サウジアラビアでガバガバに資金投入されてる大学(街)に行った話をする

この記事を続きだぞ

サウジアラビアと聞くとどんなイメージだろうか?金持ち?たぶん、それは正しい。とは言え、いわゆる先進国出身で先進国在住のぼくは、いまだにサウジアラビアの金持ち感をそれほど感じていなかった。

しかし、大学を訪ねてみてその感想は根底からひっくり返る。その大学とは通称KAUSTという。この名前を聞いたことある人は、間違いなく研究者だ。しかも、優秀な研究者だ。自慢に思っていいぞ。

KAUSTはKing Abdullah University of Science and Technologyの略だ。要するに「王様が作った工科大学」 [1]ということになる。そもそもぼくがここに行った理由は、ぼくの友人がここで博士課程をやってるからだ [2]。

で、この記事はこれ以降「この大学がいかにすごいのか」ということに終止する。少しでもこの大学に興味を持った人を読んでみることをオススメする。金銭的なサポートもガバガバ潤沢だぞ。日本で学位とるのがアホらしくなるくらい。

ここがすごいぞKAUST

世界ランキング

まずは誰がみてもわかりやすい指標からはじめよう。QS TOP Universities 世界ランキング指標というのがある [3]。これによると、2023年現在は83位だ。

比較のために日本の大学を挙げてみると、東大が23位、京大が36位、東北大が79位だ。我が地元・愛知県で絶対権力最高学府の名古屋大学は112位だ[4]。KAUSTに負けとるやんけ、我が地元の絶対権力最高学府。。。

しかし考えてみて欲しい。KAUSTの設立は2009年だ。対してこれら日本の大学はどれほどの歴史を持っているだろうか?そして2009年設立の若い大学はどうやってランキングブーストしたのか?

答えは1つしかない。お金ジャブジャブ投資だ。つまり金だ。では何に投資するのか?大学の構造にある程度は知識が有るぼくが解説しよう。

まず、大学の知名度を挙げるのは論文である。つまり、目標はいい論文誌にたくさん論文を掲載だ。

では、質の良い論文をたくさく書くためにはどうすればいいのか?論文は基本的に学生や研究員がメインで書く。そして、学生や研究員の論文指導をする教授が必要だ。学生・研究員は基本的によい論文を書きたい=よい教授の下につきたい。と考えていい。あとは金銭サポートがあればより良しといったところ。つまり、簡潔に言うと良い教授を集めることが大学知名度を挙げる鍵となる。

では、良い教授は何を求めるのだろう??それは人によって重みはことなる。しかし、確実に言えるのは、この3つ: 給与、研究費、家族生活のサポート。特に3つ目の家族生活のサポートは外国人教授にとってはかなり重要なポイントになり得る。教授職の年齢ってすでに子どもがいることも珍しくない。

KAUSTにはそのすべてが揃っている。

  • 給与 -> すげーいい。

  • 研究費 -> すげーいい。

  • 家族生活サポート -> めっちゃいい環境。

  • 学生むけ金銭サポート -> めっちゃいい。

どれくらいもらえるんですか?金?

ここに答えがある。教授職は情報がなかったので、わからない。でも、すげ一流の教授があえて行きたくなるくらいの値段だと推測できる。

修士学生と博士学生向けの奨学金情報なら公開されていた。年間20,000 USD - 30,000 USD、つまり1ヶ月1,600USDから2,500USDの給与をもらえる。友人によると、ヨーロッパ人は50%増しで給与をもらってる。なぜならKAUSTはヨーロッパ人の学生が欲しいからだ。

そして奨学金のカバー率はほぼ100%と聞いている。ていうか、特別な理由が無い限りKAUSTの奨学金から出る。あ、奨学金ってわかりやすい言葉を使ったけど、要するに給与だ。したがって、返済しなくていいぞ。

そして授業料は無料だ。もう一度、言おう。授業料は無料だ。ちな、後述するが、100%入居率のアパートも無料だ。そして給与をもらえる。

一方、日本では・・・・修士は授業料が必要だ。アパートは原則として自費で払う。奨学金はオプションだが、多くの学生は返済型の奨学金を使う。ぼくだって、いまだにちまちま奨学金を返済しているぞ。

日本で修士を取る必要があるんだろうか?マジで疑問である。 [5] 現時点でぼくが修士で勉強を考えてる学生だとしよう。100%、ぼくはKAUSTに行く

すげー教授って誰よ?

「すごい」とか「一流」だけではなかなか伝わらないものだ。せっかくなので、一人の教授を紹介したい。

Havard Rue教授は2023年時点で5,000超えのcitationの論文を書いたことがある教授だ。すべての論文で総引用数は1万を超える。このcitationは、ぼくがいままで従事したどの教授よりもいcitation数だぞ。let's教授バトォォォル!!! ぼくが従事してきた教授はけっして弱い対決力ではないぞ。国際学会のfellowとして世界的に名が知れた教授もいるぞ。citationだけで比較すると、そんな教授よりもcitation数は多い。[6]

ぼくの研究分野は統計学、特にベイズ統計と機械学習のフィールドだ。Rue教授は、ベイズ機械学習で画期的なアイディアの研究をした。[6] その功績が大きく、いまではベイズ機械学習の分野で第一人者の教授だ。KAUSTにはそういう教授がたくさんいるということだ。

ちな、ぼくはRue教授に会った。そして、駆け出し研究者未満のぼくの研究を聞いてくれて、アドバイスまでくれた。とても感動である。この気分をわかりやすく例えると、メッシがサッカー少年と一緒にプレイして、技術アドバイスしたようなものだ。

ここがすごいぞKAUST: 生活環境

先にも書いたが、アパートは無料だ。修士学生から教授までみーんなアパート無料だ。アパートの大きさは人によって異なる。ぼくが見聞きした限りだと3タイプが存在するようだ: 学生・研究員むけ(シェア)、家族連れ学生むけ、教授向け。

まず、学生むけのシェアアパートだ。写真の赤枠の2階建て部分が1室で、2人でシェアする。共用部分がおおむね40m^2で、1人の部屋が18m^2程度。1人の部屋にはシャワーとトイレがついているぞ。シャワーとトイレは共用ではないのだ。共用部分は、ソファとキッチンと洗濯機くらいだろうか。そして生活に必要な家具はぜーんぶ揃っているぞ。

学生むけのシェアアパート

そして教授むけアパートはヤバイ(語彙力がない)。中を見てないので、詳細は不明だが、アメリカ映画のセレブの1軒屋みたいな外見だったぞ。1軒に4部屋あるそうだ(噂)。

教授向け一軒家。このあたりは「金持ちストリート」と学生から揶揄されている。

ここがすごいぞKAUST:国際環境

KAUSTはめっちゃくちゃ国際環境だ。ぼくが滞在中に会った人たちの話と自分で見聞きしたことをまとめると、だいたいこんな統計になりそう。

  • サウジ人: 3割

  • 非サウジ、かつ、イスラム国出身者: 3割

  • 中国: 3割

  • その他: 1割

すごい国際環境だろう?🇸🇦🇨🇳 KAUST広報によると、120以上の国籍がKAUSTに在籍しているらしいぞ。

ちな、サウジ人が3割いること自体は珍しくもないとのことだぞ。サウジアラビアでは一般的に外国企業はサウジ人を3割は雇用しなければいけないらしい、と聞いた。

ここがすごいぞKAUST:充実した生活サポート

生活環境はすべて整っている。KAUSTの壁から外に出なくても生きていける。ぼくが見聞きした限りだと、KAUST街の中には。。

スーパーマーケットが3軒。
薬局が2軒。
スタバが2軒。
飲食店(ケンタッキーとか含む)が10軒以上。
学食(安めのレストラン)が1軒。
映画館が1軒。
スポーツセンターが3軒。
マリンスポーツ施設が1軒。

少なくともこれくらいはあった。不足だと思うだろうか?ぼくはそう思わない。ここに来る人のメインは研究の仕事なのだ。そう考えれば、生活に必要なものはぜーんぶそろっている。

いちばんデカイスーパーマーケット。プールで泳ぎたかったので、ゴーグルをここで買った。
学食で食べられる湾岸諸国の料理。ぼくはすごい満足だぞ^^;

ちな、移動はものすごく楽だ。街には巡回バスが走っており、さらに、関係者は無料タクシーをいつでも呼べる。ぼくが会った学生たちは無料タクシーを使い倒していた。ぼくの感覚からすると、「いやいや、それくらい歩けよ・・・」と思う距離だったのだが。

ここがすごいぞKAUST:最高レベルの警備

こんなにお金ジャブジャブ投資された環境なのだ。警備をしないと窃盗やら暴動のターゲットになりかねない。なんせ、金をもった外国人がたくさんいるのだ。

そんな理由だと(思うが、たぶん)、KAUSTの警備はものすごいことになっている。まず警備担当はサウジ陸軍だ。陸軍駐屯地がKAUSTのすぐ隣にある。

もちろん、KAUST街への入場はすべて陸軍がゲートチェックしてる。KAUSTには関係者と招待者しか入れない。QRコードで陸軍が入場チェックしている。そもそも、KAUSTはすべて壁で覆われている。壁の高さはおおむね2m-3m程度。

この警備体制の様子がわかる写真がある。下は警備ゲートだ。青い矢印がチェックゲート。赤い⭕は軽機関銃機銃だ。なんか偽装してるけど。ぼくは入場ゲートに軽機関銃機銃がある大学を見たのは初めてだ。

ここがすごいぞKAUST: おしゃれなキャンパス(街)設備

ここからはざったな「ばえる」写真を貼っていくぞ。

まずはKAUSTの象徴。通称「ビーコン」と呼ばれている。ビーコンは灯台の役割も果たしているとのこと。KAUSTには海洋研究部門も存在している。[8] そんで、KAUSTの研究船もいくつか保有してるので、そのために灯台が必要なのだそうだ。

ビーコンを夜にながめる。

夜の海辺の風景は非常に美しい。とっても映えるぞ。たとえば下の写真をみると、「これ、ディズニーシーじゃね??」と思ってしまうくらいだ。

夜に眺めるアパートと大学校舎。

続いて校舎の写真だ。校舎の建築はとても美しい。日差しを調整しつつ、快適なくらいに日差しが入ってくる設計になっている。この写真は外なので、すこし暑くて湿っているが、風も吹いて、それほど不快感はない。

キャンパス中央部から海を眺める。景色的にはずーーーっと眺めていたいが、ここは蒸し暑くて長くは滞在できない。

スポーツ施設、キャンパス内に3つある、のうちの一つ。壁を登るアクティビティも用意されている。プロのコーチがこのコーナー駐在してる。ぼくが日本出身だと知ると「Ohhhh こんにちゃわ!!!My friend」と声をかけてくれた。楽しそうなやつはだいたい友だち。ちな、ぼくは4コースあるうちの1つしかクリアできなかった。10歳くらいの女の子がぼくができなかったコースを軽々とクリアしていくのを見て、老いを感じたものである。

サウジ人の必須アイテム・スターバックスも当然ながら存在しているぞ。


おわりに

どうだろうか?KAUSTすげーーー!っていうのが正直な感想である。ぼくはせっかくなので次のポジションをKAUSTで探しはじめた。地道に教授達にコンタクトとっていこうと思う。あ、ちな、ぼくを研究職で雇用してくれそうなとこ、探してます。そもそもお前誰やねん・・・って感じだろうが。連絡くれたら経歴添えてお返事しますね


[1] 日本って工科大学を下に見がちって聞いたことあるけど、本当だろうか?たとえば東工大を「大したことない」って言っちゃう商社マンの話を聞いたことがあるぞ。西ヨーロッパ諸国ではその考えを持ってると恥かくぞ。少なくともエリート層だ。
[2] アルジェリア・フランス人。国籍はフランス。「サウジアラビアでは、フランス人だって誰も信じてくれない」って言ってた。確かに顔立ちはマグレブ人の顔立ちだもの。ぼくも滞在中にサウジアラビア人や中国人が彼に「フランス人だなんて、そんな冗談な」って言ってるのを目撃した。きっと、彼らの頭の中には長身で白いフランス人のイメージがあるんだろう。
[3] ランキングスコアの基準は・・・・知らん。計算機工学研究者のあるまじき浅はかさだとは自分でも思ってるぞ。でも、ほら、権威ってあるじゃん。ぼくはそういう世俗的な感じで良いのですよ。
[4] これは割とマジでホント。特に名古屋人は名古屋大学が一番すごいと本当に思ってるフシがある。「阪大とか京大とかよりは名大の方がすごいがや。東大で同じくらい」。
[5] フランスとドイツも大学は無料である。この点でもあえて日本で勉強する意味をそれほど感じない。それでもヨーロッパではアパートと生活費は自費。
[6] ちな、駆け出し研究者未満のぼくは現時点で54 citationだ。
[7] 専門的なことをいうと、隠れ変数ベイズ推定をやった。でも計算量がたいへんなので、ラプラス近似をすればいいんじゃね?っていう論文を書いた
[8] サウジ王子が海洋研究をやりたかったらしい。そんで、大学に「研究しな」って指示を出したらしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?