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ここに幸あり

母に付き添い、デイサービスの見学に行った。

1人で行ってくれれば私は行く必要がなかったが「外に出たくない」「人と会いたくない」と拒絶していたので、私が「一緒にいってみよう」と促した。私自身も、どんなものなのか興味があったこともある。
お母さん、好奇心旺盛な娘でよかったね。

訪れたのは、ケアマネージャーさんが歌の好きな母のために探してくれた、音楽に特化した珍しいデイサービスとのことだった。

車で送迎していただき、一日のデイサービスの流れの中の、午後からの一部分にお邪魔させてもらう。ありがたい。

お部屋に入ると、窓から光のたくさん入るサロンのよう。飾り棚もヨーロッパ風。ソファがあり、うたた寝している方も。
想像していたよりも素敵な場所だなぁ、と私が嬉しくなる。

ざっと15人くらいの高齢者の方がいただろうか。ほぼ女性で、スカーフをしていたり、ブローチをつけていたり、おしゃれしている方も。かわいいな。

スタッフの方は音楽療法士の方のよう。明るい笑顔で歓迎し、お茶を出してくださった。天使。

たまには付き添いの人も来るのか、私がいても誰も気にしない。
母は少し気後れしている様子で、きょろきょろしている。

スタッフの方が気遣ってくださり、楽譜を持ってきて、母のリクエストを聞いてくださった。明るくて優しい。みんな天使。

ピアノの生伴奏で、配られた楽譜を見ながら、みんなでいろいろな歌を歌った。
歌についての説明や、質問などでやりとりしながら楽しく進んでいく。
歌い出したら母も積極的になってきた。よかった。

ピアノの音の響き、一生懸命歌う声の響き。
一緒に歌いながら、なんだか私は胸がいっぱいになってしまった。

隣に座っていたおばあさんが、私に話しかけてきた。
「帰りたくなっちゃった」
「あら。どうしましょうねぇ」とこたえてみた。
そう言いながらもじっとしていらした。かわいい。

何曲かめに「今日、初めてきてくださった方のリクエスト曲です」といって、母が選んだ曲を弾いてくださった。

『ここに幸あり』

嵐も吹けば 雨も降る
女の道よ なぜ険し
君を頼りに 私は生きる
ここに幸あり 青い空

誰にも言えぬ 爪のあと
心にうけた 恋の鳥
ないてのがれて さまよいゆけば
夜の巷(ちまた)の 風かなし

命のかぎり 呼びかける
こだまの果(はて)に 待つは誰
君によりそい 明るく仰ぐ
ここに幸あり 白い雲

作詞:髙橋掬太郎 作曲:飯田 三郎

しみじみする歌だった。
やばい。泣きそう。

お母さん、こんな曲が好きだったんだね。知らなかった。

母の、居合わせた方々の、長い人生の年月に思いを馳せた。

ここに幸あり。
マントラのように唱えてみている。

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