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世界の中心で愛を叫んだけもの

2020年。シンエヴァンゲリオンの本予告が出たときの、困惑と興奮が入り交じったなんとも言えない気持ちを今でも鮮明に思い出す。
宇多田ヒカルの素晴らしい音楽に、主人公シンジが覚悟を決めコックピットに乗っている様を見て、本当に終わるのか…そう思ったのだ。

エヴァンゲリオンには本当に強い思い入れがある。
コンテンツそのものに触れたのは年代的にも親の影響だった。
ちょっと人から見れば変わってる家だったので、父親がserial experiments lainを所持していたり、母親の好きな映画監督が岩井俊二や今敏で、ナウシカの原作のデカい本がリビングに飾ってあって、ロックの趣味はオルタナティブ一辺倒で、でも普通な安室ちゃんの大ファンで…要は多趣味な親という言葉がしっくりくるのかもしれない。
自分の人生で誇れるのはそんな家族だけだったので、偏見の目もなく色んなことをさせてくれた親を尊敬しているし、今は自分も視野を広く、色んなコンテンツに触れることが出来てとても感謝している。
この通り家族一同で敬愛している新世紀エヴァンゲリオンを見て育った過去があるので、今でも鬱要素が強く外部に主張を訴えるような漫画やちょっとニッチな映画やゲームに手を出しがちなのだが…

そんなわけでエヴァンゲリオンは私が影響を受けた作品の中のひとつなのだ。
エヴァンゲリオンのおかげで色んなサブカルコンテンツを摂取し、触れる機会のない聖書を読んでみたりもした。もちろん庵野秀明自身や、庵野秀明に関連するような監督の作品を実写を含めて漁った。ときには対局の思想を持つような監督の作品を漁ってみたりして、エヴァンゲリオンひとつでこんなに原動力が得れるほど凄まじい作品だったのだ。

新世紀エヴァンゲリオンやシト新生、旧劇は、当時の時代背景の流れもあって基本的には陰鬱な空気で進む。大きなテーマである自然境界…自分と他者との境界の話であったり、共存、進化と可能性、愛の形、トラウマ…心理描写の上手い庵野秀明でこそ出来た特別な空気感が、どこか気持ち悪く感じながらすんなり入るようだった。
実際TVアニメ版と旧劇の放送中の当時の反応や批判を受けて、鬱気味だったという話もあるし、共感できるが故に、尚そういった空気感に惹かれてしまったのだと思う。

自我と思春期の間で揺れる子供たち、目的や目標を突き通そうと少しずつ狂ってく大人、90年代特有の終末を待つ中でもがくのか、終わりをまつのか選択させる空気感…そんな描写の虜になったのだ。
そんな色んなテーマや提起があった中、全てを取り払い愛に集結した終わりだったのが新劇場版としての終わり、シンエヴァンゲリオンだ。
個人的には寂しい気持ちや落胆…旧劇を好きだった人間からすると、素直に受け取れたと言えば嘘になるが(実際に今でもそういう反応も見かける訳で)庵野秀明も私も大人になったのだ。あの時大人になったシンジに抱きしめて欲しかったアスカも、先に大人になってしまった。子どものように全てぶっ壊してはい終わり…ではなく、自分の落とし前をつけなきゃいけない。エヴァンゲリオンを好きだった気持ちに落とし前をつけて、前に進まなければならなかったのだ。
そういう意味では、いい帰結のしかただった。なにより、エヴァンゲリオンとしての続きがあり、終わらせてくれたことに大きな意味があった。
時間をかけて自分が受け入れられたのは、終わってくれたことの感謝が大きかったのかもしれない。

シン・エヴァンゲリオン劇場版より

ゲンドウの独白シーンでのセリフは、今でも鳥肌が立つ大好きなシーンだ。~が嫌いだった。から始まる平坦な語り口調は頭の中に話しかけてくるようだったし、電車でシンジを抱きしめる補完のシーンでは毎回見返す度に胸が熱くなり涙が出る。親と子供というものは難しく、血は繋がっているけれどどこか他人である感は拭えないし、でも関わらずにはいられない。愛が分からなかったゲンドウは、言葉の通り接し方が分からなかったわけだ。でも確かに彼は愛を知っていて、それを理解するに至ったのだ。

人間は幸せになると根本的に変わっていく。考え方も思想も、作品の色も…
変わらずいるということは難しい。人間とはそんなもので、変わることが悪いというわけでも、良いという訳でもない。歳をとったり幸せになる人生がある中で、作品の色や期待を同等にクリエイターに求めるのは酷な気もする。
そんな中でこのエヴァンゲリオンという作品がいい形で終わってくれたことに、今ではただ感謝を感じる。

one last kissを聴きながら空を見上げると、私もなんだか前に進めたような気持ちになれて、救われたような感覚になる。
エヴァのない世界を選んだシンジも、エヴァが終わってしまった世界の私も、1歩ずつ変わりゆく世界で生きているのだと思うとまだもう少し頑張ってもいいかな…そんな気持ちになるのだ。

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