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オリジナル短編小説 【天使に守護されている旅人ちゃん 〜小さな旅人シリーズ2-00〜】

作:羽柴花蓮
ホームページ:https://canon-sora.blue/story/

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「ねぇ、リック。天使に守護されている旅人って誰かしら?」
 万里有と征希が旅立ってもう数年経つ。その間にいろいろな事が起きた。最近の大事件は、赤ちゃん騒動である。一姫の大学卒業を待って、つい先日まで個室だったが、遠距離ならぬ、近距離赴任の状態は悪かろうと、夫婦にダブルベッドのある家族用個室に移ってもらった。それぞれの結婚式は万里有のようにごくごく内輪で行われている。万里有と征希はリモート参加だったが、それほどMBAを取るのは大変なようだ。そんなダブルベッドのおかげで亜理愛と一姫は今、妊娠中である。春遅しといえど、まだまだ若いママとパパである。そして、大河と大樹の会社は軌道に乗り始め、平会社員、武藤は結愛と交際中である。
いつも通りに旅人は来て、また去って行く。夫達は会社のため三人の女性で旅人を迎えていた。リチャードは長期間のリハビリでやっと普通に生活できるようになった。さらなるリハビリと言うことで大河達にこき使われている。しかし、体調を考慮して出勤時間はまだ短い。おかげで女性の中で一人、ぽつんと旅人を迎えている。

 マーガレットは恋占いが出来るようにはなったが、あえて書いていない。陽だまり邸に来る常連客も増えてきた。旅人の役目を終えて自由になった客がよく訪ねるようになっていた。青木姉妹は特に良く来る。お茶会が気に入って時間があれば来ている。森美樹はさらなる修行を目指してフランスへ旅立った。そういうことで、定番のタルトは現在ない。お気に入りの店を探索中だ。
 マーガレットもリチャードと結婚したが、まだ、子には恵まれていない。二人は新婚生活を楽しんでいた。
 そんな陽だまり邸のマーガレットが指定席でカードと戯れていると「Protected by angels」のカードがこぼれ落ちた。
「天使に守護されている旅人ねぇ・・・。それだけ恵まれていれば背中の後押しなんていらないのに」
 そう言いながら、マーガレットはカードをじっと見つめていた。

 一方、例の看板を愛おしそうに撫でている女性がいた。万里有である。征希はお土産が大量に入ったスーツケースを守っている。
「勝手に入っていいのかしら?」
「いいだろう。元、ルームメイトなんだから。それよりこの荷物をなんとかしてくれ」
「はいはい。さっさと入るわよ」

 あなたの背中を押します。
 
 といういつも通りの看板にもう一度触れるとドアを開け放つ。
「ただいまー!!」
 住人にはまたきーん、と頭に直接届く声つきである。屋敷にいるメンバーが全員玄関に押し寄せる。
「マリー!!」
 文句は言いたいが、やっと会えた幼なじみにそんなことはどうでもよかった。懐かしい三人との再会だ。リチャードはあまり会っていないため、後ろの方に立っている。
「リック。この荷物をなんとかしてくれ」
「征希、元気だったか?」
 ペラペラの日本語でリチャードは話す。
「元気も元気。やっとMAB取れた。兄貴達にはまだ内緒なんだ」
「そうなのか。故郷に錦を飾るというところか」
「リック。そんな古い言葉どこで覚えたんだ」
「征希の兄たちから」
「古くせー」
「さぁ、中に入って。また部屋を考えないといけないわね」
「シェアハウス、まだしてるの? 私はマギーに子育てして欲しいっていわれてたの思い出したから来たんだけど・・・。」
 万里有が問いかける。
「ええ。大河と大樹と私達だけだもの。部屋は有り余っているわ。マリーはどこか住むところ決めているの?」
「だったら、ただいま、って言わないわよ。もちろんここに当分住むわよ。征希が大きな一軒家を建ててくれるまで。そういえば、機内のリーディングで「蝶のスピリット」が出たけど、私、何か変わったかしら?」
 見た目は髪の毛が少し短くなったぐらいだ。メイクの腕もアップしてるが。
「『蝶のスピリット』? キーワードは何?」
 慣れたもので、一姫が聞く。
「『変容』よ。生まれ変わる前の浄化の一つ、だって。私、変わったところ一つもないんだけど?」
「不正出血あった?」
「え? この間少しあったけど、気にする程度じゃないでしょ?」
「あるのよ!」
 一姫は中にすっ飛んでいくとまたすっ飛んで帰ってきた。
「一姫?」
 渡されたのは妊娠検査薬の箱である。いつそんなもの入手したのかが不思議である。
「まずは検査。一週間の精度があるから多分、解るわよ」
「?」
 万里有には何のことだかさっぱり解らない。まさか・・・。期待と不安が交差する。
「いいから、早く」
 せかされるままに簡易検査をする、万里有である。戻ってくると征希の首にかじりつく。
「征希。赤ちゃんよ。妊娠したの」
「はい。荷ほどきはしてあげるから、万里有と征希は産婦人科へ」
 一姫が回れ右をさせる。
「って。足がない」
 要するに車、のことである。
「歩いて五分の所に病院出来てるわよ。私もアリーもそこで診てもらってるもの。リック、案内してあげて」
 一姫の人使いが荒いのは変わらないようだ。
「診てもらっているって。姫とアリーも?」
 万里有の口からこぼれるニックネームも懐かしい。
「最近解ったのよ。もう、妊娠四ヶ月よ」

 あちゃー!!

「だから頭で叫ばないで! 流産したらどうするの!!」
「しないわよ。姫のしぶとい子なら」
「なんですってー!」
「はいはい。姫、落ち着いて。マリー、リックと一緒に行ってきて」
 亜理愛がなだめる。
「わかった。パパ、行くわよ」
「パパ・・。パパ~」
 征希は夢想中である。
「リック、征希を引っ張ってきて」
 夢想している征希を引っ張りながら万里有に産婦人科を案内する。
 そこは静かな産婦人科だった。リラックスミュージックが流れ、人であふれかえってはいなかった。
「落ち着くわねー。ねぇ、征希」
「あ、ああ」
 まだ夢想中のようだ。
 検査をするように言われ検査をして診察室に万里有は呼ばれた。エコーにぴょこぴょこしたものが映る。
「あかちゃんの心臓ですよ」
「あれが、心臓・・・。本当に妊娠したんですね」
「お? 心臓が二つですね。双子です。おめでとうございます。旦那さんを呼びますか?」
「お願いします」
 征希が入ってくる。
 一緒にエコー画像を見る。
「これが私達のベイビーよ。双子ですって」
「名前、どうしようか」
「一姫か亜理愛が辞典を持ってるから借りればいいでしょ」
 そう言ってる間に征希は追い出される。
「保健所で母子手帳もらってきて下さい」
 と言われて診察室を後にした。

 初産のためなにもかも初体験だ。おまけに頼りになる母はもういない。
 来た道を戻る。戻るなり叫ぶ。
「車貸して~!!」
「だから、何度言えば解るの!」
 一姫が出てくる。
「リックのの車が残ってるから借りれば? 保健所はわかるよね? 移転してないから」
「ええ。リック、車かしてー」
「いいよ。万里有、いつもそうして叫んでいるの?」
 ううん、と万里有が返事する。
「ただ、リーディングを重ねるうちになにか力が付いたのか身内向けの声ができちゃったのよ」
「最強の夫婦よ」
 マーガレットが微笑みかける。
「天使に守護されている旅人ってその赤ちゃんかもしれないわね」
「言われてみると、赤ちゃんって純真な存在だものね。その子の名前天使ちゃんってつけようかしら。あ。二つ考えなきゃ。双子なんですって」
 万里有が考え出すと、周りは必死で止めようとする。
「海外の子じゃないだから、エンジェルとかは使えないわよ」
日本人なのにマーガレットという名前のマーガレットが言う。
「エンジュは? そういう植物あるじゃない」
「性別解らないうちから考えるとあとが大変よ。私と大樹はそれで一度大ケンカになったから」
「大樹と一姫がケンカ・・・。この世が終わる」
「なに、ノストラダムスの予言みたいな事言ってるの。我が家は無法地帯じゃないわよ」
「絶対無法地帯」
「なんですってー!」
 一姫が万里有を追いかけ回し始める。
「この追いかけっこも戻ってきたのね」
 マーガレットがため息をつく。
「何か言った?」
 地獄耳の万里有が聞く。
「スケールアップして戻ってきたのね。リーディングまかせようかしら」
「それは無理。絶対無理。マギーとのシンクロしなきゃできないっ」
「そんな必死に言わなくても」
 亜理愛が言う。
「だって。マギーの解釈聞いてからしかわからないもの。私、まだガイドブック覚えきってない」
「って、何年、向こうにいたのよ。リーディング練習の時間は十分あったはずよ」
「旦那をささえる新妻してたからそんな暇なし」
「征希って支えるところあったの?」
 一姫が言うと皆、うんうんと頷く。
「あるわよ。英語まったく出来ないんだもの。よくそれで資格取れたわ、と思ったもの」
「会話と字は違うんだ」
「講義、英語なのに?」
 うっ、と痛いところをつかれた征希である。
「まぁ、いいわ。名前を考えましょうか。天使に守護されているちっちゃな旅人ちゃんの。て二ついるのね」
「旅人ちゃんって・・・」
 万里有が、マーガレットの頬が緩みきっているのを見て言う。
「うちの子はあげませんからね」
「貸してはくれるでしょ? 片方ぐらい」
「結婚してるんだから、自分で産んで」
「自分でも産むけどマリーの子は私の子と一緒よ。そうだ。天音ってどう? 天使の天が入ってるわよ」
「それ、自分の子につけたら?」
 じとっとマーガレットを見る万里有である。流石に我が子をシェアする気はないようだ。
「だって。天音ちゃん、天使に守護されている旅人ちゃんよ。私の子にはまた別の旅人の名前が付いてるわ」
「ダメって言ったらダメー。家出するわよ」
 それを言われると流石に弱いマーガレットである。
「マギー。マリーの赤ちゃんはマリーの子だよ。僕達でちゃんと産んであげればいいんだから」
 リチャードが間に入る。征希は天音ちゃんと妄想の中でヴァーチャルパパを体験をしている。
「お土産、実家に送るわよ。食費になると思ってかなり買ってきたのに」
 う、と今度は珍しくマギーがうなる。このシェアハウスの住人はお嬢ちゃんお坊ちゃんだ。高級志向のため、生活費は爆上がりだ。夫達は静々生活しているが妻達はやりたい放題。経営難に陥りそうだった。よく持った方だとマーガレットも思う。
「山のように常温食材買ってきたんだから。いらなかったら実家に持ち込むわ」
「マ、マリー、小さな旅人ちゃんたちの命名権は放棄するから食材頂戴」
 必死で言うマーガレットに万里有は笑いがこみ上げる。
「マギー、そんなに生活に困るなら、お父様達に頼めるわよ。大河達だって稼いでるんだし」
「それはい・や。管理人としてのプライドがあるわ」
 明るい性格になった新たなマーガレットを見て、万里有は急に抱きしめたくなった。征希もそれは解ったらしく、ぽん、と万里有の背中を押す。一緒にマーガレットを見ていただけはある。
「マ、マリー?」
 突然抱きしめられて、マーガレットはうろたえる。
「ただいま。親友さん」
「お帰り。親友さん」
 二人の紡ぐ旅人の物語が再び始まった。


【Fin.】

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