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オリジナル短編小説 【祝福を受ける旅人 〜小さな旅人シリーズ15〜】

作:羽柴花蓮
ホームページ:https://canon-sora.blue/story/

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「お。終わった~」
 テラスルームで万里有は背伸びして言った。
「こっちも終わったー」
 亜理愛も言う。
「あ。提出どうする?」
「?」
 亜理愛に聞かれるが、万里有にはピンとこない。
「征希と一緒に行ったら?」
「じゃ。アリーは大河と?」
 ううん、と首を振る。
「大河は明日、会社だから」
「そっか。四月から立ち上げるのよね。亜理愛はそのまま新妻生活? 就職生活?」
「迷ってるの。大河はすぐに挙式するって以前、言ってたけど、どうせならジューンブライドがいいしね」
「夢見子ちゃんね」
「そっちこそ」
 額をくっつけ合わせて笑い合う。従姉妹ということだけあって絆は一姫より深い。一姫には申し訳ないが。
「お互い、幸せね」
「マリーが幸せになってくれてうれしいわ」
 亜理愛が愛情込めた目で言う。
「全部、悪いところひっかぶってるんだもの。マリーがいなかったら誰も幸せになれなかった」
「当分、遠距離恋愛だけどね」
 征希は春が過ぎるとアメリカに行って関係事務所にを通いながら受験を目指す。別れる日が近づいていた。
「なんとかならないの?」
「ならないの。征希も私がここでマギーの支えになる事を望んでいるの。もう、一人には出来ないわ。危なっかしいんだから」
「マリー。アリー。卒論は終わったの?」
 噂をすればなんとやら、だ。
「やっと終わった。明日提出にいくわ」
「俺、一緒に行く! 俺も~」
 子犬と化した征希がマーガレットの後ろから言ってくる。
「困った子犬さんね。いいわよ。アリーもその方がいいって言ってるみたいだし」
「やりー。明日寄るところあるから」
「?」
 万里有が不思議そうに見るが征希は鼻歌を歌って戻っていく。
「変な征希」
 どこへ行くかマーガレットも亜理愛も聞かされていた。卒業式の後のサプライズも含めて。犠牲を払ってくれた妻への最大のお返しだ。まだ、妻ではないが。

翌朝から気持ちのいい早春の空を仰いで万里有はこれまでの事を思い出していた。

ここでこの言葉を見つけたんだっけ。あなたの道を後押しします、と。

 あの言葉が私を変えてくれた。ありがとう。看板さん。

 看板を撫でていると征希が飛び出てきた。
「ごめん。万里有。寝坊した」
「困ったお寝坊さんね。置いていく所よ」
「追いかけるから大丈夫。どこまでだってついて行くから」
「征希」
「マリー」
「はいはい。その続きは提出後ね。じゃ、大河、行ってきます」
 大河は新妻の朝のキッスを受けて嬉しそうにしている。
「あれ、するの?」
 万里有が言う。恥ずかしすぎる。
「万里有が嫌ならしなくていいよ」
「征希のそういうところが好きー。デートしながら行きましょ」
「じゃ、手、な」
「うん」
 幼稚園児のような恋人の行動に一姫が呆れている。
「あれじゃ、結婚できないんじゃない? 万里有が純粋すぎるわ」
「それはまだ、内緒の言葉だ。私にはないのか? 朝のキッスは」
 大樹が言う。
「あるわよ。会社がんばってきてね」
 背伸びして頬に軽くキスをする。満足そうに頷くと大樹も大河とともに出社した。

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