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夏の読書感想


『名探偵のままでいて』小西マサテル

2023年第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
本の帯に、“岡村隆史絶賛“とあったので、ナイナイの岡村さんって、ミステリー好きなの?とまず思った。
奥付けを見たら、著者は“ナイナイのオールナイトニッポン“などに放送作家として関わっていたので納得。
最近、今まであまり手を出していなかった、ミステリーというジャンルに興味が出てきたので、受賞作から選んでみた。
主人公の小学校教師・楓が巻き込まれる、日常の中にあるミステリー。
その謎を解き明かす、元・小学校校長の祖父。
楓の祖父は、レビー小体型認知症を患っていた。
わたしは、この病気を言葉としてしか知らず、どのような症状が特徴か知らなかった。
レビー小体型認知症は、「幻視」が現れる。
祖父は、楓から聞いた情報を元に、「幻視」と想像の力を使い、安楽椅子探偵として謎を解明する。
楓の母の謎もラストで回収される。
楓を巡る三角関係も気になるところで、続編では関係に変化があるのかな?
とても優しい柔らかな雰囲気で進む物語で、こういう種類のミステリーもあるのだと思った。

『傲慢と善良』辻村深月

映画化されて話題なので読んでみた。
辻村深月さんは、本当に、なんでこんなに、モヤっとする気持ちを適切に言語化できるのだろう。
わたしが、20代中頃にこの本を読んでいたら、今よりもっと共感度が高かった。
マッチングアプリで出会った、真美(まみ)と架(かける)。
結婚式が迫っているにも関わらず、真美は突然と姿を消す。
架は、今まで知らなかった真美の過去を調べて行くというストーリー。
年頃になって、相手がいない焦燥感、周りからの痛いほどのプレッシャー、同情されているんじゃないかという被害妄想、「普通」に恋が出来ないという劣等感。わたしの価値はどれくらい?わたしは何点?
この感情、わたし、全部知ってる、全部感じてきたことだと揺さぶられる。
特に、真美が一世一代の決心で起こした「ある行動」。
その時の切実なギリギリの気持ち「わたしは弱い」「わたしを守れ」という気持ちは、ものすごく痛々しく、みっともないのだけれど、追い詰めらる気持ちが手に取るようにわかった。
ただ、時を経て、親の狭い価値観も理解できるようになってくる。
親は、いくつになっても子どもを心配するものだから。
ラスト、真美が精神的成長を遂げるのが清々しい。
真美が架に、「美奈子さんがきらい」とはっきり言う姿は、かっこいいと思った。

『つみびと』山田詠美

けんごさんのオススメにあったので読んでみた。
わたしは、高校で学校司書の仕事をしている。
図書館をよく訪れる生徒が、けんごさんの動画を見ていると言うので、わたしもチェックし、参考にするようになった。
かなり久しぶりの山田詠美。
高校生の時、『放課後の音符(キーノート)』で初めて知って、『熱血ポンちゃん』のエッセイも含め、当時よく読んでいた。
『つみびと』は2010年に起こった、大阪二児置き去り死事件をベースに書かれた小説。
事件を起こした主人公、蓮音もまた、虐待された過去があった。
物語は、蓮音の母・琴音、蓮音、蓮音の子ども・桃太の視点で進む。
締め切った部屋で、夏の暑さと飢えと乾きに苦しめられながら、帰らない母を待っていた、小さくて弱い無力な子どもたち。
その時、風俗店で働く蓮音は男と遊んでいた。
絶望の中、苦しんで死んでいった子どもたちのことを考えると、「鬼母」としか形容できない。
この小説は、「鬼母」と、ただ断罪するのではなく、この事件を起こすまでに至った経緯、心情を丁寧に掬い取っている。
この本を読みながら、長男を出産したばかりの時、行き詰まった気持ちを思い出した。
赤ちゃんは、何をやっても泣き止まず、実家も遠方で頼ることもできず、引っ越したばかりで知り合いもいない。
夫は深夜に仕事から帰ってくるワンオペ状態で、どうしようもなくしんどくなった。
わたしは、家に鍵を掛け、赤ちゃんを置いて、車で近くのコンビニに行き、エクレアを買って食べ、急いで家に戻ったことを思い出した。
その間、15分位だったと思う。
自分の気持ちをクールダウンさせるために必要な行動だった。
「お母さんだから」という気持ちに囚われていたわたしは、その時の自分の行動に罪悪感を持った。
一方で、「母」であるという役割が重くのしかかり、わたし個人としての時間が取れないことのイライラ感は常にあったと思う。
実家が近所の人は、赤ちゃんを預けて遊びに行っている。ずるいと思った。
子育ては楽しかったけど、本当は楽しいだけじゃない。
楽しいと天真爛漫に言える人は、周りから支えられて環境的に恵まれている人だ。
「母性」は絶対的ではない。自分だって、一歩間違えたら虐待していてかもしれない。
似たような虐待の事件が起こるたびに、苦しいし、悲しい。
そんな事態を止めるには、「困っている、助けて」となりふり構わず言わなければならないし、母子を助ける仕組みが行政の取り組みとして必要だ。
子育ては、1人では出来ない。

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