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8月、露軍が直面していた困難

8月4日露政府系シンクタンクサイト:(5,868 文字)
露国防省軍事諮問機関委員Ruslan Pukhovへのインタビュー


戦略技術分析センターのルスラン・プホフ所長に、ウクライナ戦線で露軍が直面している現在の困難、ウクライナ軍への欧米の装備品供給の結果、欧米の軍事企業は兵器を増産できるかなど聞いた

- 欧米の軍装備がウクライナ軍の手元に届き始めています
ソ連製の装備を中心に武装した露軍は、それらにどの程度対抗できるでしょうか
現在、露軍はどのような技術的問題を抱えているのでしょうか?
- 新兵器群については、残念ながら露軍には第5世代戦闘機はほとんどありません
最新型のSu-34爆撃機は、第4世代プラスアルファの航空機です
また、高精度な武器や最新の照準器も十分ではありません
このため、この種の爆撃機の効果はさらに低下し、敵のMANPADS(地対空ミサイル)が届く高度で無誘導爆弾を使用するか、地上部隊の支援行動をしないか、のどちらかになります
地上では、露軍は現在、主に改良された第3世代戦車を使用しています
次期戦闘車「アルマータ」シリーズの登場は、まだ未来の話です
最新戦車T-90は、旧式のT-72を改造したものです
簡単に言えば、T-90はソ連の戦車をチューニングしたものです
したがって、最新のジャベリン、NLAW、マタドールなどの対戦車システムにうまく対抗することを要求するのは、かなり酷です
ソ連が最初にADC(Active Defense Complex:電子制御の車両保護システム( https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%90%D0%BA%D1%82%D0%B8%D0%B2%D0%BD%D0%B0%D1%8F_%D0%B7%D0%B0%D1%89%D0%B8%D1%82%D0%B0… )を発明したというのは皮肉な状況です
露軍にはどの戦車にもADCはついていません
本当に残念です
ウクライナでの戦闘作戦の経験から、ADCのない戦車は今や戦場でまったく生き残れないことがわかったからです
イスラエルは戦車にADCを装備し、米軍も戦車への搭載を開始しています
露軍はそうではないのです
露軍とウラルバゴンザボド(露戦車メーカー: https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%A3%D1%80%D0%B0%D0%BB%D0%B2%D0%B0%D0%B3%D0%BE%D0%BD%D0%B7%D0%B0%D0%B2%D0%BE%D0%B4… )の大きな問題です
- ADC?
- そう、剣闘士の戦闘のようなものです
一人は短剣と盾で戦い、もう一人は三叉の矛と網で戦う
つまり、武装が違うんです
だから、こんなことになってます
ウクライナ軍は大部分が歩兵と砲兵の軍隊であり、露軍は装甲車で行動するのです
露軍の戦車は最新の本当に効果的なプロテクションを備えていません
- 歩兵はどうですか?
- 歩兵が非常に不足しています
前線が大きく、特殊作戦に携わる人数が少ない
ウクライナ側は守りに入っていて、大砲も戦闘機もたくさん持っています
一方、我々は兵士が足りず、脆弱な戦車とBMP(装甲車両)で戦線を突破しなければならないのです
今、ドンバスでは大量の大砲で解決しようとしていますが、ご覧の通り、とても遅いのです

もう一つ、特別軍事作戦で、現時点では、ありていに言って、空挺部隊が使い物にならないことが分かりました
彼らのアルミ製のBMD(空挺部隊用水陸両用車両:https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%91%D0%9C%D0%94-1… )は被弾しやすく、外装火器も機動小銃部隊より少なかったからです
さらに忘れてはならないのは、ウクライナは8年前から積極的に軍隊を訓練していたということです
彼らは実際に歩兵全員にドンバスの経験があり、大砲を積極的に使用していました
私たちは主にシリアや演習などごく限られた形で大砲を使っていたが、彼らは実戦で使ってきたのです
ウクライナの砲兵の方がより経験豊富でした
さらに、古いソ連製の銃や市販ドローンと組み合わせて使う方法も習得しています
その結果、今で言うところの「状況認識」が向上し、ターゲティングがうまくできています
一言で言えば、砲撃戦になった場合、彼らの方が我々に勝つ可能性が高いのです

一般に、小型ドローンの使用は大砲の使用に革命をもたらしました
私たちはこの革命に乗り遅れたので、「その場しのぎ」をしなければなりません
特別軍事作戦で、何百、何千という安価な無誘導ミサイルを打ち上げましたが、そのすべてのパワーが、ターゲットを正確に打つ、たった二発の精密誘導ミサイルに劣るという現実を何度も目にしました
二発の精密誘導ミサイルは高価だが、何千発もの無誘導ミサイルより多くの問題を解決できるのです
特に地中深く隠れ、コンクリート壕に避難されると、古い通常弾は敵にあまりダメージを与えられません
これは、精密兵器の勝利をさらに証明するものです

- アヴディフカやマリンカの襲撃は、要塞化された地域を1カ月も砲撃しながら、突破口を見いだせなかった例ですね

- そうです
実際、第一次世界大戦の方法は(大げさに言えば)、特に歩兵では、敵より優位に立っていない場合はうまくいきません
ドローンなどの最新偵察アセットと、より高精度な兵器を組み合わせれば、敵の前線配置の問題を解決できるかもしれません
しかし、そこが露軍には欠けています
そのうえ、さらに別の方向から効果的に攻撃するには、単純に兵力が足りないのです

- 欧米諸国は現在、ウクライナに武器、特に大砲とMLRSを供給しています
なぜ射程距離が重要なのでしょうか?

- 現在、露とウクライナの双方が使用しているソ連の兵器は、榴弾砲であれ多連装ロケットシステムであれ、一部の例外を除き、20~25km先の目標には当たらないというのが実情です
しかも、露軍は13kmまでしか撃てない122mm榴弾砲を大量に持っています
西側の近代的な大砲の場合は射程距離は長いのです
特に39口径と52口径の155ミリ榴弾砲は40〜41キロの射程距離があります
ソ連やロシアが砲撃の射程距離で遅れをとっているという問題は、残念ながら80年代から分かっていました
確かに今はウクライナ軍に供給される欧米の機材は、古い装備が減っていくほどに、供給量は増えていきます
そのせいで、砲撃戦では、ウクライナのシステムに我々の砲台は破壊され、我々の応射は目標に届かないのです
GPS誘導で射程85kmの高精度GMLRSミサイルを発射するHIMARSとMLRSミサイル・システムがウクライナ軍に供給されると、この問題はさらに深刻になります

- 航空関係はどうでしょうか

- まず、すでに言われているように、露軍には高精度な弾薬や正確な探知・照準装置が十分に整備されていません
そして、ウクライナには、ソ連の防空システム(S-300、Bukなど)がいまだに制圧できずに残っています
さらに、ウクライナ側は大量の携帯型防空システムを受け取っています
そのため、露軍航空機は高高度や中高度、低高度いずれでも効果的な運用はできず、ウクライナの大砲の制圧や爆撃などの効果は大きく制限されます
はっきり言って、露軍に航空優勢はありません
西側の最新型中距離防空システムのウクライナへの納入開始は、この問題をさらに悪化させる可能性があります

- 欧米の武器供給はなぜ遅れているのでしょうか?
トレーニングの難しさなのか、それとも意図的に出荷量を減らしているのでしょうか?

- 一般的な政治レベルで、まだ、ウクライナに真に大量の重火器を供給する政治的な決意がないと言われています
ウクライナのために自国軍を部分的に休止させ、少なくともこれらの武器を使いこなし、教官になれる兵士を実際に大量に送り込む必要があるからです
このようなレベルの関与とエスカレーションは、ポーランド人のような一部の根っからの露嫌いを除けば、西側諸国はまだ進んで行おうとはしていません

そのため、ウクライナへの兵器供給は、現在、それほど負担なく受け入れられる技術的・組織的な側面にほぼ限定されています
しかし、機器の修理やメンテナンス作業の習得と訓練が必要です
兵士が訓練を受けていても、経験豊富な欧米の戦闘員と同じように発砲できるわけではありません
経験が必要なのです
ウクライナ人は学習能力が非常に高く、かなり優秀な戦士であることが証明されています
訓練には数週間かかるので、実際、武器の供給は量も品質も良くなっています
夏の終わりには、前線の状況が劇的に変化する可能性があると思います
露軍は総動員もなく、実際は平時の軍隊で戦っているのです

しかも、ウクライナではすでに第4波の出動がありました(注:4~5月の動員https://stopcor.org/section-suspilstvo/news-chetverta-hvilya-mobilizatsii-2022-kogo-prizivatimut-i-koli-startue-27-04-2022.html…
なので、ウクライナは人手不足にはなっていません
たしかにウクライナ軍のエリート部隊はほとんどノックアウトしたが、ドンバスで戦った経験のある第一予備軍、 第二、第三の軍団がいます

つまり、1951年以降の朝鮮戦争のように、ある時点で膠着状態に陥り、核兵器で攻撃するつもりはないので、我が軍はただ立ち尽くしてそれ以上進めなくなる可能性があります

-しかし、欧米の武器供給量は予備軍を形成できるほど多くないという主張があります
ウクライナ軍は戦場に放り込まれても、すぐにノックアウトされるでしょう
だから、ウクライナ側は反撃のための攻撃部隊を作ることが難しいはずです

- 反論するつもりはありませんが、 その主張は、テレビのトークショーで自己満足のために発せられるように思います
確かに、前線から遠く離れたリヴィウのどこかで骨董品のマキシムやデグチャレフ機関銃で武装しているウクライナのナチス民兵の写真を見ることはできます
でも、最前線で戦っているウクライナ部隊は、かなり装備が充実しています
ウクライナは予備隊を持っており、何かあれば反撃することができるのです
ウクライナの予備隊はナチス民兵よりかは武装はしっかりしていると思います
実際、敵を過小評価したことで、私たちは残酷な罠に嵌まったのです
これまでのところ、ウクライナ軍は一つや二つの村を奪還するための戦術レベル以上の効果的な攻勢をかける能力は見せていません
要するに、彼らの攻勢は露側と同じような戦術的な問題、つまりたいていの攻撃部隊の数が少なく、砲撃を受けると耐えられず、装甲車が大量に被弾して、すぐに撤退し、せっかく取った陣地も維持できないという問題を抱えています

- 重要なのは砲の数ではなく、弾薬供給であるという主張があります
弾薬供給は定期的に行われているのですか? 不足はありませんか?

- (ウクライナ側の状況について)この問いに答えるのは難しいです
ドネツクへの砲撃が続いていることで、燃料について不足していないことを見ても、ウクライナ軍が弾薬供給に深刻な問題を抱えている印象はありません
彼らも生きていて、死んでいく人間でもあるのですが、特にウクライナ人が欧米の供給する砲弾と欧米のシステムに切り替え始めていることを考えると、深刻な砲弾不足に陥っているとは思えません
私の勘違いかもしれませんが…
ウクライナと違って、私たちは白い手袋をして紳士的に特殊作戦を始めたのです
現地の人に危害が及ばないようにしたかったのです
騎士の決闘のような形で敵対関係を開始しました
しかし、失礼ながら、これはルールのない路地裏でのダーティファイトでした

- 欧米の軍産複合体は今、どのような状態でしょうか
米国・欧州では、古い軍備を捨て、備蓄を整理するチャンスになった
軍備刷新しているようなものです
欧米の軍需企業は生産再開に長い時間がかかるらしいという噂もある
また、ウクライナは西側諸国の兵器の実験場であり、次の衝突に備えることができると言う人もいます

- そう、欧米の軍隊は古い装備を処分して、新しい装備を発注しています
もちろん、これは国家にとって有益なことです
仕事量が増え、新しい雇用が生まれ、新しい税金が発生する、などなど
どんな戦争も試練の場です
私たちにとってはシリア、欧米にとってはウクライナでした
何も恥じることはありません
これを利用しないのは愚かなことです
ほとんどの軍需産業の宿命的な悲しみだと思います
世界中の人たちは、足りないものを要求するのが下手です
冷戦時代の彼らを思い返してみてください
軍需産業はすべて、迅速に立ち上げることができます
例えば、独軍がチップを不足させたら、米軍に頼みます
米国人なら、独人に頼むでしょう
例えば、エイブラムス戦車には独の大砲が搭載されていることをご存知でしょうか?
彼らはライセンスを購入し、非常にうまくやっています
私たちが米国的だと思うものは、実は汎西洋的であり、共同で作られたものであることがよくあります
一時期、米国はイスラエルからドローンのライセンスを買っていたこともありました
数量でいえば、欧米軍の短所を過大評価してはいけません
NATO圏全体の軍隊で使用されている軍備と装備の総数は非常に多く、我が国の数倍であり、しかもほとんどが新品です

- 一般的に、異なる業者間の調整は行われているのでしょうか?

- 国家レベルではなく、民間企業レベルで起こることが非常に多いです
例えば、我々がミストラル型水陸両用強襲揚陸艦を仏から買おうとしたとき、彼らは海外生産しなければならなかったのです
なぜなら、これらの船の製造には、米国の部品や、米国のライセンスで作られた多数の必要不可欠な仏の部品が使われているからです
米国が、露の注文する部品供給を拒否したので、その後、船を改良しなければなりませんでした
欧米の軍需企業は、韓国の部品が安いから好きなんです
多くのプロダクト・チェーンを持つことは、潜在的にトラブルを生む可能性があります
しかし、これらの問題が、ウクライナのハードウェアに対するニーズを満たすための障害になると考えるべきではありません
個々のユニットの供給に支障をきたす可能性がありますが、それはレアケースです
(終わり)

サポートしようと思って下さった方、お気持ち本当にありがとうございます😣! お時間の許す限り、多くの記事を読んでいただければ幸いです😣