを理解していました
私は妻に言いました
『車に燃料を入れ、避難用バッグを用意して、子供たちに準備させなければいけない
戦争が起こるだろう』」

家族を連れてウクライナ西部へ行き、キーウに戻った
そしてオレクシィの最大の戦いが始まった

指揮官となるこの男は、ソロミアンスキー州の州政庁に行った
当時、この建物は過密状態だった
志願兵たちは武器を受け取り、ボランティアたちが必要な物資や食料を持ち寄っていた

ウクライナ国軍と領土防衛軍の司令部は地下駐車場に置かれた
採用受付、倉庫、通信センター、作戦を話し合う会議室など、すべて準備された

ウクライナ国軍:

ウクライナ領土防衛隊:

戦争が始まって数日の間、人々はほとんど寝る暇も無く働いた
素人目には、まるでカオスのような雰囲気だった
実際、組織再編があり、ウクライナ国軍の新たな部隊として領土防衛軍が再編成されている

注:ウクライナ国軍、領土防衛隊、領土防衛軍のそれぞれの組織、機能、再編成についての詳細は「ウクライナの教訓 -NATO」を参照ください。

元国家警備隊であり、印刷分野の専門家でもあるオレクシィは、キーウ領土防衛軍(キーウTRO)に参加した

キーウTRO第130大隊は、数時間のうちに、最も経験豊富な戦闘員を含む特殊作戦に参加可能なグループとして編成され、オレクシィもその一人となった

オレクシィは大隊の「特殊部隊」にいた全員のコールサインを記憶している
「先頭から『スコーピオン』、次に『メジャー』『フォックス』『ターク』『オスカー』『ファーマー』『ドク』『セミルカ』『マトビ』『ソルト』・・・」

「キーウTRO第130大隊に編成された第9突撃中隊の原則は、戦闘の巧拙や300メートル先の的に当てられるかではなく、信用できる人間であるということです
つまり、第一の基準は『人間性』です
これは一番大切なことなのです」

次のような、人間性についての物語があります
ブチャの占領中、「ファントム」は1000人以上の民間人を避難させることに成功しました
そのおかげで、彼ら全員が最悪な状況に陥っていることが分かりました
ロシア人が彼らの周りで大量殺人、レイプ、拷問を行っていたということです

「私自身、ブチャに5年間住んでいました
そこには友達もたくさんいました
どうにかして彼らを助けたいと思ったのです
どうにかして彼らを脱出させたかったんです
継続的に連絡を取り合うようにしました
ウクライナ治安局とともに、避難経路を検討しました
その間、ブチャ市議会の近くでは、人々が凍えながらどうしていいかわからずに立ち尽くしていました」

注:ブチャ市議会

注:戦争になる前のロマニフスキー橋

「3月9日、ロマニフスキー橋を歩いて渡る人たちの荷物や、犬や猫などのペットの運搬をお手伝いしました
一人で動けない障がい者の方もたくさんいらっしゃいました
そういう人たちは車いすに乗せて運びました」

「足元の水の流れは速く、滑りやすくて危険だったことを覚えています
担架でおばあちゃんを運ぶときは、バランスを崩して倒れるのが本当に怖かった
だって、私は泳いでどうにでもなりますが、おばあちゃんはどうなるでしょう」

注:2022年8月、ロマノフスキー橋はトルコの支援により再建されると報道されている。

同時に、オレクシィは地元の人にブチャの状況を聞き、次に車で多くの人を避難させる本格的な作戦を計画していた

「ブチャからビロホロッカに通り抜けられるルートがあることがわかりました
それで、再び友人に連絡し、ルートを伝えました
白いシートで全車両を包むように言いました
窓に白い布を掲げ、『子供たち』『民間人』という表示がどこからでも見えるようにして、
隊列を組んで出発するように言いました」

「しばらくすると、人々は互いに声を掛け合い、隊列に加わる人が増えました
最初は15〜20台くらいだろうと予想していたのですが、実際はもっと多かったですね
始めは50台、それが150台になり、そして最後には全部で300台になりました」

1台の車に、少なくとも5人は乗っていた
車内では、乗客が座席の間に膝をついて、乗れるだけ乗っている車もあった
小さな子どもたちも静かにしていて、お年寄りや体の弱っている人も目を見開いてウクライナ兵を探していた
ベテランドライバーの緊張も明らかだった

「私は車でこの避難民の車列を迎えに行きました
途中、チェックポイントに着くたびに無線担当者に私のコールサインを覚えてもらうように頼みました
結局、すべての無線が同じ周波数にチューニングされました
要するに、最前線まで来てしまったのです

最後のチェックポイントを通過したとき、思いました
『このままでは会敵してしまうかもしれない』と
人々を目にしたとき、とても嬉しかったのを覚えています
風になびくシートが印象的な車列でした
その時は鳥肌が立ちました...とても感動的で
私たちが成功したと分かった時は本当によかったです
すぐに全チェックポイントに経路の守りを固めるよう指示しました
そして、道からあふれるような車列がキーウに向かいました」

この話はきっとあなたに感動を与えるだろう
想像で作られた才能のある劇的なドラマはいくつもありますが、心理的緊張感という点で、この物語は特別な注目に値します
もちろん、それを直接主導した人と同様に、です

「ファントム」というコールサインが、ブチャからキーウまでのすべての戦闘拠点で初めて知られたのはこの時だった
この指揮官には迷いも、恨みも不信感もなかった
それどころか、正しいことをしている、献身的で信念に基づく行動をとっているという確信を持っていた
侵略者から国民と国家を守るために自ら戦地に赴いた男の、ゆるぎない信念に基づく意味のある行為だった

「戦争では、何人の差別主義者を殺したかではなく、何人の人を救ったかが重要だと信じています
本物の指揮官は、まず民間人や兵士の命を預かっているのであり、次に任務をこなさなければならないのです」

「同じ命令を実行する方法がいくつかあるなら、いつも、人の命を可能な限り救える方法を選んでいます
そして、当時のブチャから300台の車が集まり、少なくとも1台に5人は乗っていました
この人たちは犯されたり、殺されたり、傷つけられたりせず、助け出されたのです
素晴らしかった!」

避難後、人々は涙を流しながら救出に感謝した
そして、しばらくすると、ファントムのもとに感謝の手紙が届くようになり、それは大隊の隊員たちに渡された
この英雄的行為に対し、オレクシィ・ファンデツキーは国家勲章(ボーダン・フメルヌィツキー勲章第3級)を授与された

激闘の日々

キーウTRO第130大隊は、戦争開始当初から常に最前線に立っていた
士気が高く、訓練を受け、装備の整ったファイターたちは前に出る必要性を感じていたのだ

そして、キーウ地方がロシアの侵略から最終的に解放された後、この大隊は四月上旬のうちにハルキウに移動することになる
ここで、オレクシィの物語の新章が始まる

夏の間、激しい戦いが続いた
北サルティフカで戦い、チュルクナからの市民の避難を助け、そしてロシア軍を国境近くまで押し返すという戦闘命令が下された
村々は占領され、いくつもの村が激しい砲火に晒されていた

チュルクナ

占領軍はコザチャ・ロパナに本部を置き、しっかりした塹壕と壕を作り、絶えず近隣の村、コチュビエフカとデメンティエフカを襲撃していた
デメンティエフカは、第130大隊が他の部隊と共に解放した
占領軍への反攻の際には、勇敢な戦いが繰り広げられた
そして、ウクライナ軍司令部は、ハルキウ郊外の防衛線を維持するように命令を下した
デメンティエフカにおいて最も劇的で激しい戦いが繰り広げられたとファントムは語る

(つづく)

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