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【マンガ業界Newsまとめ】 ピッコマが調達した600億円の使い道は? など|11/21-027

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前回のまとめでこの東洋経済さんのシリーズ記事に「Webtoonはターゲットが既存マンガ市場と違うことが重要」というコメントをつけさせていただいたのですが、続きの記事でしっかりそこが出てきました。失礼しました。

「漫画が好きな人」を狙わないというピッコマの狙いについては、以前より金社長は話されていたのですが、特に今回の資金調達後、アップアーニー社のセミナーなど、業界外の場などでも強調されるようになりました。

やはり出資の際の事業計画には、このターゲティングがこれまでの漫画ビジネスとは違うというのが重要だったのかなとは推測されます。

さて、マンガ業界的にこの記事の中でとても重要な部分がありまして、記事中で「調達した600億円の資金の使い道は?」という質問に金社長が答えられているところがあります。引用させていただきますと。当然海外展開の話は入れつつも、、、

ピッコマではすごく売れる作家もいるが、まったく売れていない作品もある。プラットフォームとしては売り上げの合計値が上がったら成長だが、私たちは上手くいっていないクリエーターに関心がある。なぜ作品が今こうなっているのか、こんな傾向があって、こう変化した、といった情報を作家に提供したい。
(売れていない)下にいる層が増えると、作家になりたい、という人も少なくなるかもしれない。われわれが得た情報を共有することで、中間層に厚くなってほしいと思っている。短期的には私たちの売り上げには貢献しないかもしれないが、中長期的にはこの形で上手くいった作家が生まれれば、私たちにもいいことだ。調達した資金はこういうところに使っていきたい。
グローバルな展開も視野に入れている。(略

ピッコマは、運営の姿勢そのものが「データを活用する」ところの強い会社であったため、実は運営開始当初から直接取引している会社に対しては、販売データを積極的に、かつ素早く開示していました。一緒にデータを活用して良いビジネスをしようと言う姿勢だったのだと思います。

ここでは「上手く行ってない作家に情報を提供したい」ということを述べられています。ピッコマ社は元よりピッコミックス社というWebtoon制作会社を国内に作っていますが、このニュアンスからすると、より以上に作家に対する情報提供を広げていこうと考えていることが判ります。

これが、今回の大きな調達金額を資金源として行われることを考えると、またひとつこれまでなかった大きな取組が仕込まれているのではないかと、楽しみになります。


今度はLINEマンガのWebtoonの話題です。もともと、LINEマンガインディーズなどの取組で積極的にWebtoonでの新人獲得を行っていたLINEマンガですが、今回は縦読み作品に限って賞金の増額をするなど、引き続き力を入れています。

ここでもやはり、「従来のページマンガとウェブトゥーンは対立するものではない」とされ、1話1話のペース、スポーツ漫画などの表現の向き不向き、ギャグマンガとの相性など、制作や販売面におけるWebtoonの特徴を具体的にコメントされていて、勉強になります。

最近はWebtoonの部署を立ち上げる会社が相次いでいますが、こうした具体的なノウハウについて発信をすることによって作家の信頼感を得ていくということも、編集部・編集者の重要な役割となってきたなのではないでしょうか。

それにしても、この小室稔樹さんの画像は、サイトや記事からWeb広告まであらゆるところで良く見ます。編集者がこういう形でキャラとして出されるのは最近の潮流の中でも珍しく、これもWeb時代の戦略なのでしょう。良いキャラですね。


電子書籍業界の老舗中の老舗、ebookjapanもWebtoonでオリジナル作品へ展開です。

作家陣としては、カレー沢薫さんや韓国の作家さんなど、従来は大ベテラン作家の作品を独占配信などしていて独自のポジションをとっていた形とはどこか違う作風の作家がラインナップされています。

また、©を見ると、ロケットスタッフ社のようなWebtoon制作スタジオもレーベルに作品提供していることがわかります。

ちなみに、ひとつ前のLINEマンガとこのebookjapanは、ZホールディングとLINEの関係性から、経営統合→システム統合まで発表済みです。もしかするとそのあたりもある程度意識して、双方でオリジナル作品を制作しているのかもしれません。知りませんが(「知らんけど」のニュアンスで)


アニメ業界のニュースなのですが、昨今Webtoon市場の拡大にからめて一つ。

アニメ市場が伸びた理由は「配信」による販売が伸びたためと述べられていますが、これはもう少し具体的に踏み込むと、いわゆる円盤と言われていた「国内のDVD」の売上が下がったことに対して、「配信、別けても海外への販売額が上がった」とのことで、これらが取って代わったと言えると思います。

構図的には、現在の漫画業界における、海外向けの販売拡大が期待されているWebtoonが伸びていくところに少々似ています。

思い起こせば2012年ごろ、私はアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」にお仕事で関わっていたのですが、当時国内のDVDがなかなか売れなくなってきたのに対して、まどマギやSAOなどが中国のbilibili動画では爆発的なPVを記録し始めたり、CrunchRollなどの配信売上の比率が、毎年倍々ゲームで向上している状態を、アニメ製作会社などが熱く注目していたことを思い出しました。

現在のWebtoonの動きは、所謂NetFlixなどの配信プラットフォームが全世界で浸透し、その売り上げを日本の各社が無視できなくなる、少し手前の状態の空気感に似ています。R氏の「フフフ……この風、この肌触りこそ戦争よ!」みたいな感じでしょうか。各社さんが滾るのもわかるような気がします。


先日、集英社が「漫画BANK」への情報開示請求を行った結果、漫画BANKがクローズしたということをお知らせしました。

それを受けて、KADOKAWA、講談社、小学館も加わり4社の顧問弁護団声明を発表しました。きちんとした刑事摘発を狙うということで、それは間違いないことですので、きっちり追い込んでいただきたいと思います。

同じ海賊とは言え、こちらは同人に関する話題です。同人作品の海賊版についての顛末が出ているのですが、記事中平野弁護士が、海賊版を見かけた時の証拠保全について説明しているくだりがあります。

平野弁護士:もしも自分の作品が転載されているのを見つけたら、まずはTwitterなどで騒いだりしないで、落ち着いて“URLと撮影時間が分かる形で”証拠を保全しておくことが大切です。少なくとも、サイトのスクリーンショットを“ブラウザのURL込みで”撮っておく。

そうしないで、SNSでツイートしたりすると、証拠隠滅の時間を与えてしまうということで、なるほどと思いました。実践的です。なるほどですねと。


先日DLSiteが発表したファン翻訳の形ですが、今度は自動翻訳サービスのスタートアップMantra社が提供する翻訳エンジンを使用して、小学館がファン翻訳に乗り出すという取組です。

敢えて言いますが、これまでスキャンレーション(ファン翻訳のマンガ版の呼び名)をしている一般人をビジネスに取り込んでいく形は、星の数ほど試行錯誤がされましたが、ほとんど上手くいきませんでした。

そもそも、海外で漫画を有料で売るという行為がなかなか伸ばしにくい分野であったりして、収益化がはかりにくいなど、沢山の障害がありました。

一方で、Mantra Engineなど、翻訳自体を効率的に行う仕組みや、既に出来ているスキャンレーションコミュニティのDiscordに入り込んでいくなど、数多の失敗の歴史を踏み台というか前提として、新しい取り組みをしているようにも見て取れます。

歴戦の小学館も過去のそうした歴史は十分に踏まえて取り組んでいることでしょうし、集英社のMangaPlusの取組など、海外の海賊版の問題は単純な損得だけでははかりきれない目的が設定できる取組です。

そうした意味で、新しいテクノロジーと、現在の情勢を踏まえた取り組みは継続的にあってしかるべきものかと思います。あきらめたらそこで試合終了ですからね。他同様、この取組にも期待大ですね。


BL同人誌作家の半分が、スカウトされたら商業デビューをしても良いと考えているとのこと。興味深い数字です。

また、これは11/30にウェブセミナーで説明されるものとのことなのですが、同人作家の「デビューの条件」があるとのこと。

これは、商業作家を目指しながら習作として同人作家をやってる人もいれば、純粋に同人作家として活動しているが、話によってはプロの仕事をしても良いというところまであり、その間にもグラデーションや違う方向性などもあり、簡単ではないということなのだと思います。

同人誌作家が商業作家になるということについては、そこで作家としての業のようなものをどのように仕事に取り入れるのか?それは横に置けるものなのか?そもそも商業作家と同人作家はどう違うのか?という、これはもう創作の深淵をのぞくごとき重たいテーマだと思います。

最近は、BLについて語る学会やウェブセミナーなどでこうした話を聞ける機会が増えました。勉強しようと思えば勉強できる環境になったというは、大きな変化だなと思いますが、なかなかどっぷり作品に入り込むということは、男性としては難しいですね。

私は仲の良いBL小説家さんの作品を、毎回買うのですがなかなか読めないのです。いつかしっかり読んでみたいとは思っているのですが。。


この記事は、出た時にはちょっと話題になりましたね。多くの方がコメントしていましたが、マンガ市場のDX真っ盛りの中、紙の部数だけで媒体の趨勢を論じても全く意味が無いというか、どちらかというと悪意ある誤情報みたいな感じです。

こちらは、毎度おなじみ不破雷蔵さんのグラフ化シリーズによる、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数の2021年7月~9月分のデータです。

こうしてデータで見ると『進撃の巨人』の最終回の影響で別冊マガジンが伸びてるな?とか、ウルトラジャンプが伸びてるけど、原因は何かな。とか、コロコロが低調だけど、そういえば最近九州方面からゲーム系の子供向け新規IPが出てないな、など、こう見れば読み取れるデータは沢山あります。

少し戻してジャンプの話ですが、例えばジャンプ+の中には週刊少年ジャンプを月額980円で読むことが出来るサービスがあります。アップアーニー社が発表しているジャンプ+の売上から推測すると、それだけで数十万部相当の週刊少年ジャンプが販売されていることになります。

現在のジャンプ+は、アプリが1700万ダウンロードされ、1話更新するたびに100万PVを稼ぐ作品が3作品連載されています。単純な売上や作品を届ける力において、最早紙雑誌の部数だけを論じても意味がないでしょう。

また、週刊少年ジャンプ編集部とジャンプ+編集部はほぼ同体と見て良い組織なのですが、その中から「ジャンプの漫画学校」や「WorldMaker」など新しいサービスが次々生まれています。それら総体で媒体の力を見ないことには正しく評価しているとは言えないでしょう。


そしてまた、ジャンプ+編集部からMangaFolioという新しいサービスが生まれました。

新人からプロの作家の中で「自分はジャンプデビューしか目指さない」みたいな、振り切り戦略をとる作家さんも随分減ってきました。そうした人はのぞき、普通の作家が自分を売り込んでいく際、一番最初に作るべきがポートフォリオです。自分の作品一覧ですね。私も実は、この記事の一番下に自分のをつけています。

通常は、自分の作品の画像などを沢山収めたデジタルファイルを作ったり、Blogなどにまとめたりするのですが、このMangaFolioでは、媒体やインディーズなどに分散した作品を一覧させることができます。SNSで出すと、綺麗なサムネイル画像ができるところなど、良く分かってらっしゃるなと思います。

森もり子さんの使用例です。サムネが綺麗です。


『SPY&FAMILY』『チェンソーマン』『青の祓魔師』など、ジャンプ+のヒットメイカー、編集者の林士平さんのつくった「WorldMaker」の記事です。

誰でも気軽にネームが作れるWorldMakerですが、わたしも作ってみました。

こういうものが簡単につくれるのがWorldMakerの力ですね。

記事の中で目を引いたのが、聞き手が「この取組を始めた理由は人材の確保(新人獲得)ですか?」と聞いたことに対しての、以下の答えでした。

人材の確保のような意図はまったくないですね。一応、最初に企画を通した時のロジックとしては「1人の天才が生まれたら、この程度の投資は一瞬で回収できる」でした。才能に投資している会社なので、誰も否定できないかなと(笑)。

これはですね、例えばIT企業とかで一度でも働いたことがある人にとって、予算をかけて企画を行う場合、「予算〇万円使うので、新人を〇〇人獲得します」みたいな話は、セットというか、ともするとそんなことばっかり考えて仕事をしています。

しかし、林さんは一言「1人天才が生まれればよい」と。そして、まわりもそれで企画を通すというこの感じは、やっぱりジャンプが強い理由なのではないかと思います。

ジャンプと戦っている全てのプレイヤーはこの考え方や姿勢と戦っているということを、強く意識する必要があると思います。紙の部数とか、そういう部分的なことはどうでも良いのです。

それと「集英社は儲かってるから」とか一言で片づけてもだめです。確かにそうなんですが、IPを作るなら一度は真面目に、いや常に真剣に考えてみる価値のある「差」だと思います。


この記事、そもそも「全巻漫画.com」と「漫画全巻ドットコム」という会社が別々にあるということを私は知りませんでした。ひとまず、激レアさんに社長さんが出ていたのは「漫画全巻ドットコム」さんのようですね。

形的に、薄利多売が求められ、しかも難しい古書を全巻集めるという難題にチャレンジされている会社さんですので、ちょっとしたバランス崩れで大きく変わるのだろうなとは思いました。


最後は身内ネタですが、主催しているIMARTについて、IMART+というスピンオフ企画をやります。現在12月までに3つの企画を既に発表しているのですが、ひとまず来週すぐに開催するのがこちらです。

よろしければご覧くださいませ。

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